• 2026/03/27 掲載

予想より「6年」早い、 量子コンピューター“実装前夜”「100兆円市場」の争いとは?(3/3)

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日本の強みと弱みは?

■日本の強み
 寺部氏は、日本の量子業界には3つの重要な強みがある、と説明する。

 1つ目は、アカデミアの強さだ。

「日本は世界的に見ても、量子技術のアカデミアが非常に強い国のひとつです。たとえば光量子コンピューターだと東京大学の古澤明教授、超電導方式であれば理化学研究所の中村泰信氏など、世界の“トップランカー”級の研究者を多く抱えています。サイエンスとしての量子分野では世界をリードしてきた国であり、こうした強みは量子コンピューター開発にも生かされます」(寺部氏)

 2つ目は、ユースケースの“厚み”だ。

「日本は産業構造が多様で、製造業、金融、化学、医療、物流など幅広い分野に大手企業が存在しています。これは、自国で量子コンピューターのユースケースを作りやすい、ということを意味します」(寺部氏)

 たとえば、海外の量子コンソーシアムではベンダー側が多い一方で、日本の量子コンピューティング産業連携団体である「Q-STAR(一般社団法人 量子技術による新産業創出協議会)」には100社を超える法人が参加しており 、その多くはユーザー企業である。

「量子コンピューターの潜在的なユーザー企業が数多く存在する中で、産総研や理研などへの世界最先端クラスのマシンの設置が進んでおり、日本発のユースケース創出の“場”が整ってきていると感じます」(寺部氏)

 3つ目が、最先端のマシンが生み出す“コミュニティ”である。

「たとえば産総研(産業技術総合研究所)に設置される米QuEra Computingの量子コンピューターは、世界的に見ても最新鋭マシンです。こういった最新機にアクセスできる人たちが最先端の論文を生み、先端領域研究のコミュニティを作り出す効果があります」(寺部氏)

 さらに、こうしたコミュニティが、ユーザーサイドにも波及し、量子技術の活用に積極的に取り組む人材の流入を促す効果を発揮する、と寺部氏は指摘する。

 以上、日本の3つの強みを紹介したが、政府もQIH(量子技術イノベーション拠点)やG-QuAT(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)などを活用して、アカデミア、産業界、そして最先端マシンという要素を連携させた量子産業の促進を図っている。

注:一般社団法人 量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)「会員名簿


画像
QIH(量子技術イノベーション拠点)における量子業界の連携許可
(出典:量子技術イノベーション会議「量子エコシステム構築に向けた推進方策概要」)

■日本の弱み
 一方で弱みは、前述の通りスタートアップエコシステムの脆弱さだ。

「スタートアップに対してどれだけ資金と人材を集められたかというところで、勝負が決まってしまう側面があります」(寺部氏)

 世界のユニコーン量子スタートアップが巨額の資金を集め、人材獲得競争でもリードする中、日本発のスタートアップは、十分にスケールできているとは言えない状況にある。

 寺部氏は、こうした問題は量子業界に限ったものではなく、日本のスタートアップにおける共通の問題であると指摘する。

「日本でも起業で成果を出す事例が広がっている一方で、多くの人が身近に成功事例を実感できる場面はまだ限られています。たとえば海外のトップスタートアップに飛び込み、そこでの成功体験を持ち帰るような循環を増やすことも重要だと思います」(寺部氏)

なぜ「国産量子コンピューター」が重要?

 日本では、IBM製(超電導方式、理化学研究所に導入)、クエラコンピュ―ティング(QuEra Computing)製(中性原子方式、産業技術総合研究所に導入)など、海外製の最先端量子コンピューターの導入が進められている。しかし、海外製マシンにばかり依存するのではなく、超電導、光、イオントラップなど複数方式で国産量子コンピューターの研究開発が積極的に進められている。

 寺部氏は国産量子コンピューターの必要性について、次のように強調する。

「GPUが典型ですが、海外製品を買うしかない状況では日本の経済力は弱まる一方です。また、量子マシンを自国で作れない国は他国に依存せざるを得ず、安全保障上のリスクを抱えます。各国で量子コンピューターの研究開発に巨額の投資がなされている背景には、こうした経済安保上の理由もあると言えます」(寺部氏)

 量子マシンや量子関連技術の供給網を他国に握られることは、デジタルインフラ以上に大きなリスクとなりうる、という理解が必要であろう。

【保存版】量子の「10年ロードマップ」

 量子コンピューター実用化への期待が高まる中、量子時代の“勝者”となるべく、ユーザーサイドでも大きな動きが生じる可能性がある。

「今から5年後ぐらいから、実用化の最初の“果実”が生まれる可能性があります。ユーザー企業にとって、これからの3~4年間が“量子時代の勝者を決める仕込みの時間”だと思っています」(寺部氏)

 寺部氏は、今後の量子コンピューターの10年を次のように区切って説明する。

~3、4年:仕込み期
 量子コンピューターの実用化を見据えた準備期間。ここでしっかりと備えたユーザー企業が、将来の量子コンピューター実用化時代における「勝者」となる可能性がある。

5年後付近:実用化の初期果実期
 実用化が始まり、最初の「果実」を得るユーザー企業が現れる。こうした成果がさらに投資を呼び、現在とは比較にならない規模の資金流入につながる可能性がある。同時に、マシン資源と人材の奪い合いが始まる。

7~10年:資源争奪戦期
 先行していたユーザー企業が量子マシンへのアクセス、量子人材を独占し始める。量子コンピューターの増設は容易ではなく、後追い組は「マシンにアクセスできない」「人が採用できない」というボトルネックに直面する可能性がある。

量子の未来に対してどう動くか

 既に巨額の資金が流入し、量子が次のキーになるという共通理解ができている以上、“量子の時代が来る”こと自体は、ある意味で確定した未来だと言えよう。問題は、その未来に対して誰がどのタイミングで動くか、である。

 前編では、量子コンピューターを取り巻く世界の潮流と日本の立ち位置を俯瞰してきた。

 後編では、日本企業が明日から実務として何を始めるべきか──量子時代の人材育成や組織づくり、ユースケースの創出について、具体論に踏み込んでいく。

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