- 会員限定
- 2024/10/04 掲載
なぜ「令和の米騒動」は起こった? “元凶”農政に欠けすぎている「ある視点」とは
「インフレ時代の農業」
愛媛県生まれ。京都大学文学部卒。中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信社を経てフリーに。新刊に『日本一の農業県はどこか―農業の通信簿―』(新潮新書、2024年1月)、共著に『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書、2023年)、『誰が農業を殺すのか』(新潮新書、2022年)など。日本の食と農に潜む課題をえぐり出したとして、食生活ジャーナリスト大賞ジャーナリズム部門(2023年度)受賞。雑誌や広告など企画編集やコンサルティングなどを手掛けるウロ代表取締役
需要が増え続ける、おにぎり、弁当などの「中食業界」
コメづくりは需要が減り続ける斜陽産業だと思われてきた。ところが、そんな不景気な話をどこ吹く風と、コメの需要を増やし続けている分野がある。中食業界だ。「家庭内で炊飯する機会はどんどん減少しています。そのために食の外部化が進み、中食需要が増加し、自然、この分野でコメの消費が拡大しています。スーパー、コンビニエンスストア、惣菜専門店での弁当やおにぎりの売り上げは上昇しています」(清水氏)
こう話すのは、一般社団法人 日本惣菜協会 専務理事の清水 誠三氏。惣菜の市場規模は、11兆円に迫ろうとしている。コロナ禍の始まった2020年こそ前年比でマイナスとなったものの、21年以降は右肩上がりだ(上図)。その成長率は外食や家庭内食を上回る。
弁当やおにぎり、すしといった米飯類も例外ではなく、過去3年にわたってプラス成長を続ける。レッドオーシャンと化しつつあるコメ業界が、この潜在需要に応えない手はない……はずなのだが、現実は必ずしもそうなっていない。
ブランド米戦国時代と業務用米不足のカラクリ
中食が必要とするのはいわゆる業務用米で、比較的安価なコメ。北海道の「きらら397」に代表される値ごろ感のあるB銘柄に需要があるのだが、こうしたコメは農家と行政から概して不人気である。どうせなら、コシヒカリに代表される家庭での炊飯を前提としたブランド米を作って高く売りたい。これが農業側にありがちな発想だ。道府県によるブランド米の開発と発売は、途切れることがない。岩手の「銀河のしずく」、宮城の「だて正夢」、秋田の「サキホコレ」、山形の「つや姫」、「雪若丸」、新潟の「新之助」、福井の「いちほまれ」、富山の「富富富(ふふふ)」……。
デビューしたてのころは、テレビCMや広告による露出が多く、スーパーの棚にも並ぶ。ただ、ブランド米が氾濫し戦国時代のような様相を呈しているので、一握りしか棚には残れない。多くは淘汰(とうた)され、消費者から忘れられていく。
ブランド米の開発に血道を上げる。その不毛さは、コメの消費の移り変わり(下図)を見れば一目瞭然だ。家庭での炊飯は、コロナ禍で在宅時間が増えた「巣ごもり需要」による一時的な揺り戻しを例外として、減り続けている。
消費が低迷するブランド米を漫然と作り続ける。このことが業務用米の不足を招いてきた。
清水氏はこう嘆いていた。 【次ページ】業界関係者が嘆く、農政に欠けすぎている「ある視点」
農業・漁業・林業・畜産業のおすすめコンテンツ
農業・漁業・林業・畜産業の関連コンテンツ
PR
PR
PR