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  • 2021/05/24

アイデアを生む「アジェンダのない会議」、今後はどう実現していくべきか

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

在宅勤務が広がると、オフィスでの何気ない会話がなくなる。このため、アイデアが出にくくなるといわれる。創造的な活動において、非公式の会話が重要な役割を果たすことは間違いない。シリコンバレーへの先端IT企業の集積が、それを示している。しかし、オフィスで非公式な接触があっても、必ずしもアイデアが生まれるわけではない。逆に、オンラインの接触からアイデアが生まれることもある。今後、さまざまな働き方を模索することが必要だ。

執筆:野口 悠紀雄

執筆:野口 悠紀雄

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
noteアカウント:https://note.com/yukionoguchi
Twitterアカウント:@yukionoguchi10
野口ホームページ:https://www.noguchi.co.jp/

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リモートであることだけがアイデアが出ない理由なのか?
(Photo/Getty Images)

在宅勤務では新しいアイデアは出ない?

 在宅勤務の問題点として「新しい考えやアイデアが出にくい」と、しばしば指摘される。

 定型的な仕事であれば、在宅勤務のほうが集中できて、効率が高まるかもしれない。しかし、創造的な仕事の場合には必ずしもそうではないともいわれる。

 オフィス勤務では、さまざまな人との出会いがある。それらの人々との何気ない会話から、懸案事項に関する解決策が見い出されたり、新しいビジネスモデルが生まれたりすることがある。しかし、在宅勤務中、1人で仕事を続けていると、そうしたチャンスがなくなってしまうというのだ。

 何気ない非公式の会話から、極めて貴重な情報が得られる場合がある。

 これは、間違いない。

 こうした非公式な会話を、「アジェンダ(議題)のない会議」と呼ぶことができよう。

 これは、「高級井戸端会議」といってもよいものだ。

アジェンダのない会議で論文のテーマを見い出す

 「アジェンダのない会議が重要」とは、今から50年前に私が米国に留学したときに、強く感じたことだ。

 教室の傍に小さな部屋があり、そこにコーヒーメーカーが置いてある。講義が終わった後、学生たちや教授などが、三々五々に集まってくる。

 そこでの立ち話で、さまざまな情報が交換される。

 私にとって特に重要だったのは、学位論文のテーマ選択に関連する情報だった。

 学位論文を書くときに最も重要なのは、どんなテーマを選ぶかだ。

 間違ったテーマでは、いくら努力しても学位論文にならない。

 逆に、適切なテーマを見い出すことができれば、論文は8割方完成したといってもよいくらいだ。

 しかし、こうしたことは、教室での講義を聞いていても、あるいは書籍や論文を読んでも、はっきりとは分からない。

 ところが、コーヒーを飲みながらの何気ない集まりでは、しばしばこれが話題になる。私にとって、こうした情報は、極めて貴重なものだった。

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アジェンダのない会議が重要だ
(Photo/Getty Images)


先端企業はなぜシリコンバレーに集まるのか?

 ここで唐突だが、米国、カリフォルニア州のシリコンバレーの話をしたい。ここはご存じのように、アップル、グーグル、フェイスブックなど、先端的なIT企業が集まっている、まさにIT革命発祥の地だ。

 かつて「集積の利益」ということは昔からいわれてきたが、それは、主として製造業に関したものだった。

 製造業では工業団地が必要だ。道路、港湾、鉄道などの交通施設、石油の備蓄基地や発電所などの大規模なインフラ整備が必要だからだ。

 しかし、情報産業の場合には、そうした必要性は少ない。インターネットが普及して通信コストが低下したため、集積の利益はさらに低下したように思える。

 では、なぜシリコンバレーへの集積が生じたのか?

 それは、同じような企業が集まっていると、「アジェンダのない会議」がさまざまな場所で行われ、そこから新しいアイデアが生まれるからだ。

 何気ない会話や出会いの中で、「どういうビジネスが今後重要になるか?」というような情報が交換される。

 創造的な仕事の場合には、似た考えを持つ人々の直接のコミュニケーションが重要な意味を持つ。

IT革命は、シリコンバレーにおける集積の利益が生み出したものだったのである。

 一方、1990年代の日本では、インターネットが決定的に重要だという情報は、必ずしも得られないものだった。このため、日本はIT革命に立ち後れたといえる。

 IT革命以前の「レガシーシステム」がいまだに稼働している。メインフレームコンピューターから脱出できない企業もある。2018年に公開された経済産業省の「DXレポート」は、「2025年の崖」問題を指摘した。これは、レガシーシステムを保守できなくなる危険だ。

 スイスのビジネススクールIMDが2020年6月に発表した「IMD世界競争力ランキング」によると、デジタル技術で、日本は対象63か国・地域のうち、62位だった。

こうした状況になったのは、1990年代に、日本人の多くがインターネットの重要性を認識できなかったからだろう。

【次ページ】従業員は在宅希望、経営者は出社必要

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