• 2026/01/11 掲載

「給料は上がったのに生活苦しい……」、やはり実質賃金はマイナスだった(2/2)

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丸亀製麺のうどんや崎陽軒のシウマイ弁当も値上げ

 身近な「具体例」は、統計より早く家計に届く。丸亀製麺は2026年1月14日から、うどんなど一部商品の価格を10~50円引き上げる。釜揚げうどん(並)は370円から390円へ、かけうどん(並)は420円から440円へ、きつねうどん(並)は590円から640円へ改定する。

 同社は原材料価格や人件費、物流費、エネルギーコスト、為替変動の影響が長期化していることを理由に挙げている。

 崎陽軒も値上げを発表した。看板商品の「シウマイ弁当」は2026年2月1日から1,070円から1,180円へ110円上がる。タマネギや干しホタテ、弁当用のコメなど原料高が背景にあるとしている。

 外食や中食は、家計の「裁量支出」に見えて、忙しい共働き世帯ほど依存度が高い。価格がじわじわと上がれば、節約の対象になりやすい一方で、代替が難しい局面もある。

 どの支出が負担を増やしているのかを考える際は、食料品だけでなく、エネルギー、住居関連、教育、通信など固定費の積み上がりも見逃せない。だが、実質賃金の議論で焦点になりやすいのは「生活必需品の値上げは避けにくい」という点だ。

 買わない選択が取りにくい品目の価格が上がるほど、賃上げの恩恵は相殺される。値上げ予定品目が前年同時期より減ったとしても、生活の現場では「値上げが続く」印象が残りやすいのはこのためだ。

可処分所得を守る報酬設計の工夫

 ここから先は、実質賃金が下がりやすい局面でも、従業員の可処分所得を守り、離職を抑えるために企業が取り得る工夫を、公開情報から整理する。賃上げは重要だが、総額の引き上げには限界がある。そこで注目されるのが、(1)住居・通勤など生活コストに直結する補助、(2)税・社会保険の「設計」で手取りを毀損しにくくする運用、(3)金銭以外の実質価値を増やす仕組み、の3層だ。

 第1に、住宅手当や家賃補助、通勤手当の見直しは、家計の固定費に直接効く。特に都市部の住居費は可処分所得を圧迫しやすく、給与のベースアップと別枠で「目的を絞った支援」を設けると、体感改善が出やすい。福利厚生として社宅制度を運用する企業もあるが、採用競争が激しい職種では「勤務地と住居の選択肢」を広げる手当設計が差別化になりやすい。

 第2に、税制や社会保険を踏まえた運用だ。たとえば、通勤費の扱い、在宅勤務手当、食事補助などは、制度設計次第で従業員の手取り感に差が出る。ここでの論点は「手当を増やす」こと自体ではなく、支給目的とルールを明確にし、透明性の高い運用で納得感を高めることにある。物価高局面では、会社側の都合で一時金を出しても、翌年に剥落すれば不満が残る。継続性と説明可能性が、賃上げ以上に効く場合がある。

 第3に、金銭以外の実質価値を増やす手法だ。代表例は、働き方の柔軟性(リモート、時差勤務)、学習支援、健康支援、育児・介護との両立支援である。これらは直接の賃金ではないが、時間の使い方や外部支出を減らし、結果として可処分所得の実質価値を底上げする。

 社員満足度が高い企業に共通するのは、賃金と同列に「生活の不確実性」を減らす施策をセットで整備している点だ。物価上昇の局面では、賃金の伸び率だけでは競争力が測れない。

賃上げが続く業界・止まる業界

 賃上げが続く業界と、そうでない業界の差は、短期的には業績と人手不足の強さに左右される。ただ、2025年の賃上げ局面を振り返ると、企業の体力だけでなく、価格転嫁の可否、付加価値を生むサービス構造、そして人材の流動性が格差を拡大させる。

 公開情報を読み解く上での近道は、(1)価格改定の頻度、(2)人件費比率の変化、(3)採用市場での需給、の3つを同時に見ることだ。

 外食や食品のように、原材料・物流・人件費の上昇が一体で効く業界では、価格改定が繰り返されやすい。丸亀製麺のような全国チェーンが値上げを実施する局面は、コスト上昇が一過性ではないことを示すシグナルになる。

 同時に、値上げが可能ということは、一定の需要が見込める、あるいは代替されにくい強みがあるとも読める。価格転嫁が進む企業ほど賃上げ余力を残しやすい一方、転嫁が進みにくい領域では賃上げが「続かない」リスクが高まる。

 転職市場への影響も見逃せない。実質賃金がマイナスの間、働き手は「賃上げ率」だけでなく、手当・制度・勤務地・成長機会を含めた総合条件で判断する傾向を強める。賃金は上がっているのに生活が楽にならない局面では、転職動機が「年収」から「生活の安定」へ移ることもある。業界選択では、賃上げ実績の有無だけでなく、価格転嫁や生産性改善の余地、そして物価上昇に対して手当や制度でどう補完しているかを確かめたい。

 実質賃金の11カ月連続マイナスは、賃上げが無意味だという話ではない。むしろ、賃金の伸びが物価上昇に追いつかない局面では、賃上げの「やり方」と、企業・家計双方の適応の仕方が問われる。

 統計の数字は入り口にすぎない。食料品の値上げが続く現場の事実を重ねると、苦しさの正体は「上がるべきもの(賃金)より、先に上がるもの(生活コスト)が多い」ことに尽きる。

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