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  • 2021/08/02 掲載

DeFi(分散型金融)とDAO(分散自律型組織)は、いかなる未来を拓くのか?

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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銀行のような中央集権的組織なしに金融サービスを提供する「分散型金融」(DeFi)が急成長している。これは、DAO(分散自律型組織)と呼ばれるものの一形態だ。DeFiで取引されるのは、現在は仮想通貨だけだが、現実通貨の取引が可能になれば、利用可能性は大きく広がる。また、金融以外の分野でDAOが発展することも期待される。

執筆:野口 悠紀雄

執筆:野口 悠紀雄

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi
Twitterアカウント:@yukionoguchi10
野口ホームページ:https://www.noguchi.co.jp/

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DAOで「完全自動組織」は創れるのか
(Photo/Getty Images)

DeFiはビットコインの原型への回帰

 DeFi(Decentralized Finance:分散型金融:ディーファイ)という金融の仕組みが注目を集めている。これは「銀行等の管理主体なしに、無人で金融サービスを提供する仕組み」と説明されている。2020年に急速に成長した。

 ところで、同様の金融サービス提供は、今始まったものではない。以下に説明するように、ビットコインの最初の形態は、いかなる組織の管理もなしに運営される仕組みだった。

 これまですべての経済取引は何らかの組織によって管理されてきたから、管理者がいないというのは、誠に画期的なことだった。

 ところが、その後、取引所という中央集権型の組織が現れ、ビットコインと現実通貨との交換やビットコインの送金は、ここを通じて行われるようになった。したがって、管理者なしで金融サービスを提供するというビットコインの当初の性格は、薄れてしまった。

 一方、DeFiは、ビットコインの最初の形に近い形で運営される。その意味で、先祖帰りだと考えることができる。

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2020年はまさにDeFi元年というべき年だった
(Photo/Getty Images)

ビットコインはいかなる意味で「無人」なのか?

 DeFiは金融サービスを「無人で提供する」と説明されることが多い。この意味を理解するために、銀行の口座振替とビットコインの当初の形を比較してみよう。

 今、Aさんが、銀行口座の振り替えでBさん送金するとしよう。Aさんは、窓口あるいはATMで、これを銀行に依頼する。この依頼を実行するのに、銀行はいちいち手作業で対処しているわけではない。この処理は、銀行のコンピューターで自動的に行われる。その意味では、「無人」といえる。

 ただし、そのコンピューターシステムは、銀行が管理している。そして専門の担当者が、保守している。

 その仕組みが正しいか?Aさんの依頼を、正確にその通りに実行してくれるか?こうしたことをAさんが確かめるすべはない。銀行という組織を信頼する他はない。これが従来の中央集権型の仕組みだ。

 では、ビットコインは、これとどのように違うのか。

 ビットコインでは、誰でも参加することができるコンピューターのネットワークが形成される。Aさんは、そのネットワークに向けて、Bさんにビットコインを送るという情報を、インターネットを通じて送る。

 コンピューターのネットワークは、あらかじめ決められたルールに従って、この取引が正しいものかどうか(Aさんにたしかに残高があるか?二重支払いはないか?など)をチェックする。

 チェックができたら、それをブロックチェーンに記録する。この記録は、書き換えることができない。なぜ書き換えられないかが最も重要な点だが、これについては、拙著『ブロックチェーン革命』(2017年、日本経済新聞出版社)を参照されたい。

 この取引情報が公開される(ただし、Aさんの名は、暗号で保護されている)。書き換えることができない仕組みに記録されたことによって、送金が完了するわけだ。

 コンピューターによって取引が自動的に処理されるという意味では、銀行もビットコインも同じだ。中央集権的な組織が管理しているかどうかが、ビットコイン(あるいはDefi)と従来の仕組みの違いだ。


スマートコントラクトでDAOが可能に

 ビットコインやその後登場した類似の仮想通貨は、「送金」という、ある意味では単純なサービスしか提供していなかった。それに対してDeFiにおいては、仮想通貨の交換、融資、保険、デリバティブ取引など、もっと複雑なサービスが提供されている。

 これを可能にしているのが、「スマートコントラクト」だ。スマートコントラクトを理解するために、アマゾンのようなオンラインショッピングを考えてみよう。

 Aさんがアマゾンで書籍を購入したいとする。この希望は、インターネットを通じてアマゾンに送られる。その情報はアマゾンで処理されるが、人間の手作業ではなく、コンピューターのプログラムで自動的に処理される。このシステムは、アマゾンが管理している。

 この処理が正しく行われるかどうかは、Aさんには分からない。Aさんがアマゾンにクレジットカード番号を教えるのは、それをアマゾンが悪用しないだろうと信頼しているからだ。

 ところで、この取引を、ビットコインの場合と同じような仕組みで自動化することができる。この場合も、任意に集まったコンピューターのネットワークが、情報を処理する。ビットコインの場合には、送金があったという記録をブロックチェーンに書き込み、それを公表するだけで十分だった。

 しかし、今は、代金をクレジットカードで引き落としたり、書籍をAさんに発送するという作業が必要になる。これらはスマートコントラクトで行われる。スマートコントラクトは、Aさんからの注文によって発動され、実行される。そして、こうした取引を行ったことがブロックチェーンに記録され、公表される。

 このように、自由に形成されたコンピューターの集まりによってスマートコントラクトが実行されることで事業を進めていく組織を、DAO(Distributed Autonomous Organizarion:分散自律型組織)という。

 中央集権的な管理主体なしに、事業を進めることができるのだ。

【次ページ】DAOの拡張:DeFiは現実通貨を扱えるか?

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