• 2026/08/27 06:30 掲載

PEファンドとコンサルは何が違う?年5%成長でもリターンが2倍を超える「3つの源泉」(2/2)

新連載:PEファンドのリアル

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「安く買って高く売る」だけでない…利益の源泉を3つに分解

 PEファンドは、投資家から預かった資金と銀行からの借入を組み合わせて会社の株式を取得し、数年後に売却する。

 会社の値段の考え方は、住宅ローン付きの持ち家に例えると分かりやすい。家全体の価格が「企業価値」、ローンの残高が「借入」、価格からローンを差し引いた持ち分が「株式価値」にあたる。ファンドが自己資金で買うのは、この持ち分だ。家の価格が変わらなくても、ローンを返せば持ち分は増える。この当たり前の事実が、後で効いてくる。

 では、会社全体の値段はどう決まるのか。実務では「EBITDA×マルチプル」で算出することが多い。EBITDAとは本業の稼ぐ力を示す利益で、おおまかには営業利益に減価償却費を足し戻したものだ。マルチプルは、その利益の何年分の値段で買うかという倍率で、6倍ならEBITDAのおよそ6年分ということになる。この倍率は金利や景気、業種の人気で上下する。

 この整理を用いると、PE投資のリターンは、①EBITDAの成長(EBITDAグロース)、②借入の返済による持ち分の増加(デレバレッジ)、③マルチプルの変化(マルチプルアービトラージ)の3つに分解できる。どんな案件であっても、リターンはこの3つの足し算でしかない。

 一般に想像される「安く買って高く売る」は、③のマルチプルアービトラージにあたる。しかしながら、これは市況や売りのタイミングでストロングバイヤーがいるかどうかなど、PEファンドとして完全にコントロールすることはできない。動かせないものを利益の前提に置く計画は、計画ではなく願望に近い。

 そのため、PEファンドは通常、マルチプルアービトラージをゼロ(買ったときと売ったときのマルチプルが同じ)と置き、ベースケースモデルを組む。①のEBITDAグロースは日々の事業運営で、②デレバレッジはフリーキャッシュフローを創出して計画どおり返済を続けることで実現できるため、③のマルチプルアービトラージに比してコントロールが効きやすい。

 投資対象会社のビジネスを多種多様な観点で分析したうえで、①EBITDAを伸ばすことに腐心しつつ、②買収時に借り入れたローンを地道に返し、③売却タイミングでよい市況になっていることを願いつつストロングバイヤーを探す努力をする。これがPEファンドの仕事である。

年5%成長でも2.2倍…PE投資のリターンを数字で追う

 では、具体的に利益の源泉がどう働くのか、単純化した例で定量的に確かめてみよう。なお、数値は説明のための架空の設定であり、金利・税金・取得費用などは単純化していることをご了承いただきたい。

 EBITDA15億円の会社を、EV/EBITDAマルチプル6倍 = 企業価値90億円で買収するとしよう。資金は銀行借入50億円と自己資金40億円で賄う。5年後、EBITDAが19億円まで育ったとする。年率でいえば5%ほどであり、劇的な成長ではない。売却時のマルチプルを買収時と同じ6倍とすれば、企業価値は114億円。この間、会社が生み出す現金で借入を25億円返済していれば、借入残高は25億円。持ち分である株式価値は89億円となり、40億円の投資はおよそ2.2倍、年率になおせば17%ほどで回った計算になる。

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図1:会社の値段の考え方
(画像:筆者作成)

 増えた49億円の内訳を見ると、利益成長によるものが24億円、借入返済によるものが25億円。マルチプルの寄与はゼロである。年5%の利益成長と計画どおりの返済だけで、リターンは2倍を超えるのだ。

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図2:リターンの内訳──自己資本40億円が株式価値89億円になるまで
(画像:筆者作成)

 前提を変えてみると、この構造の強さがよく分かる。仮にEBITDAがまったく成長しなくても、返済が予定どおり進めば株式価値は65億円(EBITDA15億円×6倍-借入残高25億円)、投入した自己資本の1.6倍ほどになる。

 逆に、EBITDAが19億円に伸びる一方で売却時のマルチプルが5倍に下がった場合でも、株式価値は70億円(EBITDA19億円×5倍-借入残高25億円)となり、投入した自己資本の1.8倍弱。成長が止まっても、市況が崩れても、一定のリターンは確保できるのだ。

 リターンが確保できなくなってしまうのは、ビジネスがマイナス成長してしまい、フリーキャッシュフローを創出できず、返済が滞ってしまうケースだ。だからこそ投資検討時には、「どうすれば成長させられるのか」というアップサイドの議論と同じかそれ以上に、「最悪のケースは何か、その場合でも最低限のリターンは確保できるのか、その根拠は」というダウンサイドの議論に時間と労力が割かれる。

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図3:前提を変えた場合のリターン比較
(画像:筆者作成)

 では、この5年のあいだ、PEファンドは具体的に何をしているのか。筆者の所属先であるクレアシオン・キャピタルでは、支援は「守り」と「攻め」の両面にわたる。

 守りでは、月次の数字が早く正確に出るように経理や管理の仕組みを整え、製品や顧客ごとの採算を分解し、コストを見直し、最適化をする。攻めでは、値付けや設備投資の判断を議論し、営業・マーケティングのてこ入れや業務のデジタル化/AI活用を進め、幹部人材や後継経営者の採用にハンズオンで携わる。

「銀行借入=危険」は本当か? 負債が持つ規律の力とは

 最後に、もう1つの誤解にも触れておきたい。

 PEファンドは、企業買収時に銀行借入を活用する(LBOローン:レバレッジドバイアウトローン)ことで自己資本投入額を少なくし、リターン最大化を志向する。これはしばしば「危険な賭け」のように語られるが、ファイナンスの世界には古くから逆の見方がある。

 経済学者マイケル・ジェンセンは1980年代、負債には経営を引き締める働きがあると論じた。手元資金が潤沢な組織ほど、緊張感を欠いた投資や不採算事業の温存に流れやすい。毎期の返済という締め切りが、1つひとつの支出に「それは返済に勝る価値を生むのか」という問いを突きつける、という指摘である。

 実務の感覚も、これに近い。買収資金を貸すかどうかは、銀行が事業計画を独自に審査して決める。つまりLBOとは、PEファンドの見立てが「他人の資金を預かるプロ」の目で検証される仕組みでもある。実際、投資実行プロセスの中、銀行の指摘で事業計画の穴を指摘され、よりよいものにアップデートされることも珍しくない。

 小説やドラマのような派手な買収劇は、PEファンドの現場とはやや乖離する。かといって、淡々と進む静かな仕事かといえば、それも違う。

 投資先では想定外の出来事が日々起き、経営者やオーナーと膝詰めで議論を戦わせることも少なくない。単に安く買って高く売るというわけではないのだ。投資した会社にハンズオンで入り込み、5年がかりで会社を良くしていき、次の買い手に託すもしくは上場を実現するというエキサイティングな活動、それがPEファンドの仕事である。

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