- 2026/08/14 06:50 掲載
【単独】AI社長・AI製造部長が凄い…愛知の旭鉄工が「勘と経験の工場」を変えた舞台裏
連載:マスクド・アナライズの生成AI最前線
AIスタートアップ社員として、AIやデータサイエンスについてSNSによる情報発信で注目を集める。現在は独立して、イベント登壇、研修・セミナー開催、書籍執筆、企業向け生成AI・ChatGPTの導入活用支援などを手掛けている。支援実績は北海道庁、日立製作所、JR西日本、シーメンスヘルスケアなど。著書に「会社で使えるChatGPT」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」がある。
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「勘と経験」の工場を変えた、データの見える化
木村 哲也社長は、トヨタ自動車にエンジニアとして21年間在籍した後、2013年に旭鉄工へ入社。当時の旭鉄工は、典型的な「勘と経験」によって運営されている工場だった。設備が停止して生産数が減っていても、その状況をすぐに把握できないなど、さまざまな非効率が残っていたという。そこで木村氏は、生産設備にセンサーを設置。設備停止などの異常をすぐに把握できるようにしたほか、部品の生産数をモニターに常時表示するなど、工場内の「見える化」を進めた。
これにより、設備がどの程度稼働しているのか、生産数が目標に届いているのか、どこで問題が起きているのかを、データで把握できるようになった。しかし、データを取得しただけで工場が改善するわけではない。
データの見える化だけではなく、改善のノウハウの蓄積と共有、改善の仕組みの構築などが必要だった。それにより大きな効果を出せたのだ。しかし、改善には終わりはない。生き残りをかけ、まだまだ競争力強化が必要であった。
そうした中で登場したのが生成AIだった。
【事例】AIキムテツ(AI社長)爆誕、「開発の秘訣」とは
木村氏は生成AIを使い、自分自身の考え方や判断基準を再現することを思い立ったという。そこで開発したのが、AIキムテツ(AI社長)だ。「生成AIが登場した頃に、自分の考えをAIに学習させて、自分を再現したAIを作りたいと考えました。そこで実際に自分の本を学習させて質問すると、うまく答えてくれました。さらに質問と回答だけでなく、考え方を行動として再現したり、記事や文章を書けるようにもなり、社内の改善にも活用できるようになりました。今では企画案を考えるときにはAIキムテツに必要なキーワードやアウトラインを与えると、自分らしい回答が出てきますし、これまでのノウハウに基づいた具体的な改善案も出してくれます。いまや仕事において必要不可欠なツールになりました」
以前から、社内の改善ノウハウを再現する仕組みについて構想はあったものの、費用や手間を考慮すると実現は難しかった。しかし、生成AIの登場によって、現実的なコストで実装できるようになったという。
ではどのようにして、AIキムテツはどのように開発されたのか。木村氏は、社長自身の考え方や信念を短く記述することが重要だと指摘する。データが多ければ良いわけではなく、自分自身の考え方を、短く簡潔に言語化することが最も重要となる。
「AI社長に必要なデータとしては、基本的な考え方や、たとえば普段の口癖でも良いでしょう。私なら『付加価値ファースト』や『従業員に無駄なことをやらせない』という口癖でも十分です。また、私は本を出版しているので、本の内容をすべて学習させたAIと、内容を要約して学習させたAIの2バージョンを作ってみましたが、どちらも性能は大差ありませんでした。これは人間が分かりやすいデータは、AIにも分かりやすいという側面があるからでしょう」
自分が大切にしていることを言語化し、A4用紙1枚程度にまとめた内容でも、AIは考え方をかなり再現できるという。木村氏は「AIはデータを与えれば何でも答えてくれる存在ではありません。目的に応じたデータの扱い方や考え方を整理することが、AIにとって重要だと思っています」と説明する。
さらにデータ活用においては、人間のアクションにつなげることが重要になるという。旭鉄工では「改善のアクションに必要なデータから考える」という方針が徹底されている。
たとえばチョコ停(「ちょこっと停止」の略で、生産設備における短時間の停止を指す)だ。やるべきことは製造数を増やすこと。そのために、チョコ停を減らす原因を分析しなければならない。
ここではやみくもにデータを集めるのではなく、旭鉄工では、改善に必要なデータのみを選別することを徹底している。むしろ「データをどうアクションに結び付けるか?」「どのデータをどうコントロールしたいのか?」というノウハウの方が重要だと言う。
「旭鉄工では経理など経営に必要なデータをAIがチェックしています。そこで文章は生成できますが、次のアクションにつなげるのは難しいのが現状です。これは私の中で、経営会議に必要な事柄に対して、順番や判断基準を言語化できていないためでしょう。まだまだ『この段階で自分は何をすべきか?』『どうすれば改善できるか?』などを、具体的に考えなければいけません」
続けて木村氏は「それなのに『データを取得して最適化』のような言葉でごまかしては、具体的なアクションによる実現には至らないでしょう」と指摘した。
【事例】ベテランの知見を引き継いだ「AI製造部長」の凄さ
この考え方を製造現場にも展開して開発されたのが、「AI製造部長」である。旭鉄工では、データを使った改善はできるようになったものの、人が行うデータ分析と対策立案に時間がかかっている側面は残っていた。そこで、データを自動で分析し、従業員に問題点や解決策を提示するAI製造部長を開発した。
AI製造部長には、ベテラン従業員が持つデータの見方や改善策を反映。知見をAIに引き継ぐ取り組みに対し、製造部長自身が「俺の遺言を作る」と言い切ったほどである。
「『AI製造部長』のおかげで、ベテランの頭の中だけにあったノウハウを、新人でも使えるようになりました。こうして能力を底上げすることで、経験の浅い社員でもベテランに近い視点で改善に取り組めます。さらにAIを通して、考え方や哲学を徹底させていくことも重要です」
以前は、データの取得と分析、グラフの作成、原因の特定、改善策の立案までに手間がかかっていたが、AIによって分析から改善策の提案まで行えるようになった。それにより、従業員はただちに改善策の実行に移れるようになり、従来とは比較にならないほど、改善のスピードが上がったという。 【次ページ】【事例】改善ゲームなど「3つの生成AI活用」
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