- 2026/04/13 掲載
EV・AI特需の裏で“消耗戦”へ?パワー半導体の再編劇に見る日本企業の「生き残り策」(2/2)
日本勢に求められる「勝利条件」とは
では、再編さえ進めば、日本勢は世界市場で勝てるのか。答えはそう単純ではない。第一に問われるのは、車載偏重から抜け出せるかどうかだ。SiC需要の中心が当面は自動車であることは間違いない。Yoleグループは今後5年間も自動車・モビリティ用途がSiC需要の約7割を占めると見る。一方で、産業機器、太陽光発電、EV充電器、高出力データセンターでも採用は広がっている。
データセンターでは、AI向けGPU需要の増加で1ラック当たりの消費電力が急増している。自動車一本足では、顧客の投資調整や補助金政策の変化が直撃する。逆に産業、エネルギー、データセンターまで押さえれば、需要の時間差を利用して稼働率を平準化しやすい。デンソーがロームの産業・民生の強みに意味を見出したのも、この補完関係があるからだ。
第二に、SiCで先行していても安泰ではない。量産歩留まり、基板調達、顧客認証、価格競争力を一体で揃えられなければ、先行投資は優位ではなく負担になる。富士電機は2025年度の事業戦略説明会で、電動車の伸び率は従来見通しより鈍化するとしつつも、再エネや海外開拓を強化し、SiCと第7・第8世代IGBTの構成比率引き上げを進める方針を示した。これは、成長領域を広く持ち、製品世代を切り替えながら採算を守る戦い方だ。第三に、販売網と顧客基盤の厚みが要る。
ロームの開示がAIサーバやデータセンター市場でのシナジーを強調したのは、単に技術を足し合わせるだけではなく、誰にどこまで売り込めるかが再編後の収益力を左右するからである。規模は必要条件にすぎない。用途の分散、量産力、販路。この3つが揃わなければ、再編しても固定費の大きい会社が残るだけだ。
この先迫られる「厳しい二択」
再編の意味を測るには、世界上位との距離を冷静に見る必要がある。半導体分野をはじめとする市場分析を手掛けるTechInsightsによる2024年の自動車向けパワー半導体ランキングでは、独インフィニオンが首位を維持し、2位のSTマイクロエレクトロニクスに9ポイント差を付けた。欧州勢の強みは、単に売上規模が大きいことではない。車載で量を取りながら、産業や電源でも顧客基盤を持ち、製品群を広く揃えている点にある。日本勢の統合が意味を持つのは、この土俵にようやく乗れるかどうかにかかる。世界首位に一足飛びに迫る話ではないが、用途別に分散した投資と販路を束ね、研究開発と工場負担を吸収する器を持てるかどうかが、復権と延命を分ける。
次に動く候補としては、富士電機やルネサスの名前が自然に浮かぶ。富士電機はパワー半導体事業で2025年度売上高2230億円、海外売上比率51%を計画し、成長領域への能力増強を続ける。ルネサスも甲府の300ミリラインで能力倍増を進め、AI向け電源市場を狙う。いずれも単独で投資余力を持つが、世界的に見れば競争は一段と激しくなる。
三菱電機、ローム、東芝の枠組みが正式契約まで進めば、日本勢の再編は一度きりでは終わらない公算が大きい。顧客の側でも、完成車、産業機器、データセンター事業者は、供給安定と価格競争力を両立できる相手を求める。
再編の本質は救済ではない。高額な投資を前提にした産業で、単独主義を続ける企業から市場を去らせる選別である。日本勢が復権できるかどうかは、日の丸か否かではなく、用途をまたいで稼ぎ、投資を回し、値下げ圧力に耐える事業体へ変われるか、次第だと言えるだろう。
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