- 2026/08/10 06:30 掲載
ChatGPTは本当に“見えている”のか? 人間なら簡単な「右と左」で露呈するある限界(2/2)
身体を持つ人間と、持たないAIの決定的な違い
「北を向いたとき、東の方向が右」という判断の仕方は間違いではない。しかし、そのように判断している人は、ごく稀だろう。
普通は、「右手の方向が右」と判断する。では、どちらが右手かと言えば、子供のときに親が「こちらの腕が右手」と教えてくれた知識に基づいている。これは、人間が身体を持っているからできる判断だ。
つまり、「右、左」という抽象概念(シンボル)を、五感で感じることができる「実世界の意味や概念」と結びつける(接地する)ことで、理解しているのである。
ところが、AIは身体を持たないので、このようにして理解することができない。したがって、「右か左か?」という人間にとってはごく簡単な判断が、AIにとっては簡単なことではないのだ。
「相対位置」で露呈するAIのある“弱点”
安全ピンの写真を見て名称を答える場合は、画像の特徴と「安全ピン」という名称を対応させればよい。これに対して、ここで対象としたような駅や車両の問題では、「東京方面はどちらか」といった条件を一貫して維持しなければならない。したがって、両者には大きな難易度の差がある。
ChatGPTは、南とか北という絶対的な方向に関しては、正しい判断ができるが、「前と後ろ」、あるいは「右と左」というような相対的な位置関係については、はっきりと判断ができないのかもしれない。
ChatGPTが南北を正しく答えられる場合もあるが、それは南北という方向を空間的に体得しているからではなく、地図や文章の中に「東京駅の北側」「新宿から東京は東方向」といった情報が存在するからだろう。
それに対して、右左が難しいのは、右左は必ず観察者の向きに依存するからである。例えば「御茶ノ水駅でエスカレーターは右にある」といっても、どちらを向いた場合の右か、電車から降りた人にとっての右か、などを決めなければ、意味が確定しない。
したがって問題は、「絶対方向は理解できるが、相対方向は理解できない」というよりも、視点を固定し、その視点を回答の最後まで維持することが苦手であることだろう。
ChatGPTは世界を直接見て判断しているのではなく、与えられた画像や言葉から、もっともありそうな説明を構成しているのだ。
人間の“迷い”とAIの“誤答”は似て非なるもの
いうまでもなく、人間も間違いをする。初めての場所に行くのに、よく道に迷う人がいる。それらの人たちに共通するのは、「北か南か」という絶対的方向でなく、「右か左か」という相対的方向で判断していることだ。だから、どちらを向いているかで、進む方向を誤ってしまう。
これまで述べてきたように、ChatGPTも位置認識を誤る場合がある。ただ、それは、人間とは逆に、「右か左か」という相対的な位置関係についてのものだ。
つまり、人間の道迷いとChatGPTの誤りは、仕組みが違うようだ。人間は実際の空間を知覚しながら混乱する。一方、ChatGPTは現地を知覚しているのではなく、文章、図、既存の知識から位置関係を組み立てている。
しかし、AIは、複数の物体の位置関係を一定の視点と方向を保ちながら理解する課題では、誤りを起こしやすい。これは、身体的な空間経験を持たないという基本的問題だけでなく、資料不足、座標系の混同、図と文章の不整合、分からないことを推測で補ってしまう性質によるものだろう。
以上で述べたような問題をいかに解決していくかは、今後のAIにとって重要な意味を持つのではないかと思われる。
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