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  • 2021/08/03

日本人の生活が苦しいホントの理由、なぜ「減税」は当てにならないのか?

日本経済の長期低迷が続き、賃金が上昇しない中、税や社会保障などの負担が重くのしかかるようになっている。だが諸外国と比較すると、実は日本の国民負担率はそれほど高くない。では、なぜ日本では税や社会保障の負担について重く感じるのだろうか。背景には、世代間格差の存在とイノベーションの停滞という構造的な要因がある。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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諸外国と比較すると、実は日本人の国民負担(所得税と社会保障の保険料)はそれほど高くない。それなのに、なぜ日本人は税や社会保障の負担を重く感じてしまうのだろうか…?
(Photo/Getty Images)


諸外国と比較すると意外な事実が分かる

 私たち日本人は、仕事を持っている人の場合、所得税や地方税といった税金に加え、年金や医療など社会保障の保険料を納める必要がある。近年、こうした国民負担の重さについて強く認識する人が増えている。ネットでは「日本のような重税国家では窒息してしまう」といった意見をたくさん目にするが、諸外国と比較すると日本の国民負担率はそれほど高くない。

 このように書くと、瞬間湯沸かし器のように怒り出す人がいるが、筆者は「負担率が低いので大したことはない」と主張したいのではない。むしろ筆者の見立てはもっと深刻である。諸外国と比較して負担率が低く推移しているにもかかわらず、国民の負担感は諸外国より大きいのが現実であり、日本が置かれた状況はさらに厳しいと主張したいのだ。以下ではなぜそうなっているのか、どうすれば解決できるのかついて考察していく。

 メディアでは「国民負担率」という言葉をよく目にするが、実は国民負担率というのは日本独特の概念であり諸外国には存在しない。財務省が国民負担率の国際比較結果を公表しているが、これは日本だけで通用する資料である。

 諸外国においては、所得税や地方税などの税金は一方的に徴収されるものなので「負担」とみなされるが、年金や医療については保険料を払っている本人が直接的な受益者であり、負担とは位置付けられていない。だが、ここでは税と社会保障の支出を国民負担とする日本式の概念で議論を進めていくことにする。

 図は、国民負担(所得税と社会保障の保険料)の国民所得に対する比率を各国で比較したものである。財務省の資料ではすべての租税を含めて計算しているため、個人の生活実感とは乖離した数字になっている。したがって本コラムでは個人の所得税と地方税、各種保険料の国民所得に対する比率を計算してグラフ化した。主要5カ国で比べると、フランスとドイツが負担率が高く、日本、英国、米国は負担率が低く推移していることが分かる。

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主要5カ国で比べると、意外と日本の負担率は低い

 米国は説明するまでもなく世界屈指の競争社会であり、国民負担が低い代わりに政府は何もしてくれない(そもそも米国では医療は基本的に民営なので保険に入れない人は病院にかかれない)。英国はかつては「ゆりかごから墓場まで」などと言われ、福祉国家を標榜していた時代もあったが、今は米国に近い形になっている。実は日本という国は、米国並みに負担率が低い国というのが現実なのだ。

 では、なぜ米国並みに負担率が低い状態であるにもかかわらず、日本人の負担感は大きいのだろうか。ヒントとなりそうのが、各国との比較という点では低いとはいえ、日本の負担率が2000年代から顕著に上昇していることである。

負担が増えた最大の要因は年金

 国民負担率の内訳を所得税と社会保障に分解すると驚くべきことが分かる。日本人の税負担は主要5カ国では突出して低く推移する一方、社会保障の負担は1990年代から一貫して上昇が続いているのだ。

 実は日本の所得税率というのは、諸外国の中では著しく低いことで知られている。たしかに日本の所得税は累進課税となっており、所得が上昇すると一気に税率が跳ね上がる。日本の税制は「お金持ちを処罰する仕組み」などと揶揄されることもあるが、年収2,000万円以上の高所得の人にとって日本の税率は耐え難いほどの高さだろう。だが一方で、年収500万円以下の層に対する税率は異様に低い。

 年収が400万円台の人の場合、年収に対して実際に納税されている所得税の比率はわずか1.8%しかなく、事実上、ほぼ無税に近い。地方税も同じようなものなので、足し合わせても数%である。見かけ上の所得税率はもっと高いが、サラリーマンであっても各種控除があるので、課税対象となる年収は額面よりもはるかに少ない。結果として実質的な税率はかなり小さくなる。

 ウソだと思うのであれば、サラリーマンの人は自身の源泉徴収票をじっくりと眺めて見ることをおすすめする。ところが諸外国では仮に年収が低くても、ガッチリと税金が徴収される。少なくとも税金という点では日本の中間層は最も恵まれていると言って良いだろう。


 一方で、毎年のように上がり続けているのが社会保障の保険料である。厚生年金の標準月額報酬に対する年金保険料の料率は、2003年には13.6%だったが、毎年のように料率引き上げが行われており、2017年には18.2%にまで上昇した。法律上は、連続した引き上げはこれでいったん終了だが、年金財政を維持するためには、今後、さらに料率の引き上げが必要とされている。日本の国民負担率が2000年代から上昇傾向になっているのは、これが原因である。

 では、事実関係を整理してみよう。日本の国民負担率は諸外国と比較すると低い部類に入り、特に税金の負担は極めて低く推移している。一方で年金など社会保障の負担は2000年代以降、上昇が続いている。日本の年金は賦課方式なので、理屈上、高齢者に対する年金給付水準を維持すれば、人口が減る分だけ若年層の負担が増していく。

【次ページ】「所得税・社会保障の保険料」の負担、重く感じるカラクリ

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