- 2026/03/30 掲載
日本企業が“量子実装前夜”にやるべきは? 「人材育成・組織、事例」ガイド保存版(2/3)
注力すべきは「3層の量子人材と組織づくり」
寺部氏がユーザー企業の取るべき行動としてまず重視するのが、「量子を理解できる人を育てる」ことだ。世の中では、量子コンピューターについてのニュースが流れてきても何を言っているのかさっぱりわからない、という人がほとんどかもしれない。
誤り訂正や論理量子ビットに関するブレークスルーが、自社にどのような影響を与えるのか。それを“翻訳”し、企業の経営・事業・技術の言葉で語れる人材がいなければ、戦略を描くこともできない。
だからこそ、実用化のタイミングまでに、技術・ビジネス両面で量子に通じた人材を揃えておく必要がある、と寺部氏は強調する。
「たとえば創薬を例にとるとイメージしやすいですが、人材を確保して量子コンピューターをいち早く使いこなし始めたプレーヤーが、薬の化合物についての特許をすべて押さえてしまう可能性があります。そうすると完全に“winner takes all”になってしまいます。実用化されてからキャッチアップしようとするのでは、遅すぎるのです」(寺部氏)
寺部氏は、ユーザー企業に必要な人材を大きく三層に分けて説明する。
「この問題なら量子で優位性がありそうだ」という“あたり”を付け、自社のビジネス課題と量子アルゴリズムの接点を設計できる人材。ここには、ビジネス寄りの人材も含まれる。
第2層:量子モデル化のできる人材
実際に量子モデル化を実行し、量子コンピューターを使いこなせる人材。
第3層:ハードウェアまで潜れるローレイヤー人材
実用化初期フェーズの量子コンピューターは、APIでスムーズに動くといった単純なものではない可能性が高い。このため、量子ハードウェアの特性や制約を理解し、それに合わせたアルゴリズムを設計・実装できる人材が必要。
「まずは、実際に量子技術に触れて、その意味内容を適切に見極められるサイエンティストが必要でしょう。こうした人材を起点に、ビジネス寄りを含めた量子人材を確保し、自社戦略を構築できる組織づくりへとつなげていくことが必要だと思います」(寺部氏)
実機を使ったユースケースの創出
ユーザー企業の取るべき行動の2つ目は、ユースケース創出に取り組むことだ。寺部氏は、ここでのポイントは量子コンピューターの“実機”を使うことにあるという。
量子を使ってみるというと、「とりあえず、実機ではなく量子シミュレーターを導入して触ってみる」といった取り組みになりがちだ。
ここでいう量子シミュレーターとは、量子コンピューターの動作を古典コンピューター上でソフトウェア的に模擬するものを指す。
たとえば、IBM、アマゾン(Amazon)、マイクロソフト(Microsoft)などがこうしたサービスを提供している。これらは、量子コンピューターがどのように機能するものなのかを理解する上では有用であろう。
寺部氏は入り口として量子シミュレーター導入を否定するものではないとしつつも、量子コンピューターの実機を使うことが重要だと強調する。その理由として、「将来的な量子マシンへの優先アクセス確保」という観点がある。
寺部氏は、量子コンピューターが実用化されるとマシン資源の枯渇が起きる、とみる。
たとえば超電導方式や中性原子方式など、巨大な設備を必要とする量子コンピューターは量産が難しい。
半導体方式など、比較的小型で増設しやすい量子コンピューターが実用段階に入れば別だが、超電導方式や中性原子方式の実用化が先行すれば、当面は需要が急増しても供給が追いつきにくい状況となることが予想される。
量子コンピューター実用化によって需要が殺到する中で、リソースは増やせないとなれば、“マシン資源の争奪戦”が起きる。そしてこうした状況下では、量子コンピューター黎明期から一緒に領域をつくってきた企業が優先的にリソースを割り当てられる可能性が高い、というわけだ。
「量子ハードウェアスタートアップとの関係を構築しながら、実機を使ったユースケースを創出し、コミュニティを作り上げる貢献をしていく。こうした行動が、マシン資源の争奪が起きた段階でアクセスを確保するために、ユーザー企業として非常に重要だと思います」(寺部氏)
こうした実機を使ったユースケースの創出は、日本全体で見た量子エコシステム構築の観点からも、重要なパーツでもある。
政府は、デジタル時代の国際競争上の失敗を踏まえ、量子技術に関わる多様な主体が相互に関連した「自律的ネットワーク」の構築を提唱している。
各ユーザー企業が実機を使ったユースケースを創出することは、まさにこうした自律的ネットワークの構築へとつながるものと言えよう。 【次ページ】“計算機革命”を勝ち取るには?
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