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  • 2023/11/07 掲載

ナトリウムイオン電池とは何か、中国CATLがEVで実用化、トヨタら日本企業が有利のワケ

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EVの普及に伴い電池需要が増し続ける中で、全固体電池全樹脂電池などとともに、昨今注目を集めているのがナトリウムイオン電池です。ナトリウムイオン電池とは、現在自動車やPCなど幅広く使われているリチウムイオン電池と同様、充放電可能な二次電池です。トヨタなど日本企業が研究開発に努める中、中国では一部のEVにナトリウムイオン電池の採用が決まっており、実用化はすでに始まっています。ではなぜこれだけの注目を集めているのでしょうか。今、知っておきたいナトリウムイオン電池の基本についてわかりやすく解説します。

執筆:元技術系公務員ライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

執筆:元技術系公務員ライター 和地 慎太郎(わち・しんたろう)

東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として採用され、製造業者などさまざまな企業に対し、工場排水や廃棄物処理などの環境法令に関する実務を主に担当。公害防止管理者や廃棄物処理施設技術管理者などの国家資格を保有。2022年からフリーライターに転身し、環境ジャンルの専門性や、製造業と公務員のバックグラウンドを生かし、webメディアや企業サイトの記事などの執筆を行う。

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ナトリウムイオン電池とは
(Photo/Shutterstock.com)

ナトリウムイオン電池とは何か、仕組みは?

 ナトリウムイオン電池とは、リチウムイオン電池と同様、充放電可能な二次電池です。ナトリウムイオン電池は、正極にナトリウム酸化物、負極にハードカーボンと呼ばれる炭素材料、電解液に有機溶媒などが使われ、ナトリウムイオンが正極と負極の間を行き来することで充放電することができます(図1)。

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図1:ナトリウムイオン電池が放充電できる仕組み
(農畜産業振興機構 情報誌の記事を基に編集部作成)

 仕組みとしてはまず、正極のナトリウムイオンが電解液を通って負極に移動し、その正極と負極の電位差によって充電することができます。対して放電する際は、負極に蓄えられていたナトリウムイオンが、正極に移動することで放電することができます。

 こうしたナトリウムイオン電池は近年、詳細は後述しますが、中国最大手の電池メーカーであるCATL(寧徳時代新能源科技)が実用化を開始したほか、以前からトヨタが研究開発を進めているなど、大きな期待と注目を集めています。

脱リチウムイオン電池が必要なワケ

生成AIで1分にまとめた動画
 ナトリウムイオン電池が注目される背景には、リチウムイオン電池依存からの脱却が挙げられます。EVなどの普及に伴い、リチウムイオン電池の需要は伸び続けています。

 一方、リチウムイオン電池に使用する金属は希少な元素であり、また世界の一部の地域にしか存在しないことから、電池材料の供給不安という問題が生じています。リチウムイオン電池の電池性能は非常に優れているものの、将来的に資源不足になることが懸念されているのです。

 対してナトリウムは、地球上に豊富に存在します。また、化学の元素周期表(図2)を見ると、ナトリウム(Na)はリチウム(Li)の真下にある同族の元素であり、化学的な性質が似ています。

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図2:化学の元素周期表。ナトリウムはリチウムの真下にある
(出典:文部科学省、一部加工しています)

 こうした特徴から、リチウムイオン電池とともにナトリウムイオン電池の研究も、実は以前から行われていました。しかし、1990年代初頭、リチウムイオン電池の優れた電池性能の実現によって、研究開発の潮流はリチウムイオン電池へと移り変わりました。

 そして、ナトリウムイオン電池で同等の性能を発揮するのは困難と考えられ、研究開発は下火になってしまったのです。しかし、近年のリチウムの資源不足への懸念から、再び脚光を浴びることになりました。

「メリット4つ」をリチウムイオン電池と比較

 国内外で実用化が進むナトリウムイオン電池ですが、リチウムイオン電池と比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。

(1)資源量が豊富
 最大のメリットは、海水中などに存在するなど資源量が豊富にあり、世界中に存在することです。またコバルトなどの希少金属も使いません。

 一方、リチウムは、地球の地殻中にわずか0.002%しか存在しないと言われる希少な資源であり、かつ南米など一部の地域に偏在している金属です。これからますます伸び続けていく電池の需要に対し、材料の供給不安を懸念する必要がなくなり、また海に囲まれる日本にとっては非常に有利なポイントとなります。

