• 2026/06/15 掲載

「中国も困るから台湾は攻めない」は本当か…TSMC海外移転で揺らぐ“半導体の盾”神話(2/2)

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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台湾の地位は盤石? 簡単ではない米国移転

 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の記事は、TSMCの存在が中国の台湾侵攻を思いとどまらせるという「シリコンの盾」論を紹介しつつ、台湾有事の影響は半導体供給にとどまらず、東アジアの海上物流や製造業ネットワーク全体に及ぶと指摘している。

 電通総研 経済安全保障研究センターの記事では、「先端半導体の開発・製造拠点としての台湾の地位が中期的にみて大きく低下する可能性は低い」と論じている。

 その理由として、アリゾナ工場の進捗を見ると、数年内に大規模な生産能力を米国へ移すのは物理的に難しいこと、米国は賃金・電力コストが高いこと、人材やサプライヤーの集積で台湾に及ばないことを挙げている。さらに、TSMC側も「最先端プロセスは台湾に残る」と述べていることを紹介している。

 これは、シリコンシールドを、台湾を自動的に守る魔法の盾とは見ないが、「実際上は有効」という議論だ。最先端半導体の開発・量産能力が台湾に集中し続ける限り、米国も中国も台湾有事のコストを無視できない。したがって、抑止要因としてはなお機能する、という論理だ。

 かつての日本では、TSMCを台湾の安全保障に直結する「シリコンシールド」と見る説明が目立った。しかし近年は、台湾半導体産業が本当に侵攻を抑止しうるのかという懐疑論が強まっている。他方で、台湾の先端半導体製造能力、人材、サプライヤー集積が短期には代替困難であることも、多くの論考で確認されている。つまり、現在の議論は、「シリコンシールドは万能ではないが、台湾の戦略的重要性を支える基盤としてはなお残っている」という限定的な評価に収れんしつつある。

崩れる神話、残る実力──シリコンシールドの本当の姿

 MIT Technology Review 日本版の記事は、警戒論の典型だ。

 同記事は、従来の発想を「TSMCは台湾のシリコンの盾として中国侵攻を抑止してきた」と整理している。そのうえで、TSMCが米国、日本、ドイツに生産拠点を広げることで、台湾そのものの戦略的価値が低下するのではないか、との懸念を紹介している。

 特に、TSMCの対米投資が台湾防衛の保証を伴っていない点、米国が台湾を守る意思を曖昧にしている点を重視している。

 以上をまとめれば、次のように言える。

 まず、シリコンシールド論は、もはや台湾防衛を自動的に保証する「万能の盾」とは見なせない。TSMCの米国、日本、ドイツへの進出は、台湾だけが持っていた戦略的価値を相対的に低下させる可能性がある。また、台湾の安全保障を半導体産業だけに求めるという発想は危険であり、防衛費、兵役、先端兵器、国民の防衛準備などを含む総合的な抑止力が不可欠だ。

 しかし同時に、最先端半導体の開発・量産能力、人材の質、サプライヤー集積は、短期的には台湾から移転できない。

 したがって、シリコンシールドは弱まりつつあるが、完全に消滅したわけではない。現在の妥当な評価は、「台湾を守る唯一の盾ではないが、台湾の戦略的重要性を支える基盤として、なお一定の抑止効果を持つ」という考えに集約できるだろう。

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