- 2026/04/13 掲載
EV・AI特需の裏で“消耗戦”へ?パワー半導体の再編劇に見る日本企業の「生き残り策」
パワー半導体は「成長市場」なのにキツいワケ
3月6日、デンソーがロームに対して株式取得を含む提案を行っていることが明らかになり、同月27日にはローム、東芝デバイス&ストレージ、三菱電機が半導体事業の事業・経営統合に向けた協議を開始することで基本合意したと発表した。そもそも、パワー半導体は、電気を効率よく変換・制御する基幹部品であり、EV、産業機器、再生可能エネルギー設備、鉄道、家電、データセンターまで用途が広い。需要の方向だけを見れば、成長市場であることに疑いはない。
国際エネルギー機関(IEA)は、2024年の世界のEV販売が1700万台超に達し、新車販売に占める比率は約20%超まで上がったとまとめた。フランスの市場調査会社Yoleグループも、SiC(炭化ケイ素)デバイス市場が2024年から2030年に年平均20%で成長し、2030年に103億ドルへ拡大すると見込む。AI普及に伴う電力需要の増大も追い風で、IEAはデータセンターの世界電力消費が2030年に945TWhへ倍増すると試算する。電力を扱う量が増えるほど、高効率な半導体の重要性は高まる。
だが、成長市場であることと、そこで高収益を確保できることは別の話だ。
とりわけSiCは、先行投資の重さが収益を圧迫しやすい。ロームは次世代の第5世代SiC MOSFETの生産ライン整備を2025年までに完了する計画を示し、東芝も加賀東芝エレクトロニクスに新たな300ミリ工場を建設、フル稼働時にはパワー半導体の生産能力を2021年度比で2.5倍にするとしてきた。ルネサスも甲府工場に900億円を投じ、2025年にIGBT中心の量産を始めれば生産能力は現在の2倍になると公表している。
各社が同時に能力増強へ動けば、需要が想定通りに立ち上がらない局面で稼働率が落ち、減価償却負担が一気に重くなる。米国の半導体メーカーonsemiが2025年通期決算で「大型投資サイクルはほぼ終えた」と説明したのも、投資局面から収益回収局面への転換を急ぐ事情の裏返しと言える。伸びる市場ほど、投資の早かった企業から先に消耗戦へ入る。
「後戻りできない」再編劇の行方
その消耗戦が日本で一気に可視化したのが、ロームを巡る動きだ。デンソーは2025年5月の基本合意に基づき、ローム株式の取得を含むさまざまな戦略的選択肢を検討してきたが、2026年3月にはロームに対し株式取得に関する提案を行ったと正式に開示した。
デンソーは半導体を重点領域の1つに位置付け、モビリティでの電動化・知能化が進むなかで供給体制や技術開発の強化が不可欠だと説明した。
ここからは、日本勢の弱点が「技術の不足」ではなく、「用途横断で投資を回収できる事業規模の不足」にあるという点が浮かび上がってくる。デンソーが欲しかったのは、車載向けの供給安定だけではない。産業機器や民生機器に強いロームを取り込めば、景気循環や顧客の偏りを和らげながら、研究開発と設備投資の固定費を広い市場で吸収できる。単独で強い会社より、複数用途を束ねて投資効率を高める会社が有利になるという現実が、買収提案の背景にある。
その直後に表面化したローム、東芝デバイス&ストレージ、三菱電機の統合協議は、再編が一過性の思惑では終わらないことを示した。
3社は2026年3月27日、ロームの半導体事業、東芝デバイス&ストレージの半導体事業、三菱電機のパワーデバイス事業の事業・経営統合に向けた協議開始で基本合意した。ロームは、競争力強化には生産規模の確保と技術開発力の向上が不可欠だと説明し、AIサーバやデータセンター市場での相乗効果にも言及した。
そもそもロームと東芝は2023年に、ロームがSiC、東芝がSiに重点投資し、互いの生産能力を補完利用する方針を打ち出していた。日本の再編は突然始まったのではない。単独成長の限界を認めた企業同士が、製造・開発・販売の三位一体で組み直す段階に入り、そこへ三菱電機が加わったことで「選択肢の1つ」から「業界全体の流れ」へ変わったのである。 【次ページ】日本勢に求められる「勝利条件」とは
EV(電気自動車)のおすすめコンテンツ
PR
PR
PR