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このところ急ピッチで円安が進んでいることから、金融正常化が前倒しされる可能性が出てきた。より踏み込んだ利上げは円安阻止の切り札とも言えるが、一方で企業倒産や住宅ローン破産の増加など副作用も大きい。
ホンネでは政府は介入したくない
外国為替市場では、一時、1ドル=155円目前に迫るなど円安が進んでいる。当初、152円前後で政府・日銀による介入があるとの見方があったが、あっさり152円台を突破されたことで、今度は155円での介入が意識された。さすがに155円の心理的な抵抗は大きく、中東情勢の悪化もあり、その後は154円台の展開が続いている。
財務省の鈴木財務大臣や神田財務官は繰り返し「必要であれば適切な行動を取る」と市場をけん制する発言を行っているが、ホンネでは介入を望んでいないことは明らかである。その理由は、通貨安を阻止するための介入は手持ちの外貨(この場合はドル)の範囲でしか実施できないため、あらかじめ上限が決まっている。加えて、為替介入のために貴重な外貨準備を浪費することに対して国民の理解を得ることが難しいという事情もあり、実施したとしても限定的にならざるを得ない。
限定的な介入で市場のトレンドを変えることは不可能なので、介入はしないか、実施しても一時的なものにとどまるというのが市場の一致した見方である。その意味で、政府・日銀は基本的に不利な立場にあるものの、少なくとも155円をめぐる口先介入においては、イスラエルによるイランへの報復など地政学的な要因も重なり、それなりの効果を発揮したと言えるかもしれない。
しかしながら、あくまでも為替の急激な変動について抑制しただけであり、円安ドル高が進みやすいというファンダメンタルズに変化はなく、現状の金融政策が続けば、やはり円安が進むリスクが否定できない。
米国はすでに量的緩和策を終了しており、バラまいたマネーを回収するフェーズに入っている。一方、日銀は3月の金融政策決定会合においてマイナス金利の解除を決定したものの、当面、緩和的スタンスを継続するとしており、市場には大量のマネーが供給され続ける。米国は貨幣の量が減って、日本は増加している状況に変化はないので、当然の結果としてドルの価値は上がり、円の価値は下がることになる。
植田総裁が利上げ前倒しを示唆する発言
金融政策をめぐる両国の状況に変化がない限り、円安が進みやすいという図式だが、少しだけ変化の兆しも見え始めている。それは政府が際限なく進む円安に対して警戒感を強めており、日銀が金利上昇を前倒しする可能性が出てきたからである。
2024年4月18日、米ワシントンで開催された主要20カ国・地域(G20)の財務省・中央銀行総裁会議に出席した日銀の植田総裁は、円安による輸入コスト増加に関して「無視できない大きな影響が発生した場合、金融政策の変更もあり得る」と追加利上げを示唆する発言を行った。
目下、円安が進行している最中であり、市場に対する牽制球という意味合いが強いものの、金融政策の変更という部分にまで踏み込んだことは注目に値する。植田氏は翌日の講演でも同じ趣旨の発言をしており、会見の場でとっさに出てきたものではない。
昨年は、円安や原油価格の高騰によって多くの品目が値上がりし、家計は大打撃となっている。賃上げが行われているにもかかわらず、物価高騰に追いついていない状況であり、消費が伸びず日本のGDP(国内総生産)は低迷が続いている。テレビ番組などでは連日、食品の値上げなどが取り上げられており、5月には電気代とガス代の補助が終了となることもあり、国民の不満は高まる一方だ。
選挙も近いと噂される中、岸田政権としてはこれ以上、円安が進むことは望ましくない。こうした政治的状況を受けて、日銀が方針を変える可能性について取り沙汰されている。
では日銀が追加利上げに踏み切った場合、円安の流れを食い止められるだろうか。
現状と比較すれば円安圧力は弱まるかもしれないが、大きなトレンドを転換させるのは難しいだろう。その理由は、両国の金利差の背景には日銀によるマネーの供給過剰という問題があり、追加利上げだけでは根本的な問題を解決できないからである。
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