- 2026/08/24 06:50 掲載
スペースX「独走」では困る? NASAがマスクとベゾスを“あえて”競わせる納得の裏事情
1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。
スペースX vs ブルーオリジン、「月面競争」に異変…
両社が激突する主戦場の1つが、NASAの有人月面探査『アルテミス計画』である。アルテミス計画では、宇宙飛行士を月周回軌道から月面へ運び、再び月周回軌道へと安全に帰還させるための有人着陸システム(HLS:Human Landing System)が重要な役割を担う。このHLSを開発するのが、スペースXとブルーオリジンの2社だ。ところが2026年2月、NASAはArtemis IIIの計画を変更。予定していた有人月面着陸を見送り、2027年に地球低軌道(LEO)で有人実証ミッションを行う方針を示した。有人月面着陸再開を2028年のArtemis IVに持ち越し、技術リスクを軽減する方針だ。
このプログラム変更によって、従来は異なるミッションで月面着陸を担う予定だったスペースXとブルーオリジンの構図も大きく変化した。
競合2社がまさかの共演…「新ミッション」の全貌
軌道上実証へと変更されたミッションには、スペースXとブルーオリジンの2社が参加することが6月に発表された。新たなArtemis IIIは、世界最大級のヘビーリフト・ロケット(重量物打ち上げロケット)が短期間に相次いで打ち上げられる、非常に複雑な宇宙飛行ミッションとなる。具体的な計画では、まずブルーオリジンが開発・運用する大型ロケット「New Glenn」で、月面着陸船の試験機「Blue Moon Mark 1.5」を地球低軌道(LEO)に投入する。この試験機は軌道上で最大90日間の滞在能力を持つ。
続いて、NASAの大型ロケット「SLS」と4名の宇宙飛行士を乗せた「Orion」宇宙船が打ち上げられる。Orionは軌道上でBlue Moon Mark 1.5とランデブー・ドッキング(軌道上で接近・結合)を行い、約2日間にわたり結合状態を維持する。宇宙飛行士はBlue Moon試験機の有人キャビンに入り、生命維持システムの評価や新型宇宙服の実証なども行う実践的な内容だ。
OrionはBlue Moonから分離した後に、スペースXの宇宙船「Starship V3」試験機とドッキングし、1日程度の共同運用を行う。Starship V3は、有人キャビンや生命維持システムを持たないドッキングアダプター仕様のため、宇宙飛行士の移動は行われない予定だ。Starshipに搭載されるロケットエンジン「Raptor」を用いて加速や機体回転を行い、月の軌道投入に向けたドッキング機構の耐久性などを評価する。 【次ページ】NASAは「1人勝ち」を許さない?2社を競わせる“切実事情”
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