- 2026/08/28 06:50 掲載
なぜラピダスは「大量生産しない」のか? 日本が復活に賭けた「2nm半導体の勝ち筋」
地方国立大学大学院修了後、半導体関連企業に入社。働きながら半導体業界に関する情報をブログ、YouTubeで発信中。運営するYouTube「半導体業界ドットコムch」はチャンネル登録者2万人を超える。著書に『今と未来がわかる半導体(ナツメ社)』、『パワー半導体超入門(技術評論社)』、『一冊でつかむ 世界を動かす半導体( 河出書房新社)』がある。
なぜ日本は「TSMC」を熊本県に誘致したのか?
1980年代後半に世界シェア約50%を誇った日本の半導体産業は、1990年代以降の水平分業化の波に乗り遅れ、現在は10%弱にまでシェアを落としました。しかし現在、日本は国家の命運をかけて半導体産業の再興に向けた戦略を加速させています。その第1段階は製造基盤の強靭化であり、TSMCを熊本県菊陽町に誘致したJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の設立はその象徴です。ソニー、デンソー、トヨタ自動車という国内大手が出資するこのプロジェクトの背景には、経済安全保障という極めて現実的な課題があります。
パンデミックや地政学リスクにより、半導体の供給網の脆弱性が露呈しました。自動車や産業機器という日本の得意分野において、不可欠な半導体の製造拠点を国内に確保することは、国家の生存戦略そのものです。
TSMCに「1.2兆円」を投じたワケ
JASMの誘致には、日本政府が最大で約1.2兆円という巨額の助成金を投じています。この決断の背景には、単なる工場の確保以上の狙いがあります。かつて日本が半導体で世界一だった時代、国内の製造ラインと、日本の優れた製造装置・材料メーカーは、密接に連携しながら2人3脚で技術を磨き上げていました。しかし、国内の工場が次々と閉鎖され、先端ロジック半導体の製造現場が台湾や韓国へと移ってしまうと、日本の装置・材料メーカーは海外の工場へ出向いて自社製品の評価・テストを頼むしかなくなり、開発のスピード感や主導権を握りにくい状況が続いていました。
世界最強のファウンドリであるTSMCの拠点が日本に誕生したことは、この状況を劇的に変えます。国内に再び最先端の製造の現場が戻ってくることで、世界トップシェアを誇る日本の装置・材料技術の優位性はさらにブラッシュアップされます。これによって、世界が日本の技術に依存せざるを得ない、強力な半導体エコシステムが日本を中心に再構築されるのです。
JASMの第1工場は2024年末から稼働を開始し、第2工場では3nm世代の製造を行うことが決まりました。熊本を中心とした九州の半導体産業の再興は、単なる工場の誘致にとどまりません。関連企業の集積、インフラ整備、そして次世代を担う人材への投資を加速させています。
日本が再び世界の半導体サプライチェーンにおいて、なくてはならない戦略的パートナーとしての地位を取り戻すための、極めて現実的かつ強固な土台作りが進んでいます。 【次ページ】日本が「ラピダス」に賭ける理由
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