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  • 2025/09/09 掲載

ネオバンク「Chime(チャイム)」とは? メガバンクも震える「銀行業界革命」の仕組み

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「隠れた手数料」を完全廃止し、従来の銀行業界に革命を起こしたChime Financial(チャイム・フィナンシャル)が注目を集めている。月額手数料も最低残高要件も無しという、従来の銀行では考えられないサービスで多くのユーザーを虜にしているが、実はその裏には巧妙な収益モデルが隠されている。2025年には念願の上場も果たし、第2四半期の売上高は前年比37%増の5.3億ドル、アクティブメンバー数は前年比23%増の870万人に急成長を遂げた。この急成長する先駆的なネオバンクの詳細と同社が描く将来戦略、立ちはだかる課題の全貌を明らかにしよう。
執筆:田中 仁

田中 仁

大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスでの勤務経験もある。IT業界やテクノロジーにも精通。

  構成:ビジネス+IT編集部
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銀行業界に革命をもたらした「Chime(チャイム)」とはどのような企業なのか
(Photo:PJ McDonnell / Shutterstock.com)

手数料ゼロとモバイルファーストで躍進するChime Financial

 Chime Financialは、従来の銀行業界に革命をもたらした米国最大級のネオバンク(デジタル専業銀行)だ。2012年の創業以来、「手数料ゼロ」と「モバイルファースト」を掲げ、従来の銀行が見落としていた中低所得層にフォーカスした金融サービスを展開している。ネオバンクとは、実店舗を持たずにデジタル技術を活用して金融サービスを提供する新しい形態の銀行のことで、注目すべきフィンテック企業の代表格といえる。

 同社の最大の特徴は、月額手数料や最低残高要件を一切設けない完全無料の当座預金口座サービスにある。さらに、給与の2日前受取機能や、残高不足時の自動立替サービス「SpotMe」など、従来の銀行では考えられない顧客目線のサービスを次々と導入してきた。

 これらの革新的なアプローチにより、2025年第2四半期時点でアクティブユーザー数は870万人に達し、前年同期比23%の成長を記録している

売上37%増、上場も果たした最新業績データ

 Chime Financialの正式企業名は「Chime Financial, Inc.」で、2012年にカリフォルニア州サンフランシスコで設立された。2025年6月12日にナスダック証券取引所に上場を果たし、ティッカーシンボル「CHYM」で取引されている。本社はサンフランシスコに置き、現在約3000名の従業員を抱える規模まで成長している。

 2025年第2四半期の業績を見ると、売上高は5億2,815万ドル(約778億円)を記録し、前年同期比37%の大幅増収を達成した。過去12カ月間の累計売上高は19億4,000万ドル(約2,860億円)に達しているという

 一方で、急速な成長投資により9億2,300万ドル(約1,360億円)の純損失となっているが、調整後EBITDAは黒字転換を果たしており、収益性改善の兆しを見せている。

正式企業名 Chime Financial, Inc.  
設立年 2012年 サンフランシスコにて創業
上場日 2025年6月12日 ナスダック(CHYM)
従業員数 約3000名 2025年時点
売上高(Q2 2025) 5億2,815万ドル 前年同期比+37%
年間売上高(TTM) 19億4,000万ドル 過去12カ月累計
アクティブユーザー数 870万人 前年同期比+23%
顧客単価(ARPAM) 245ドル 前年同期比+12%

「隠れた手数料」をなくした創業者の理念と挑戦

 Chime Financialの創業者は、CEO(最高経営責任者)のクリス・ブリット氏とCTO(最高技術責任者)のライアン・キング氏の2人だ。ブリット氏は以前、ソーシャルネットワーキングサービス「Plaxo」でプロダクト責任者を務めた経験を持ち、キング氏はスタンフォード大学で修士号を取得したソフトウェアエンジニアとして、同じくPlaxoで10年間の開発経験を積んでいた。

 2人が起業を決意したきっかけは、米国の伝統的な銀行システムが抱える根本的な問題への強い危機感だった。特に、月額手数料や最低残高要件、ATM手数料など、中低所得層にとって大きな負担となる「隠れた手数料」の存在に着目した。ブリット氏は「給料日まで生活する人々が、銀行から罰金のような手数料を取られるのはおかしい」と語っており、この理念が同社のビジネスモデルの根幹となっている。

 興味深いことに、Chimeの正式なサービス開始は2014年4月15日の「Dr. Phil Show」というテレビ番組での発表だった。これは従来のフィンテック企業とは異なる、一般消費者に直接訴求するマーケティング戦略の表れでもあった。

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【詳細はこちら】ナスダックに上場した際のオープニングベルを鳴らすときの様子
(出典:NASDAQ

手数料廃止モデルが生んだ圧倒的支持

 Chime Financialが業界で注目を集める最大の理由は、従来の銀行が収益源としてきた「手数料ビジネス」を完全に否定したビジネスモデルにある。米国の伝統的な銀行では、月額維持手数料、ATM利用手数料、残高不足手数料など、さまざまな名目で顧客から手数料を徴収するのが一般的だった。

 しかし、Chimeはこれらの手数料を一切廃止し、代わりにデビットカード決済時に加盟店から受け取るインターチェンジフィー(決済手数料の一部)を主要な収益源とする革新的なモデルを構築した。

 この戦略が功を奏し、特に年収10万ドル以下の中低所得層から圧倒的な支持を獲得している。同社の調査によると、アクティブユーザーの67%がChimeを主要な金融機関として利用しており、これは顧客ロイヤルティの高さを示す重要な指標だ。

 さらに、給与の2日前受取サービスや、残高不足時に最大200ドルまで自動的に立て替える「SpotMe」機能など、従来の銀行では考えられない顧客目線のサービスを提供している点も大きな差別化要因となっている。

API連携で広がる金融サービスの新しい形

 Chimeが提供するサービスは、単なる銀行口座にとどまらない包括的な金融エコシステムを形成している。主力サービスである手数料無料の当座預金口座「Chime Checking Account」を中心に、高金利の貯蓄口座「Chime Savings Account」、クレジットヒストリー構築支援の「Credit Builder Card」、そして2025年3月に新たに導入されたプレミアムサービス「Chime+」まで、幅広いニーズに対応している。

 特に注目すべきは、ITエンジニアにも馴染み深いAPI(Application Programming Interface)を活用した外部サービス連携機能だ。家計管理アプリや投資プラットフォームとのシームレスな連携により、ユーザーは1つのアプリで包括的な資産管理が可能になっている。また、リアルタイム通知機能や、紛失時の即座カード停止機能など、モバイルアプリならではの利便性も大きな魅力となっている。

 以下がChimeの主要サービス一覧だ。

Chime Checking Account 月額手数料無料の当座預金口座
Chime Savings Account 年利3.75%(Chime+会員)の高金利貯蓄口座
Credit Builder Card クレジットスコア向上支援のセキュアドクレジットカード
SpotMe 最大200ドルまでの残高不足時自動立替サービス
Early Direct Deposit 給与の2日前受取サービス
Chime+ 月額12.95ドルのプレミアム会員サービス
Pay Anyone P2P送金サービス
Mobile Check Deposit モバイルでの小切手入金機能
【次ページ】上場初日37%高騰、市場が評価した理由
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