AI時代に企業はどう"判断"を変えるべきか? マッキンゼーや早大教授がら語る組織変革の条件
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88%がAIを導入しているのに全社展開はわずか7%
マッキンゼーTech &AI 日本統括責任者
工藤 卓哉 氏
同氏が最初に示したのが、マッキンゼーが2025年に実施したAIに関するグローバル調査の結果だ。
そこでは、AIを定常的に利用している企業が88%に達しているのに対し、収益効果を実感している企業は39%、AIを全社展開できている企業はわずか7%であることが示された。また、AIで好業績をあげている企業の特徴として、ワークフローを再設計していることが挙げられた。
AIを導入したものの、多くの企業が価値創出と全社展開に苦労している実態、そしてそのカギがワークフローの再設計にあることが示された形だ。
そして工藤氏は、企業の競争力の差は「AIを導入したか」ではなく、「日々の意思決定にどう使われているか」で生まれると強調し、そのために必要となる考え方や取り組みについて説明した。その1つが「評価軸の転換」だ。
「PoCや導入ツールの数、モデル性能などで測るのではなく、日々の意思決定の速度や質が向上したか、データが判断にいつ、どう使われたかといった『判断の変容』へ評価軸を移すことが必要です」(工藤氏)
そのうえで工藤氏は、多くの企業はAIを導入しているが、日々の意思決定は変わっていないと強調。その原因が、ワークフローの欠如であり、AIエージェントの出力を検証する手順が未整備であることも、大きな課題だと説明した。
AIとともに「判断できる組織」となるための4つのステップ
STEP2 判断スタックの構築
STEP3 判断変容の実測
STEP4 横展開と全社化
「現場特定」は、AIで価値が生まれやすい現場を特定することだ。具体的には、判断の頻度が高く、データが存在する現場を特定し、どの意思決定を変えるかを決める。
「判断スタック」は、品質が担保されたデータを使ってワークフローを設計し、それをエージェントが実行し、その結果を人が判断する一連の流れ・循環を指す。
「『データ』→『ワークフロー』→『エージェント』→『人』の4つが連携して、初めて判断できる組織を実現できます。AIの成果が出ない、全社展開できない企業は、この判断スタックを現場から積み上げることが必要だと考えます」(工藤氏)
判断スタックが構築できたら、次のステップは「判断変容の実測」だ。意思決定の質や速度を測定し、AIエージェントの正確性・有用性・信頼性を評価し、人の判断プロセスの変化も定性的に記録する。
そして最後のステップで、成功パターンをテンプレート化して他の現場に展開し、判断スタックが組織文化の一部になるまで投資を継続する。
なお、「判断スタックの構築」について、工藤氏は人間が介在する「Human-in-the-loop」の(注1)重要性を次のように強調した。
「Human-in-the-loopは『安全装置』ではなく『判断の主体性の設計』です。人は承認者ではなく、説明責任を負います。『承認はしたけれど、結果については知りません』は適切ではありません」(工藤氏)
注1:AIや自動化システムによる処理・意思決定プロセスに人間が意図的かつ継続的に介入する仕組み
PendoのCEO 兼 共同創業者が自ら語った3つの新製品の価値
創業者兼CEO
トッド・オルソン氏
そして、こうした計測と学習を実現する製品として「Pendo Agent Analytics」を紹介した。これは、AIエージェントの利用状況や品質を分析するための製品である。これにより「どのエージェントが動いているか」「コストはいくらか」「どのように利用されているか」などを可視化できる。
続けてオルソン氏が紹介したのが、日本で提供が始まったばかりの「Pendo Agent Toolkit」だ。これは、ユーザーの行動データをAIエージェントに連携し、AIエージェントをより“賢く”するソリューションである。
