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- 2023/12/01 掲載
なぜ、米国はまだまだ「利上げ」が必要なのか? 常識を歪ませる“世界のある事実”
加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。
市場は日銀ではなくFRBを見ている
日銀は2023年10月31日の金融政策決定会合において、1%としてきた長期金利の上限を事実上、撤廃し、金利を市場に委ねる決定を行った。これまで日銀は長期金利について0.5%をメドとし、1%を超えないよう無制限の指し値オペを実施するという施策を続けてきた。市場と日銀の乖離が解消されたことから、決定会合後の金利は落ち着いているが、今後の金利は日銀ではなく市場が決めることになるため、中長期的には1.5%から2%が視野に入り始めたと見て良いだろう。
同じタイミングで米国の金融政策も転換点を迎えつつある。
日銀とほぼ同日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では金利の据え置きが決まった。今回の会合では再度利上げが行われる可能性もあったが、現状維持を優先し、利上げは見送られた。市場ではもう1回、もしくは2回の利上げが行われるとの予想が多く、パウエル議長も今後の利上げに含みを残す発言を起こっているものの、利上げは打ち止めとの見解も増えてきている。少なくとも、立て続けに金利を上げていく環境ではなくなったことは間違いないだろう。
今回の決定を受けて、日本の長期金利が上昇する可能性が高まったことから、円高に戻すとの予想もあったが、為替市場はあまり反応しなかった。11月に入って日銀の植田総裁は、従来の物価見通しに誤りがあったことを認めるとともに、緩和の解除を判断する際、「実質賃金プラスは必ずしも必要でない」などかなり踏み込んだ発言を行っている。それでも為替市場は大きく動かなかった。
むしろ150円を割ったのは、金融政策決定会合後に発表された米国の雇用統計などがきっかけとなっており、市場は日銀の金融政策や日本の金利ではなく、米国の金利あるいは景気動向に着目していることが分かる。 【次ページ】米国の金融正常化はまだ不十分と言える理由
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