- 2026/05/22 掲載
「訴えるぞ」逆ギレ荷主も逃げられない…物流の常識「タダ働き」が消える法改正の威力
連載:「日本の物流現場から」
Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。
付帯作業に「怯える荷主」と「開き直る荷主」
かつて量販店への商品配送においては、「店員に代わり、トラックドライバーが店舗の棚に商品を陳列する」棚入れを、運送会社は当然のように強いられていた。20年ほど前には、コンビニでも頻繁にドライバーが棚入れを行う光景が見られたものだ。さすがに最近ではこういった棚入れを強いる荷主は減っているものの、いまだに棚入れを行わせている荷主(量販店)は存在する。
ある運送会社(運送会社Aとする)も棚入れに悩んでいた。というのも、量販店である荷主(荷主Bとする)の配送では棚入れの負担が大きく、ドライバーは1日の勤務時間の中で、輸送を行う時間よりも棚入れを行っている時間のほうが長かったからだ。
この仕事に嫌気が差したドライバーは、ついに退職してしまった。困ったのは運送会社Aである。そもそも棚入れに対する付帯作業料金も収受できていない。その上、ドライバーが退職してしまったとなれば、もはやこの案件そのものが経営上のリスクと言っても過言ではない。
「仕事を辞めさせてほしい」、意を決して荷主Bに申し入れたところ、同社は激怒し、「業務不履行で訴える」と言い始めたそうだ。
別の、やはり量販店への配送を行っている運送会社(運送会社Cとする)は、問屋である荷主(荷主Dとする)からクレームを受けた。ある配送先店舗において、運送会社Cのドライバーが棚入れを行っていたことが発覚したのだ。
基本的にはドライバーが着荷主(この場合は配送先店舗)に自ら棚入れを行うことを申し出ることはない。
荷主Dでは、運送取引の健全化(とりわけ付帯作業の見直し)を行っており、その中で運送会社Cのドライバーによる棚入れ行為が発覚したのだ。
「配送先店舗から『棚入れをして!』と言われれば断りにくいことは十分理解しています。だからこそ、私ども(荷主D)から店舗に申し入れを行うので、今後もこういったことがあればきちんと報告してください」と荷主Dの担当者は、運送会社Cに告げたそうだ。
これらの付帯作業は、荷主企業の命運を左右しかねない問題へ発展する可能性がある。では現場では、何が変わるのだろうか。
政府が定めた、付帯作業の「範囲と料金」
ドライバーがトラックを運転すること以外のすべての行為は、基本的に付帯作業に該当する。2025年に更新された標準貨物自動車運送約款では、付帯作業の例として、「品代金の取立て、荷掛金の立替え、貨物の荷造り、仕分、保管、検収及び検品、横持ち及び縦持ち、棚入れ、ラベル貼り、はい作業その他の貨物自動車運送事業に附帯して一定の時間、技能、機器等を必要とする業務」を挙げている。
ちなみに「はい作業」とは、貨物を崩れないように積み上げる「はい付け」と、逆に積み上げられた貨物を安全に荷卸しする「はい崩し」を指す。
また積み卸しを開始するまでの待機時間(荷待ち時間)や、荷役時間は別途料金が発生する旨、記載されている。なお待機時間料と荷役料について、「標準的運賃」(国が推奨する参考価格)では、以下のように定められている。
- 待機時間料(30分を超えて2時間まで)
- 2トントラックの場合 1,680円/30分
- 大型トラックの場合 1,890円/30分
- 待機時間料(2時間を超えた場合)
- 2トントラックの場合 2,010円/30分
- 大型トラックの場合 2,670円/30分
- 荷役料(2時間以内)
- フォークリフトまたはトラック搭載型クレーンを使用した場合
- 2トントラックの場合 2,080円/30分
- 大型トラックの場合 2,340円/30分
- 手積みの場合
- 2トントラックの場合 2,000円/30分
- 大型トラックの場合 2,260円/30分
- フォークリフトまたはトラック搭載型クレーンを使用した場合
- 荷役料(2時間を超えた場合)
- フォークリフトまたはトラック搭載型クレーンを使用した場合
- 2トントラックの場合 2,490円/30分
- 大型トラックの場合 2,810円/30分
- 手積みの場合
- 2トントラックの場合 2,810円/30分
- 大型トラックの場合 2,710円/30分
- フォークリフトまたはトラック搭載型クレーンを使用した場合
ちなみに内閣府が発表した「2030年度に向けた政府の中長期計画」では、「荷待ち・荷役の時間が合計2時間を超えた場合は、割増率5割を加算」という記述がある。政府としては、1運行2時間ルール(1運行当たりの荷待ち・荷役時間を2時間以内に収める)をプッシュしたいがための方針なのだろうが、標準的運賃との整合性が取れていない。
標準的運賃を始めとした政府の指針は、市場の運賃感や現場感覚と大きく乖離していることもあり、まさしく「絵に描いた餅」であるとの批判も多い。
だが政府が、これまで運送会社が無償での対応を強いられてきた荷待ち・荷役や付帯作業について、適正な対価が収受できるような仕組みづくりを行おうとしている点は評価したい。
センコーが“見せしめ”に?「取適法」の大きな変化
荷主や元請事業者が、運送会社に対して荷待ちや荷役、棚入れなどの付帯作業を、事実上これまで無償で強いていた背景には、圧倒的なパワーバランスの格差がある。運送会社側は、「いいよ、ウチの仕事をしたくないなら辞めてもらって。だって、運送会社は他にもたくさんあるから」と荷主に言われてしまえば逆らえなかったからである。
こういった取引関係上のパワーバランスの格差を利用し、弱い立場の事業者に対して無理難題を押し付ける行為は「優越的な地位の濫用」とされ、独占禁止法によって禁止されている。特に中小企業の立場を守るため、取り締まりの実行役を果たしていたのが旧下請法であった。
ではなぜ、これまで荷主・元請事業者が立場の弱い運送会社に対し、無償の付帯作業等を強いていた状況が変わらなかったのか。
詳細は割愛するが、旧下請法では運送ビジネスにおける優越的な地位の濫用を摘発できなかったからだ。これを摘発するためには独占禁止法を適用する必要があったが、この場合は摘発に時間と手間がかかり、現実的ではなかった。
2026年1月、下請法が改正され、取適法(中小受託取引適正化法)として生まれ変わった。この改正のポイントはいくつかあるが、運送業界においては面倒な独占禁止法ではなく、取適法によってよりスピーディーに優越的な地位の濫用を摘発できるようになったのだ。
政府は、今後この法改正を活用し、積極的に無償の付帯作業等を摘発していく方針を打ち出している。
その象徴的な出来事が、2025年12月12日、公正取引委員会が物流業界大手のセンコーに対して行った勧告である。センコーは、下請事業者に対して無償で荷待ちや荷役作業を強いたとして、本来の対価を速やかに支払うことを命じられた。
ちなみに、この勧告が行われたのは取適法が施行される前である。下請法では、荷主による運送会社に対する優越的な地位の濫用の摘発はできなかったが、元請事業者と運送会社におけるこれは摘発できた。
とは言え、これまでは同様のケースは指導に留まっており、センコーのケースは無償の荷待ち・荷役に対して勧告が行われた初めてのケースであった。
取適法が施行される前月にあえてセンコーという物流業界のビッグネームに対し勧告を行ったのは、「取適法が適用されたらガンガン摘発していきますよ」という政府からのアピールであり、センコーはスケープゴートにされたのだろう。 【次ページ】運送も荷主も見落とす「隠れ付帯作業」とは
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