- 2026/03/27 掲載
予想より「6年」早い、 量子コンピューター“実装前夜”「100兆円市場」の争いとは?(2/3)
ビッグテックがハードを開発する理由
IBM、グーグル(Google)、マイクロソフト(Microsoft)、アマゾン ウェブ サービス (AWS) ──。直近1年を見ても、ビッグテック各社が自社ブランドの量子チップやマシンを次々に発表している。「ビッグテックがハードから開発を行っているのは、デジタルの次の競争力の源泉が量子にあると見ているからでしょう」(寺部氏)
寺部氏は、ビッグテックが量子に注力する理由として、2つの要因を挙げる。
1つは、社会課題の解決インパクトだ。
創薬、材料開発、気候変動対策、エネルギー最適化──いずれも市場規模が巨大で、社会的インパクトも極めて大きい。こうした分野において、量子コンピューターによってもたらされるプラスのインパクトは絶大なものがあると期待されている。
「治らなかった病気が治るようになる、高効率な人工光合成で気候変動問題を前進させる。そうした“恩恵”への期待も、世界中の投資を後押ししています」(寺部氏)
もう1つは、AIと電力の問題だ。
生成AIの学習・推論に必要な計算資源と電力コストは、すでに一部の企業しかアクセスできない水準まで上がりつつあるとの見方もある。
「AIは電力問題が成長阻害要因になるという議論も出ています。量子コンピューターによって効率的な機械学習が達成できれば、こうした問題を解決できるという期待があります」(寺部氏)
「アプリケーション領域」の論点は?
量子コンピューターの得意領域は、データサイエンス(AIを含む)、組み合わせ最適化、シミュレーション(創薬・材料、金融など)、暗号解読といった分野に整理できる。「当面の実用化フェーズにおいては、特に組み合わせ最適化とシミュレーションが、ユースケースという意味で大きな役割を持つと見ています。AIについてはまだ探索領域ですが、量子コンピューターにより効率的な機械学習が実現される可能性があります」(寺部氏)
具体的な量子コンピューターの適用場面として、寺部氏は以下のように説明する。
■組み合わせ最適化
生産ラインのスケジューリング、物流ルート最適化、金融ポートフォリオの最適化など、現実社会には「組み合わせが爆発」する問題が無数に存在する。特に日本の場合、大きな社会的課題として人口減少という問題を抱え、効率化しなければならない分野は数多くある。
たとえば製造業では生産ライン改善のために多額の資金を投入するような世界であり、量子コンピューター活用への投資もリーズナブルな領域と言える。
■シミュレーション
量子コンピューターは量子力学そのものを計算基盤にするため、分子レベルでの振る舞いをより正確にシミュレートできる。
このため、古典コンピューターでは処理できなかった計算が可能となり、創薬・新材料・電池開発など、産業インパクトの大きい領域でブレークスルーが期待される。
■AI
高品質な乱数を用いたデータ拡張などにより、これまでデータ不足が原因で機械学習の適用が難しかった場面でも、適用の余地が広がることが期待されている。
もう1つは、量子コンピューターを活用した機械学習によって、よりコンパクトで効率的なモデル設計への貢献が期待される。これによって、省電力化や学習時間の短縮が実現できる可能性がある。
世界の量子投資マップと日本の状況
各国政府は、国家戦略レベルで巨額の投資を行い、スタートアップには世界中の資本が殺到している。デロイト トーマツ グループの調査によれば、米国は政府投資、スタートアップ調達額ともに巨額であり、それぞれ約77億ドル、約66億ドル程度に達している(2025年6月30日時点)。また、中国は政府投資が中心であり、その規模は約153億ドルに達する。
日本の状況に目を向けると、政府投資額だけを見れば約23億ドルと、米国や中国には及ばないものの、世界的には決して見劣りする水準ではない。
しかし「スタートアップエコシステム」という観点では、大きなギャップが残っていると寺部氏は指摘する。日本の量子スタートアップ調達額の規模はわずか約7000万ドルと、米国の100分の1にとどまっているのが現状だ。
「どれだけ技術が優れていても、100倍のお金を投じてくる国・プレイヤーと戦うのは簡単ではありません。今後、日本が量子分野で存在感を高めるには、強みを生かした戦略が重要です」(寺部氏) 【次ページ】日本の強みと弱み──アカデミア+ユースケース+最先端マシン
金融セキュリティのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR