- 2026/03/30 掲載
SMBCグループが挑む生成AI全社展開、「500億円投資枠」と100近いプロジェクトの全貌(2/2)
「可視化だけ」から始まった、CFO支援の5年間
SMBCのAI活用の中でも特にユニークなのが、法人顧客の財務経理部門──具体的にはCFO(最高財務責任者)向けに財務データの可視化、分析を通じて意思決定支援を目指す一連の取り組みだ。その出発点は5年前のシンガポール赴任にある。松永氏がASEAN域内のデジタルプロジェクトを率いる中で、グローバル企業の現地拠点を100社、200社と訪問してわかったのは、CFOが抱える課題の本質だった。
「特に日系企業の海外拠点が多い、ASEAN地域では、月次のBS・PLを締めるのにも時間がかかり、苦労しているというのが現場の実態だった」(松永氏)という。データドリブン経営の理想とは裏腹に、現実はExcelと自社システムとERPが混在し、数字のとりまとめだけで精一杯という状況だ。
ここでSMBCが選んだアプローチが「まず可視化するだけ」というシンプルな一手だった。タブローやPower BIといったBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使い、顧客のデータベースには一切手を加えずに可視化だけを提供する「CFOダッシュボード」を開発。
しかも、新しいツール導入には本社承認が必要になるという現地拠点の制約を考慮し、すでに入っているツール上で動くように設計した。
提供は無償。「金融トランザクションで稼がせていただく立場なので、ツールそのものはフリーで提供した」(松永氏)という銀行ならではの判断が奏功し、4年間で約200社への導入につながった。
AIが「データのバラバラ」問題を解く、CFOエージェントの設計思想
ダッシュボードの普及という下地があってはじめて、生成AIの出番が生まれた。2024年初頭から検証が始まったのが「CFOエージェント」だ。着目したのは、生成AIが「データ構造がバラバラなままでも統合・分析できる」という特性だ。ExcelファイルとWordの月次レポート、業界リポートといった非構造化データ(決まった形式を持たないデータ)でも、生成AIはまとめて読み込み、意味のある分析を返せる。
たとえばキャッシュコンバージョンサイクル(売上代金が手元に戻るまでの日数)が先月より悪化した場合、「どの国のどの製品の売掛金や在庫が膨らんでいるのか、業界レポートとの関係はどうか」まで一気に分析できるようになった。
こうした取り組みを通じて見えてきたのが、財務経理業務を「オペレーショナル」「タクティカル(分析)」「ストラテジック(戦略)」の3層に分けて考えるアプローチだ。
「オペレーショナルは間違いが許されない。一方でストラテジックな判断領域においては、必ずしも唯一の正解が存在するとは限らず、むしろ不確実性や曖昧さを前提とした意思決定が求められる。」(松永氏)というのが基本的な考え方だ。AIが自動化すべき領域と、人間がAIと協調しながら判断すべき領域を明確に分けることが、実用化の鍵だという。
この考え方のもと、現在構築が進んでいるのが「CFOエージェントライブラリ」だ。財務経理のプロンプト(指示文)やエージェントを共有するシステムをMicrosoft Teams上に構築し、キャッシュオペレーション・予算編成・財務報告・FX・会計など機能ごとにベストプラクティスを蓄積している。
加えて、現場担当者が勝手にプロンプトを組み替えてしまうとクオリティが下がるという問題に対応するため、「ナビエージェント」と呼ばれる仕組みも導入。担当者が自然言語で目的を入力すると、エージェントが適切なプロンプトを生成・管理し、直接の書き換えを防ぐ設計になっている。
こうした取り組みを通じてSMBCが目指すのは、「企業にとっての金融OS」だ。CFOにとって必要なデータの収集と可視化、意思決定をAIが支援し、オペレーションを自動化し、決済や資金調達をシームレスにつなぐ──そのインフラが、やがてステーブルコイン(価格が安定した暗号資産)やデジタルアセットとも結びつき、「金融領域のOSとして価値を発揮する未来はすぐそこに来ている」(松永氏)という。一行だけでは実現できないこのビジョンに向け、パートナーとの共創が次の焦点となる。
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