• 2026/08/26 06:50 掲載

【現地潜入】ANAが泣き、JALは歓喜…「アラスカ航空・ハワイアン航空」巨大再編の裏側

連載:北島幸司の航空業界トレンド

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米アラスカ航空によるハワイアン航空の吸収合併は、北米航空業界の再編として大きな話題となった。北極圏に近いアラスカから常夏のハワイまでを1つのブランドグループが結ぶ、世界でも類を見ない「寒暖差世界一の航空会社」の誕生である。その舞台裏では、シアトルを中心に運航・整備・教育のすべてを刷新する巨大な変革が進んでいた。日本の空にも大きな影響を与えることが予想されるのだが、日本では意外なほど知られていない。なぜJALには追い風となり、ANAには痛手となるのか。その意外な構図を現地からひも解く。
執筆:航空ジャーナリスト 北島 幸司

航空ジャーナリスト 北島 幸司

航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する記事や連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。世界の航空の現場を取材し、内容をわかりやすく解説する。テレビ、ラジオの出演経験もあり、航空関係の講演を随時行っている。ダイヤモンド・オンラインでの連載、ブログ「Avian Wing」の他、エアラインなど取材対象の正式な許可を得たYouTube チャンネル「そらオヤジ組」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。

【現地潜入】ANAが泣き、JALは歓喜…「アラスカ航空・ハワイアン航空」巨大再編の裏側の画像
シアトルに到着したアラスカ航空便名のハワイアン航空機。尾翼には、ハワイアン航空のシンボルマークであるプアラニ(ハワイの女性のイラスト)が描かれている
(筆者撮影)

「アラスカ」と「ハワイ」が統合したワケ

 米アラスカ航空は、米国において、デルタ航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空といった大手エアラインと競い合う有力航空会社であり、西海岸からアラスカ州、そしてそれ以外の地域まで広がる圧倒的なネットワークを持つ。現在の有償旅客キロ(RPK)での輸送力は、サウスウェスト航空に次ぐ全米第5位の位置にいる。

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【画像7点付き記事全文(約3000字)はこちら】ボーイング737‐900ERの尾翼にはエスキモーが描かれている
(筆者撮影)

 一方のハワイアン航空は米国本土とハワイを結ぶ代表的なエアラインであり、日本とハワイを結ぶ米国側の代表的な航空会社として2010年の就航から親しまれてきた。こちらの輸送力は欧州フィンエアーに近い世界第71位程度の会社だ。

 両社の統合によって、北米、中南米、アジア、太平洋、ヨーロッパにまたがる140の路線を一体的に運営するネットワークが誕生。利用者にとっては乗り継ぎ都市や就航地が飛躍的に増え、日本から北米各都市やハワイ各島へのアクセスの選択肢も広がった。
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【潜入】格納庫で見た、アラスカ航空の「凄い整備力」

 シアトル・タコマ国際空港南側敷地内の南側にあるアラスカ航空の整備格納庫では、主力機であるボーイング737シリーズの整備が効率的に進められていた。アラスカ航空は保有数の250機以上が737を中心とした機材構成を採用しているため、部品管理や整備手順を標準化しやすく、高い稼働率を維持できることが大きな強みとなっている。

 シアトルが本社のアラスカ航空らしく、ボーイングの製造地が隣接する位置での運航は、何かと利便性が高い。そして、整備担当者は安全性を最優先としながらも、機体をできるだけ短時間で運航へ戻すことを重視していると説明した。

 ボーイングの航空機を多く保有するエアラインはANAを含め存在するのだが、機体に同社のスローガンだという「プラウドリー・ボーイング(誇りを持ってボーイング機を運航する)」とまで描いているエアラインはほかには見当たらない。今でこそエンブラエル機(ブラジルの航空機メーカーが製造する機体)とハワイアン航空のエアバス機があるので、すべてボーイング機ではないのだが、一時的に描かれていたのは「プラウドリー・オール・ボーイング(すべてボーイング機であることを誇る)」だったのだから両社の関係は強固だ。

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プラウドリー・オール・ボーイングを機首部分に描いたアラスカ航空のボーイング737型機も残されている
(筆者撮影)

 ハワイアン航空との統合によって機材構成は多様化するものの、長年培ってきた整備品質と効率性をグループ全体へ展開していく考えである。  アラスカ航空とハワイアン航空の統合は、単なる2社の再編にとどまらない。アラスカから常夏のハワイまでを結ぶ「寒暖差世界一」とも言える航空グループが誕生し、その競争力を支えるのが、シアトルで培われてきた高い整備品質と効率性だ。

 そして日本の航空業界にとって見逃せないのが、両社とANA、JALとの関係である。かつてハワイアン航空と提携していたANAに対し、現在のハワイアン航空、そしてワンワールドに加盟するアラスカ航空との関係で優位に立つのがJALだ。統合によるネットワーク拡大は、JALには追い風となる一方、ANAには新たな競争圧力となり得る。「ANAが泣き、JALは歓喜する」構図は、世界の空の再編が日本にも波及することを象徴している。

【潜入】訓練施設で見た「強さの秘密」である人材育成も凄い

 今回の視察で最も印象的だった施設の1つが、2026年1月に稼働を開始したレントンの街にある総面積6万1000平方メートルのグローバルトレーニングセンター(GTC)である。ボーイングが所有していた施設をアラスカ航空が購入し、改修したものだ。

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GTCのロビーに飾られるボーイング787‐9の大型モデル。アラスカ航空の新機材の尾翼にエスキモーはいない
(筆者撮影)

 ロビー天井からは実物の8分の1というアラスカ航空の最新鋭機種ボーイング787‐9のモデルがつるされている。ここではパイロットだけではなく、客室乗務員、空港のカスタマーサービスエージェントなど、多様な職種が同じ施設で教育を受けている。

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GTCではカスタマーサービスエージェント(地上旅客スタッフ)訓練も行われている
(筆者撮影)

 設備の概要は、フルフライトシミュレーターが10台、客室モックアップが5台、ドアトレーナーが4台などとなっており、空港カウンターも模擬訓練装置に加わっている。

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GTCにフライトシミュレーターが並ぶ
(筆者撮影)

 担当者は「最新設備によって学習時間を短縮でき、社員はより早く現場で活躍できるようになる」と説明した。教育は単なる知識習得ではなく、実際の運航現場を再現したシミュレーションを重視している。異常事態への対応や部門間の連携まで含めて訓練することで、安全性とサービス品質の向上を図っている。

 航空会社では、新路線や新機材の導入以上に「人材育成」が競争力を左右する時代となっている。その意味で、この施設は今後の成長を支える重要なインフラと言える。

 またビル内のいたる所に、アーカイブ的展示を見ることが出来る。アラスカ航空とハワイアン航空、両社の過去からの客室乗務員の制服や、航空バッグなど、過去を今に伝える博物館のようだ。

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GTC内にある歴代客室乗務員の制服展示
(筆者撮影)
【次ページ】【潜入】24時間“眠らない”グループ全体の頭脳
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