「Agent Toolkitを使えば、たとえばECサイト上のユーザーの行動を認識し、『次にここを操作してください』と案内できます。あるいは、ユーザーがサイト上で行き詰まっていたら、それを認識して『操作にお困りですか』と声をかけることも可能です」(オルソン氏)
オルソン氏が最後に紹介したのが「Novus(ノヴァス)」である。これは、コードを読み取って製品の文脈やユーザー行動を自律的に理解する半自律型のAIプロダクトエージェントだ。
「Novusを活用すれば、アプリケーションに変更を加えた際、その変更が製品を良くするのか悪くするのかを把握できます。もしも悪化が予測される場合は、警告を出し、変更がリリースされるのを防ぐことも可能です。AIによって開発が高速化した世界では、人間はすべての変更をレビューすることはできません。Novusは、この問題を解決する重要なツールとなりえます」(オルソン氏)
そして、最後にオルソン氏が企業に呼びかけたのが「AI施策の棚卸し」だ。AIエージェントの現状を把握することの重要性を次のように訴えて、セッションを終了した。
「私たちは企業内で使われているすべてのAIエージェントを計測できます。どんなエージェントがあるのか、どのように使われているか、誰が使っているのか……等々を明らかにして、AIがビジネスに影響を与えているのか、それとも与えていないのかを分析します。ぜひ皆さんと協力して、この取り組みを始めたいと考えています」(オルソン氏)
AI投資とビジネスの成果をつなぐ“架け橋”になる
日本法人社長
花尾 和成 氏
「Pendoは、モバイルアプリやWebサービスなど、インターネットにつながっているあらゆるサービスに対して、ユーザーの行動およびAIエージェントの活動データを吸い上げます。そして、集めたデータをさまざまな角度で分析し、プロダクトを作っている方やユーザーの方々に気づきやインサイトを提供するプラットフォームです」(花尾氏)
そして花尾氏は、Pendoが必要とされる背景として、もはやAI導入だけでは競争優位には立てない現実と、その現実に対応しきれていない日本企業の実態を次のように説明した。
「日本企業の経営層の方々とAIについてお話する機会が多いのですが、会話の内容はだいたい3つに集約されます。1つ目が『AIが使われているかどうか分からない』、2つ目が『どこで価値が生まれているか分からない』、そして3つ目が『ROIを説明できない』です」(花尾氏)
当初は、株主対策もあってAIサービスを導入することに重点があったのかもしれない。しかし、今はAIエージェントによって価値を生んでいくフェーズに入りつつある。
「だからこそPendoが、AI投資とビジネスの成果をつなぐ“架け橋”になりたいと考えています」(花尾氏)
セッション後半では、オルソン氏が紹介した「Pendo Agent Toolkit」や「Novus」について補足の説明が行われ、今後同社が日本市場に積極的に関与していく姿勢が示された。
「アフターAI企業」と勝負するために必要なことは?
セッション冒頭で、入山氏が紹介した言葉が「OPC」だ。これは「One Person Company」の略で、AIの登場によって可能になった1人で経営できる会社を意味している。
早稲田大学ビジネススクール 教授
入山 章栄 氏
したがって、ビフォーAI企業が勝負するためには、抜本的な変革が必要になると入山氏は指摘する。その核心が「人と組織の変革」だ。
「AI時代には戦略もあっというまに陳腐化します。なぜなら、AIを使えば同じことができるからです。したがって、AI時代に最も重要なことは『人と組織の変革』です。不確実性の高い環境下で、いかに変化にアジャイルに対応できる人と組織を作れるか。ビフォーAI企業が生き残れるかどうかは、ここにかかっていると思います」(入山氏)
経路依存性とイノベーションを生む「知の探索」の強化
「会社は複雑な組織です。さまざまな要素が複雑に噛み合って会社が回っています。そのうちの1つの要素だけが時代に合わなくなっても、とりあえず全体が噛み合って回っているため、変えることができないのです。これが、経路依存性です。この問題を解決するには、デジタルのトップが人事のトップを兼ねることが必要だと思います」(入山氏)
