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- 2025/05/07 掲載
「卵」価格3倍・密輸158%増の衝撃…鳥インフルだけでない「原因2つ」が全然笑えない
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

卵の「密輸158%増」という笑えない話も…
米農務省は2022年2月から2025年2月にかけて、バイデン・トランプ両政権下で合計1億6600万羽以上のニワトリを殺処分した。今回の局面では、2024年10月からの処置が急増している(下図)。
2025年1月だけでも3000万の卵を生産する雌鶏(産卵鶏)が失われている。その結果、鳥インフル流行前と比較して卵を産むニワトリが12%減少し、2億9200万羽となった。加えて、2月にも1100万羽が処分された。
米労働省の消費者物価指数(CPI)統計によれば、2月の卵価格は前月比で12.5%、前年同月比で59%の値上がり。地域によっては、Lサイズの値段が1ダース当たり10ドル超えも見られる。ニューヨーク市では3月に無料で卵を配布するイベントが開かれ、そのために用意した100ダースに対し2倍の人々が押し寄せ、話題になった。
この状況に対処すべく米国は、世界第2位の鶏卵輸出国であるポーランドをはじめ、フランスやデンマーク、ブラジル、トルコ、インドネシア、そして韓国からも安価な卵を輸入しようと動いている。フランスやデンマークは現在、欧州連合(EU)向け関税引き上げで米国と準貿易戦争の状態だが、トランプ政権からの要請に前向きに対応しているようだ。
しかし、生鮮品で地産地消が基本の卵は、賞味期限が短い上に殻が壊れやすい。そのため、一部は乾燥させたり、冷凍したりする必要が出てくる。また、各国が常に余剰分を用意しているわけでもない。こうした中、「品不足の米国に卵を輸出すれば、儲かる」とばかりに、南隣のメキシコから食品安全基準をクリアしていない卵の密輸が2025年に入って158%も増えたという。
すでに卵の需要“急減速”で「価格も急下落」?
解消が見通せない米国の卵危機だが、殺処分される産卵鶏の数が急激に減少し始めたことに加え、市場の自然な調整メカニズムが働き、価格が下落を始めていることは特筆される。卵価格のあまりの高さに消費者が敬遠するようになり、在庫が5~8.5%も増加したのだ。そのため、全米の鶏卵価格は3月7日時点で1ダース当たり6.85ドル(約1,016円)と、過去最高となった2週間前の8.15ドルから16%低下したと農務省が発表した。卵供給企業の米エッグス・アンリミテッドのブライアン・モスコジウリ副社長は、「価格は急速に下落しつつある。消費者は高騰する価格に抵抗を示し始めている。需要は急激に落ち込んでいるようだ」と、ブルームバーグ通信に対して語った。
多くの消費者が卵に代えて、ヨーグルト、チーズ、大豆、大豆由来の豆腐、レンズ豆など別のタンパク源に乗り換えたことが大きな要因だと見られる。
ある食品の上方価格変動があまりにも大きい場合、人々は生活防衛のためにより安い代用品を求めるようになり、高くなり過ぎた食品への需要が減退する。それにより価格が徐々に落ち着いてゆくという、経済の教科書的な現象が起こったことは興味深い。
日本でもコメをはじめ食料品の相次ぐ値上がりが家計を直撃している。だが、消費者が代用品に流れて需要が弱まれば、売り手は価格を下げざるを得ないだろう。
なお、米卸売卵価格が下落しているにもかかわらず、米小売卵価格は4月中旬現在、高止まりしている。これに関し、米アーカンソー大学で農業経済学を教えるジェイダ・トンプソン准教授は「現在販売されている卵は卸価格が高い時に仕入れられたもので、新たな卸価格が小売価格に反映されるには数週間かかる」と指摘した。
このような状況にある今回の卵不足だが、実は隠れた2つの原因に注目すべきだ。他の産業でも同様に起こり得る業界構造の問題が浮き彫りになってきている。 【次ページ】隠れた業界構造の「2つの問題点」
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