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  • 2021/09/18 掲載

SBIが新生銀行のTOBを急ぐ理由とは? 関係ないとは言えない「菅政権の退陣」

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ネット金融大手SBIホールディングス(SBIHD)が、新生銀行のTOB(株式公開買い付け)に乗り出した。SBIHDは複数の地銀をネットワーク化した「第4のメガバンク」構想を掲げている。新生銀行を傘下に加えれば、同行を中核銀行とした地銀の統廃合が進むことは間違いない。ただ、新生銀行側は「取締役会の賛同を得たものではない」としており、場合によっては敵対的TOBに発展する可能性もある。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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SIBホールディングスが、新生銀行のTOBを急ぐワケとは?
(写真:つのだよしお/アフロ)

最大の狙いは「第4のメガバンク構想」の実現

 SBIHDは2021年9月9日、新生銀行に対するTOBを開始すると発表した。すでにSBIHDは市場で新生銀行の株式を買い進めている。現時点において約20%の持株比率となっており、3月時点では同行の筆頭株主となっている。SBIHDはTOBによってさらに株式を買い増し、最大で48%まで引き上げることを検討している。

 SBIHDは公開買い付けの理由として、両者の事業が相互補完的であり、一体化によって高い相乗効果が得られると説明している。たしかにその通りなのだろうが、同行に対してTOBを実施する最大の狙いは、SBIHDが掲げる第4のメガバンク構想の実現であることはほぼ間違いない。

 同社は以前から、地銀のネットワーク化を進める意向を示しており、実際、福島銀行や島根銀行など複数の地銀と資本提携を行っている。だが、地域ごとにバラバラな地銀を取りまとめ、第4のメガバンクとして機能させるにはどうしても中核銀行が必要となる。

 たとえば、信用金庫には信金中央金庫(信金中金)という中央銀行があり、各信金が経営危機に陥った際のバッファとしての役割を担っている。JAバンクには農林中央金庫(農林中金)があり、同行は各地のJAバンクから集めた資金をまとめて運用する巨大ファンドとしての機能を持つ。SBIはもともとネット証券を母体としており、銀行としての機能は脆弱である。また資本参加した地銀は、いずれも規模が小さく、中核銀行としての機能は期待できない。

 日本長期信用銀行を前身とする新生銀行がグループに加われば、同行を中心に地銀をネットワーク化し、最終的には地銀再編の口火を切ることができる。今回のTOBに際して、地銀再編が視野に入っていることは、同行の経営陣候補者からも見て取れる。

 SBIHDはTOBが成功した場合には、経営陣を刷新する方針を示しており、元金融庁長官の五味広文氏を新たな会長として推薦している。五味氏は金融庁の前身である金融監督庁の設立を主導したことで知られており、金融庁の分離以降、一貫して日本の金融行政の中心にいた人物である。

 金融庁はその後、地銀の競争力強化や再編を促しており、五味氏が新生銀行のトップに就任すれば、地銀再編の動きが加速する可能性は高い。

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新生銀行がグループに加われば、同行を中心に地銀をネットワーク化し、最終的には地銀再編の口火を切ることができるが…
(Photo/Getty Images)

地銀再編は菅政権の肝煎り政策だった

 もっとも現時点では、新生銀行側は提案を受け入れておらず、TOBが成功するのかは分からない。敵対的なTOBになるリスクを抱えつつも株式の買い付けを急いでいるのは、直接的には、今後の協業方針について両社に溝が出来たことが原因とされる。だが、菅義偉首相の退陣が決まったことも決して無関係ではないだろう。

 菅氏は以前から地銀改革論者であり、首相に就任するとすぐに地方銀行の再編を進める意向を示していた。日本における100万人あたりの銀行店舗数は約296店舗だが、米国は236店舗、ドイツは93店舗となっており、日本は人口あたりの店舗数が多い。

 加えて日本は今後、急激な勢いで人口減少が進むことが確実視されており、それに伴って各地域の商圏も縮小していく。IMF(国際通貨基金)のエコノミストは、人口減少による商圏消滅によって、今後20年間で一部の地方銀行の預貸率が、現在の水準から4割低下するとの試算を行っており、純粋に市場動向から判断すれば、地銀の再編はほぼ必須と言って良い。

 だが地銀の統廃合が進むと、地域経済に大きな影響が及ぶため、菅氏が掲げてきた地銀再編論には反対意見も多かった。そんな菅氏が頼りにしてきた財界人の1人がSBIHDを率いる北尾吉孝氏である。北尾氏は野村證券やソフトバンクを経てSBIHDのトップを務めているが、地銀再編に関する菅氏の懐刀と言われてきた。


 今回、菅氏が突如、辞任を表明したことから、菅政権が描いていた地銀再編論は一旦、白紙となる可能性が高い。SBIHDとしては政治的な動きは待っていられない状況であり、より直接的な手段で地銀のネットワーク化に乗り出したという図式である。

 また今回のTOBは金融庁にとってもメリットがあると指摘されている。

 新生銀行の前身である長期信用銀行はバブル崩壊で経営危機に陥り、1998年10月に金融再生法に基づき公的管理下に入った。2000年6月に行名を株式会社新生銀行に変更し、2004年2月には東証一部に上昇したが、政府は投入した公的資金をまだ回収できていない。

【次ページ】SBIHDによる新生銀行TOBを金融庁が歓迎?そのワケとは

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