- 2026/08/27 06:50 掲載
なぜ3.3億円でも売れるのか…? 職人1時間→AIで1分、世界初「製造AI」のヤバい実力
連載:勝てる工場のつくり方~アルム編~
法政大学工学部卒。大手計測機器メーカーにエンジニアとして入社するも、リアルなものづくりがしたいと木工職人に転職。一転、30 歳を前に「言葉」「伝える」力に魅力を感じ、ライターを志す。当初はインテリア、製造業関連の案件が多かったが、次第に経営者、ビジネスサイドへのインタビュー案件が増加。ここ数年は IT テクノロジー、人事・求人・採用、中小企業経営者といった分野の案件多数。クラシックバレエに夢中な相方、アパレル企業で働く娘、父親と同じ大学の理工学部で学ぶ息子、13歳の犬・ミニチュアピンシャーの4人+1匹家族(2026年現在)。
前編はこちら(※この記事は後編です)
熟練技術の“ワザ”はなぜ「継承しにくい」のか?
中小町工場が培ってきた金属加工の技術ならびに、町工場そのものを次世代に継承したい。アルムが現在の事業を手がけるようになった根幹の思いを、前編の記事でこのように紹介したが、改めて日本の製造業が抱える課題を2人に聞いた。そもそもなぜ、熟練技術者の技術は継承しづらいのか。なぜなら、アルムが手がけるような金属加工の技術を身につけるには、それなりの時間がかかるからだ。「失敗することで学ぶ。この繰り返しで、基本的な技術を身につけるだけでも最低10年は必要だと思います」と両者は口をそろえる。
同じ製品を大量に作る工場のライン作業であれば、これだけの年数は必要ないだろう。だが、日本の多くの町工場が依頼される製品は、大企業が生産するには採算が合わない、ニッチで少量生産の部品もしくは試作品が大半だ。
そのため依頼がある都度、提供された図面を理解する。どのような加工で進めれば製品を作ることができるのか思案する。さらにはここがまさにアルムのソリューションのコアコンピタンスでもあるが、熟練工が考えた加工の詳細や流れを、マシニングセンターなどコンピューターを搭載した工作機械に理解・実施してもらうよう、NCプログラムに変換する必要がある。
加工が始まってからも、工具の付け替えや材料の入れ替え、仕上げ状態のチェックやバリ取りなど、全部でおよそ12の工程を行う必要がある。
「熟練工で1時間」→「AIで1分」
このうち前半の3工程を、同社の製造AIソフトウェア「TTMC Brain」が担う。一方、TTMCであればその後の素材段取から洗浄までの残り9工程も含めた、金属部品の設計から加工まで一連の業務を完全自動で行うことができる。その結果、作業に要していた時間は大幅に削減。同社によれば、10年の修行期間は必要とせず、経験の浅い人材であっても、精度は熟練工と同等でありながら短時間で製作してしまうという。
中でもやはり一番のポイントは、前編でも説明したように、オーエスイー(現MMOP)の熟練工から得たデータを元にAIがNCプログラムを自動でコーディングしてくれる点だろう。いわゆるCAMの領域となる、工具選択、加工条件の設定、削り方の指定、安全面のチェックなどだ。
熟練工が1時間ほど要していたこれらの判断ならびに具体的に指示に落とし込むプログラミング作業を、TTMC Brainであればわずか1分で行う。
「AIキャラ」と会話するだけ、設計から加工まで完全自動化
ただし、全工程を自動で担うマシンの価格は約3億3,000万円。手が出ない企業も少なくないだろう。一方で、既存の工作機械では思ったようなパフォーマンスが出ないケースが少なくない。そこでアルムは、新たな工作機械に前3工程の機能(TTMC Brain)を搭載し、さらにはマシンとのやり取りを人が画面に入力する従来のフローではなく、モニターに現れたAIキャラとの会話により実行できる新たなマシン「TTMC Origin」を開発した。その意図を、2人は次のように述べた。
「TTMC Brainでいくら自動化できるといっても、どうしてもマシニングセンターなどの入力画面に、人が打ち込むような作業が発生しますし、図面の理解も必要です。10年とは言いませんが、極簡単な加工でもこれらのスキルを身につけるのに最低でも数カ月はかかります。『TTMC Origin』であれば、この数カ月も必要ありません」(坂下氏)
「日本の町工場を見ると、大勢の外国人材が働いていますよね。言葉で苦労する方々も多いと聞きますが、『TTMC Origin』であれば難しい日本語を理解する必要はありません。約130の言語に対応しているからです。いずれ海外に進出した際にも強みとなるでしょう」(三島氏)
なおキャラクターに関しては変更することを検討中で、思念体のようなイメージなどキャラクター以外の可能性も考えているという。
大手も続々導入、狙いは「自社内町工場」化?
SaaSでの導入も含めると、現在230以上の企業で活用が進む同社のソリューションだが、ユーザーの多くが元々のターゲット層であった、中小町工場だという。中でも今日の製造業界の課題である、技術継承や人材不足に危機感を抱く、事業を受け継いだ跡継ぎ世代の経営者が多いそうだ。外国人材の採用も難しくなった今、採用や人材育成に費用をかけるよりも、着実に成果を出す同社のソリューションを選択した方が、経営効率が良い。
「労働集約型から資本集約型へのビジネスモデルへのシフトだと捉えています」と三島氏は話すが、まさにその通りの経営戦略ならびに、経営判断をしている経営者と言えるだろう。
このあたりはやや余談になるが、そのような意識の高い経営者は、同じ感覚を持つ経営者仲間とのネットワーキングにも積極的だ。そして、そのようなネットワーク内でTTMC BrainやTTMCがいい意味で話題となり、販路が広がっていることも容易に想像できる。
ところが、最近になってユーザー層に変化が見られるという。大企業での導入が相次いでいるというのだ。
理由は明白。自社にTTMCを置けば、これまで町工場や商社などに依頼していた手間がなくなるからだ。開発リードタイムの圧倒的な短縮はもちろん、昨今の社会情勢なども鑑みると納得の選択であり、自社内町工場的な利用とも言えるだろう。 【次ページ】新ビジネスモデル「部品調達プラットフォーム」構想の中身
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