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  • 2021/05/26

なぜ世界で「ドル離れ」が進むのか?チラつく中国・ロシアの思惑とは…

基軸通貨であるドルの国際的な地位が徐々に変化している。ドルの圧倒的な地位は当面、不変だが、世界の外貨準備におけるドルのシェアはじわじわと低下が進む。背景には構造的な要因があり、今後、通貨の多用化が進む可能性は否定できないだろう。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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基軸通貨ドルの地位が下がりかけている。その理由とは?
(Photo/Getty Images)
 

外貨準備におけるドル比率が徐々に低下

 IMF(国際通貨基金)が2021年5月6日に公表したレポートによると、2020年における世界の外貨準備高に占めるドルの比率は59%と、過去25年間で最低になった。

 外貨準備とは政府や中央銀行が保有する外貨のことを指す。政府や中央銀行が一定量の外貨を保有していないと、経済危機などが発生した際に、輸入ができない、外国との短期資金の決済ができない、といった問題が生じる。外貨準備はこうした非常時に対応する資金なので、通常は信用度が極めて高い通貨、つまり基軸通貨が選択されることが多い。

 もっとも、輸出が旺盛で多額の貿易黒字を計上している国は、望むと望まざるとに関わらず、外貨準備が増える傾向にある。かつての日本や今の中国はその典型だが、工業製品の輸出で経済を成り立たせている国の場合、製品を売った代金は通常、基軸通貨のドルで支払われる。

 製造業が盛んな国は、原材料や部品を大量に輸入しているので、受け取ったドルの一部は輸入の代金決済に使われる。だが、多額の貿易黒字が存在する場合には、基本的に外貨は余り、メーカーはドルを日本円に換える必要に迫られる。最終的に余った外貨は中央銀行が引き取り、中央銀行には外貨が蓄積されていく。これが外貨準備が増大する要因の1つである。

 リスク管理としての外貨準備であれ、貿易黒字の結果としての外貨準備であれ、通貨はたいていの場合ドルになるので各国の通貨当局は、ドルを中心に外貨準備を保有してきた。今でもその傾向は変わらないが、2000年には70%に達していた世界の外貨準備に占めるドルの比率は年々低下が進んでおり、2020年においては59%まで下がっている。

 基本的に外貨準備の比率はドル換算で計算されるので、為替がドル安になれば、当然のことながらドルの比率は低下する。だが、各国の通貨に対するドルの為替レートを見ると、2000年前後はドル高だったものの、2010年までの間に20%以上ドル安になり、その後は再びドル高に戻っている。一方で、外貨準備の比率は恒常的に低下が続いているので、必ずしもドル安だけが比率低下の原因とは言えない。

 為替レートの動きに加え、徐々に各国がドル以外の通貨保有を増やした結果、ドルの比率が下がったと考えた方が自然である。

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2000年には70%に達していた世界の外貨準備に占めるドルの比率は年々低下が進んでおり、2020年においては59%まで下がっている
(Photo/Getty Images)
 

どの国が一番ドルを手放している?ドル比率減少の要因

 ではドルを減らした各国の通貨当局はどの通貨の保有比率を上げているのだろうか。基本的にはドルに準じる通貨を持つケースが多く、過去4年間でユーロは19.1%から21.2%に、日本円は4.0%から6.0%に増加した。増加ペースが顕著なのはやはり人民元で1.1%から2.3%に倍増している。

 ドル離れが顕著なのは、ロシアやトルコなど米国との対立が顕著な国である。ロシアはウクライナ問題をきっかけに米国から制裁を受けており、金融市場の混乱が続いている。ロシア政府は米国債の保有を急ピッチで減らしており、一方で人民元の保有を増やしている。トルコも似たような状況だが、やはり米国債の保有を減らしている状況だ。

 まだ大きな動きではないものの、人民元の保有比率拡大は、一帯一路計画に象徴される中国の新興国支援が影響している可能性がある。中国の最終的な狙いは経済援助を通じて人民元経済圏を確立することであり、ゆっくりとしたペースではあるが、中国の国際戦略もドルのシェア低下の一因となっている。

 しかしながら、直近におけるドル比率の低下は、地政学的な要因というよりも、インフレによるドル安懸念という側面が大きい。


 米国はバイデン政権の成立後、矢継ぎ早に巨額の財政出動を決定しており、経済の急回復が期待される一方、景気過熱によるインフレや、国債の大量発行を原因としたドルの価値毀損が懸念されている。

 このところ米国株の上昇が著しかったのは、ワクチン接種の進展による景気回復を期待した動きだが、同時にインフレ懸念という側面があることは否定できない。国債などの形でドル資産を保有していると、今後、ドル安が進行して価値が毀損するリスクがあるため、一部の国は別の通貨への切り換えを進めている可能性がある。

 ドル安のリスクがあると言っても、コロナ対策で巨額の財政出動を行っているのはどの国も同じである。米国ほどではないがEU(欧州連合)も巨額の財政出動を決めているし、日本は以前から財政難という状況であり、常に通貨価値の毀損リスクを抱えている。ドル安が懸念されているからといって、安易にユーロや日本円という選択肢にはなりにくいだろう。

 人民元については中国の高成長が続いていることから財政リスクは低いものの、国際的な通貨としては信用が足りないため、一部の国を除いて人民元を大量保有するという選択肢はない。結局のところ、どの通貨であれ同じインフレ・リスクが存在するのだとすると、保有が増える可能性があるのは金などの代替資産だろう。実際、中央銀行が保有する金の額は増加傾向となっている。

【次ページ】長期的にドルのシェアは大きく低下する?その理由とは

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