- 会員限定
- 2025/08/07 掲載
日本人が知らない「関税15%」の真実…交渉の裏に潜むトランプ大統領の「真の狙い」
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。
トランプ大統領が見据える「日米交渉の目標2つ」
自動車は、日本経済の屋台骨であると同時に、米経済を支える基幹産業だ。そのため、日米関税合意の意味を考える上で、中心に据えて考える必要がある。日本において、自動車産業は国内の全就業人口の約10%にあたる558万人を雇用し、国内総生産(GDP)の約10%をたたき出す裾野の広い産業だ。一方、米自動車産業は全就業人口の4.9%に相当する1010万人の雇用を生み出し、米GDPの4.8%を占めていると、米国自動車イノベーション協会(AAI)が発表している。
こうした中で行われた対日交渉だが、トランプ大統領は2大目標を掲げている。それが、(1)慢性的な対日貿易赤字構造の根本的な是正、(2)自動車産業の米国回帰だ。今回の合意によって、どのように実現できる見通しを立てているのだろうか。
約80兆円の対米投資が条件でも「日本に悪くない」ワケ
まず、野村総合研究所の木内 登英エグゼクティブ・エコノミストの試算によれば、今回の合意で日本の対米貿易黒字は15%の関税による輸出減、米国からの農産物や防衛装備品、航空機の輸入増などにより、全体で6.2兆円削減される。しかし、すでに輸入が決まっている物品や、合意がなくても自然に増える輸入分を差し引くと、2024年に8.6兆円であった黒字額を、その約56%に当たる4.8兆円減少させるにとどまる。また、モータージャーナリストの池田 直渡氏が日本の自動車メーカー幹部に取材したところ、「仮に関税が25%になったとしても、100%メイドインUSAで生産するコストより安い」との回答を得た。つまり、1ドルが140円台の現在の円安為替レートにおいて、日本車の対米輸出は15%の関税により利益が削られても、なお構造的に儲かるのだ。
そのため、日本にとり死活問題である自動車への追加関税が25%から15%にまで下げられたことは、交換条件である5,500億ドル(約81兆円)規模の対米投資の約束を勘案しても、悪くないディールだと見られている。
このままであれば、本来は米消費者に転嫁される15%の自動車関税の一部を日本メーカーが負担しても、日本の対米自動車輸出で「利益が出る体質」は変わらない。2024年に総額21.3兆円であった対米輸出全体に自動車が占める割合は28.3%、自動車部品は5.8%と、全体の1/3を占めていたが、この割合は近未来的に大きく動かないだろう。
つまり、トランプ大統領の目指す「自動車が生み出す慢性的な対日貿易赤字構造の根本的な是正」は、今回の合意による達成が困難であるのだ。ではなぜ、こうした状況でもトランプ大統領は容認したのか。
【次ページ】関税交渉の裏に隠された「米国回帰」戦術
グローバル・地政学・国際情勢のおすすめコンテンツ
グローバル・地政学・国際情勢の関連コンテンツ
PR
PR
PR