経路依存性を脱却しても、現状維持では生き残れない。会社が生き残るには、自らが能動的に変化して新しい価値を生み出さなければならない。そこで不可欠なのが「イノベーション」だ。
では、イノベーションはどうやって生み出せばよいのだろうか。そこで登場するのが「両利きの経営(Ambidexterity)」だ。これは、既存事業を伸ばしながら(知の深化:Exploitation)、将来の柱となる新しい事業や技術も同時に生み出す(知の探索:Exploration)経営を指す。
「イノベーションの本質は知と知の組み合わせであり、だからこそ必要なのが『知の探索』です。これは、遠くのものを広く見る取り組みです。それには時間も人もお金もかかり、多くの失敗もあります。このため、企業はだんだん『知の探索』をしなくなり、『知の深化』ばかり追求するようになるのです。これが、日本企業にイノベーションが足りないといわれる本質的なメカニズムです」(入山氏)
そして入山氏は、「知の探索」は人でないとできないのに対し、「知の深化」はAIで代替されるとも説明。ゴーゴーカレーの創業者である宮森 宏和 氏の「発想力は移動距離に比例する」という言葉を紹介し、積極的に行動して知の探索を強化すべきと強調した。
AI時代の「知的スマイルカーブ現象」と日本企業の勝ち筋
これは、AI時代に我々の仕事に起きる「知的スマイルカーブ現象」を表した図であり、人の仕事を上流・中流・下流に分けたとき、上流と下流は価値が上がり、中流の仕事がAIに代替されることを表している(注2)。
注2:もともとは、経営共創基盤(IGPI)の創業者・会長である冨山 和彦 氏が提唱した。AIやデジタル化の進展によって労働市場や企業組織の付加価値が両極端に集中し、中間層が没落する構造変化を表している。「上流は、答えがない中で知の探索をして、意思決定して、成功しても失敗しても責任を取るというリーダーの仕事です。下流は現場です。いま、現場で圧倒的に人が足りていません。ヒューマノイドを心配する方もいますが、恐れることはありません。彼らはエネルギーを食いすぎですから。問題は中流です。ここは情報の伝達・整理をする仕事、つまり管理職とバックオフィスです」(入山氏)
したがって、これからは中流を担ってきた人達をいかにして上流や下流にシフトするかが大きなテーマとなる。もちろん、それは容易ではない。入山氏は「リスキリングという言葉では生易しいと思います。メタモルフォーゼ、異世界転生です」と述べ、それくらいの改革ができなければ、ビフォーAI企業が生き残るのは難しいだろうと述べた。
また入山氏は、これからの企業が目指すべき組織の形として「海兵隊」を挙げた。
「さまざまなタイプの人がいる『海兵隊』のような小さなチームをたくさん作るのが1つの方法だと思います。海兵隊は、敵がどこに潜んでいるか分からない島に上陸します。不確実性が非常に高い中、役目や立場を柔軟に変えながら仕事をしなければなりません。こうした組織をたくさん作るのが、AI時代における企業の1つの勝ち筋だと思います」(入山氏)
入山氏の話を聞くかぎり、ビフォーAIの日本企業が置かれている立場は非常に厳しい。ただし、入山氏は日本企業には有利な点もあると指摘する。それが少子高齢化に伴う労働力不足だ。
「AIによって人がいらなくなりますから、アメリカやベトナムなどの人口が増えている国は大変だと思います。大失業時代が訪れるのではないでしょうか」(入山氏)
さらに入山氏は、下流が強いことも日本企業の強みだと指摘し、「現場の力をうまく引き出して、海兵隊のようなチームをたくさん作れば、日本企業にもまだまだ勝ち筋はたくさんあります」と述べて、基調講演を締めくくった。
「AIをどうマネジメントするか」
AIエージェントの性能は今後も急速に向上し、多くの企業が同じような技術を利用できるようになる。そのとき差になるのは、AIを業務プロセスへ組み込み、成果を計測し、人とAIが継続的に学習できる仕組みを構築できるかどうかだ。
AIを"使う企業"から、AIとともに"判断する企業"へ──。PendomoniumX Tokyo 2026では、そのために必要な組織変革の方向性が、多様な立場から示された。