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  • 2021/10/13 掲載

ホントに意味ある?岸田政権の「金融所得課税」と「賃上げ税制」の問題点とは

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岸田新政権発足後、日本の株価が下がっている。金利上昇などを背景とした米国株の下落が直接的な原因だが、それだけとは言えない部分がある。岸田氏は金融所得課税の強化など市場の逆風となりかねない税制改革を検討しており、市場には警戒感が高まっている。反響が大きかったことから、金融所得課税については当面、先送りする方針を示したが、皮肉なことにその日の株価は反転上昇する結果となった。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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岸田氏が検討している「金融所得課税の強化」などは、市場の逆風となりかねない。市場にはどのような影響があるのか?
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

首班指名当日の株価が大幅に下落

 岸田政権は「新しい日本型資本主義」を構築するとして、所得の再分配を経済政策の基本に据える方針を示した。総裁選期間中に配布されたパンフレットには「下請いじめゼロ」「住居費・教育費支援」「公的価格の抜本的見直し」「単年度主義の弊害是正」という4つの政策が提示されており、岸田氏はこの政策を実現するため、公的価格を見直す専門組織を設置するとしている。

 だが岸田氏が掲げた「新しい日本型資本主義」の評判は総じて良くない。看護師や介護士は公的な職業なので、賃金アップを実現するには財源が必要となるし、民間企業の賃上げを促すとなると当然、企業は反発する。しかも岸田氏は具体的な財源の1つとして金融所得課税の強化に言及したことから、市場の警戒感を高めてしまった。

 現在、株式の売却や配当などから得られる金融所得に対しては、一律で20%が課税されている。これを25%あるいは30%に引き上げて、税収を増やし、これを賃金アップの財源にするという目論見である。

 当然のことながら、金融所得に対する課税を強化すれば、一部の投資家が株式を売却する可能性が高く、株価下落のリスクが伴う。こうした課税強化や賃上げ要請を嫌気したのか、岸田氏が首班指名された10月4日の日経平均株価は前週末から700円近くも下落して始まった。

 もっとも株価の下落は9月の後半から続いており、必ずしも岸田政権発足だけが原因とは限らない。米国の金利上昇やインフレ懸念などが台頭しており、市場関係者は当初から警戒モードだった。中国の不動産バブル崩壊リスクも重なり、一部の投資家はキャッシュの比率を高めていた。こうしたところに岸田政権の増税プランが出てきたことから、さらに下落に拍車がかかったという図式である。

 岸田氏はこうした状況に慌てたのか、出演したテレビ番組において金融所得課税の強化について「当面は触ることは考えていない」と発言し、事態の沈静化を図った。皮肉なことに週明けの東京株式市場は反転上昇する結果となっており、図らずも岸田政権の経済政策が株価下落の一端を担っていたことを証明した格好だ。

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岸田政権発足は、株価下落の要因になっている?
(Photo/Getty Images)

まずは賃上げから実施するとしているが…

 とりあえず先送りはしたものの、あくまで選択肢の問題であるとも発言しており、金融所得課税強化を撤回したわけではない。岸田氏は所得の再分配について「順番を考えた場合、まずは賃上げ税制、さらには下請け対策、そして看護、介護、保育といった公的価格の見直しから始めるべきだ」と述べている。一連の再分配を実施する中で具体的な財源を議論していくものと思われる。

 では、こうした再分配政策とそれに伴う税制改革が実施された場合、市場にはどのような影響が及ぶのだろうか。

 最初に手を付けるのは賃上げ税制ということなので、まずはこの影響について考えてみたい。岸田氏は賃上げ税制の具体策については言及していないが、企業が賃上げを実施した場合、何らかの優遇税制が得られる仕組みを検討していると考えられる。

 だが、こうした税制による賃金のコントロールについては、市場や企業経営には大きなマイナスにならないものの、賃上げの効果という点ではあまり期待できないだろう。その理由は、日本の法人税はすでにかなりの低水準となっていることに加え、多くの優遇税制が存在しており、企業にとって賃上げ優遇はあまり魅力的に感じないからである(実際、過去の賃上げ優遇税制はあまり効果を発揮しなかった)。


 安倍政権は財界からの強い要請を受け、法人税を3回も減税しており、現在の法人税率は23.2%まで低下している。しかも日本には大企業を中心に大規模な優遇税制が存在しており、多くの企業がその恩恵を受けている。2018年度には法人税率の特例対象として約96万件、税額控除では約18万件が適用を受けた。

 賃上げによって優秀な人材を獲得したい企業や、逆に低賃金が批判されている企業の一部は、利益が減ったとしても、積極的に賃上げ税制の適用を受けるかもしれない。だが、多くの企業にとって今の税制はキャッシュフローの重荷になっておらず、将来にわたってコスト増加要因となる賃上げを選択するインセンティブは低いだろう。

 従業員にとっては困った話だが、市場という面に議論を限定すれば、賃上げはそれほど進まないので影響は少ないと予想される。

【次ページ】徹底検証、金融所得課税の効果とは?

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