(2)使用温度範囲の広さ
 一般的に電池には、適切な使用温度範囲があります。低温であるほど、電解液の粘度が増加して反応速度が下がり、抵抗値が上がるため、電池の出力が下がります。また高温になると、電池の性能劣化が加速し、寿命が縮まります。

 リチウムイオン電池の場合は、電池材料にもよりますが、セ氏0度から45度程度が使用温度範囲と言われています。一方、CATLが開発したナトリウムイオン電池は、マイナス20度以下でも性能を保持でき、最高90度までなら充電可能と報告されています。ナトリウムイオン電池の使用温度範囲の広さが、メリットの1つと考えられるでしょう。

(3)急速充電のスピード
 ナトリウムイオン電池の急速充電の速さは、一般的なリチウムイオン電池の5倍以上と言われています。CATLのナトリウムイオン電池の場合、約15分で80%程度の充電が可能です。リチウムイオン電池の急速充電スピードも日々進化を遂げているものの、ナトリウムイオン電池の急速充電の速さは、大きな特長の1つとされています。

(4)コスト
 資源量が豊富に存在する分、材料費のコストを抑えられます。今後ナトリウムイオン電池のサプライチェーンが整備されていくことで、製造コストはより削減されていくでしょう。また、ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池と電池構造に共通する部分が多いため、生産設備を流用しやすく、設備投資にかかるコストを抑えることができます。

「デメリット3つ」をリチウムイオン電池と比較

 一方、デメリットになる部分は以下のとおりです。

(1)低いエネルギー密度
 ナトリウムイオン電池の最大の課題は、エネルギー密度の低さです。車載用などの高性能なリチウムイオン電池は、1キログラム当たり200ワットアワーから270ワットアワーほどあるのに対し、CATLの開発したナトリウムイオン電池は160ワットアワーと報告されています。

 ナトリウムがリチウムのような電池性能を発揮することは、元素の性質上、本質的に難しい面があります。しかし、電池のエネルギー密度は電極の容量密度に依存するので、高性能な電極が開発されることで、高容量なナトリウムイオン電池が誕生することも期待できるでしょう。

(2)重さ
 ナトリウムの原子量はリチウムの3倍、イオン体積で2倍あり、重量が大きくなります。携帯機器やドローンなど軽量化が要求される用途には向きませんが、ESS(電力貯蔵システム)やEV、電動バイクなど重量の制約が少ない用途には支障がないと言えます。

(3)安全性
 ナトリウムはリチウム同様、発火性や爆発性を持つため、安全面での懸念があります。通常、ナトリウムは、水に触れると激しく反応するため、灯油などの中に保存されています。製品化にあたっては、現行のリチウムイオン電池のように適切な安全対策が必要となるでしょう。

中国で実用化、日本も日本電気硝子が量産へ

(1)世界初、中国CATLのナトリウムイオン電池がEVに搭載
 すでに中国では、ナトリウムイオン電池の実用化が始まっています。CATLは2021年7月、革新的なナトリウムイオン電池を開発したと発表しました。エネルギー密度や急速充電機能、熱安定性、低温性能などに優れる特長を有しています。

 さらに2023年4月には、中国の自動車メーカー、Chery Automobile(奇瑞汽車)のEVに、開発したナトリウムイオン電池が搭載されることをTwitterで発表しました。量産車両にナトリウムイオン電池が搭載されるという発表は世界で初めてのようです。現在、中国企業を中心に、ナトリウムイオン電池のバリューチェーンの構築や用途の開拓が進められています。

(2)日本電気硝子の全固体ナトリウムイオン電池
 日本国内では、日本電気硝子が全固体ナトリウムイオン電池の量産体制を進めており、2025年までの実用化を目指しています。同社が開発したナトリウムイオン電池は、正極と負極に結晶化ガラスを用いるなど、主要な部材をすべて酸化物の材料で構成されていることが特徴です。

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全固体ナトリウムイオン電池の仕組み
(出典:日本電気硝子 リリース
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日本電気硝子が開発した「全固体ナトリウムイオン電池」
(出典:日本電気硝子 リリース

 これによって、発火や有毒ガスの恐れがなくなり、低温(マイナス40℃)から高温(200℃)の状況下でも安定的に作動したりします。さらには、付帯設備が不要で、電池パックの構造を簡素化できたりするメリットもあります。同社によると、小型、大型、特殊、汎用を問わず、幅広い用途を想定しているとのことです。 【次ページ】トヨタらが進める研究開発の中身

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