- 2026/08/17 06:50 掲載
【単独】再現可能? トヨタ出身社長に聞く、年10億円を生んだ「生成AI活用」成功法則
連載:マスクド・アナライズの生成AI最前線
AIスタートアップ社員として、AIやデータサイエンスについてSNSによる情報発信で注目を集める。現在は独立して、イベント登壇、研修・セミナー開催、書籍執筆、企業向け生成AI・ChatGPTの導入活用支援などを手掛けている。支援実績は北海道庁、日立製作所、JR西日本、シーメンスヘルスケアなど。著書に「会社で使えるChatGPT」「AI・データ分析プロジェクトのすべて」がある。
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前編はこちら(※この記事は後編です)
AIをフル活用して分かった「人間の役割」
木村氏は、AIによって業務が効率化されても、人間が必要な場面は必ず残ると、これまでの積極的なAI活用を通して、そう考えている。その理由の1つが、AIの回答は100点満点ではなく、60~70点程度の平均的な内容にとどまることだという。生成AIが持つ知見はあくまで一般的な情報であり、特定の企業が持つ独自の事情や、業務固有の判断基準をすべて理解しているわけではない。そのため、企業固有の課題に対して完成度の高い答えを出すには、人間が回答を補完する必要がある。
「AIが進化しても、人間の勉強が不要になることはありません。AIの回答はたたき台であり、人間による修正が必要になるためです。さらに人間側に知識がなければ、AIの回答が適切かどうか判定できません。むしろAIに適切な指示を出すために、言語化能力がより求められるのではないでしょうか」
旭鉄工では、生産ライン向けのAI製造部長をはじめ、自社のノウハウや暗黙知を参照する複数のAIを活用。しかし、自社の情報を学習させたAIであっても、回答を間違える可能性はある。完成度の高い答えを得るためには、人間が回答を確認し、どこが適切でないのかを言語化して修正しなければならない。
より完成度の高いAIを作るためにも、人間の知識や判断が重要なのだという。AIに自社のノウハウを反映するには、人が持つ知識や経験、感覚をデータとして準備する必要があるが、どうすべきなのだろうか。
どう「知識や感覚」をデータ化すべき?
製造現場に蓄積されたノウハウや感覚を言語化するのは容易ではない。現場のエンジニアであっても、自分が感覚的に行っている判断を、正確な言葉で説明することに苦手意識を持つ人は多い。そこで旭鉄工では、まず担当者にヒアリングすることから始めている。ただし、木村氏は、あらゆる暗黙知を完全に言語化する必要はないと話す。その理由を、旭鉄工に入社する前に勤務していたトヨタ自動車での経験から説明する。
「トヨタ自動車では車の操縦安定性を担当し、ステアリングの完成度を上げることを目標としていました。私はエンジニアなので部品を製作して、テストドライバーが運転して評価します。そこで車に同乗してドライバーのステアリング操作を隣で見ていると、見るだけで『これはダメだな』と分かります。実際にドライバーもダメだと判断しますが、この感覚を言語化できるとは思えませんし、そこまでやる必要はないでしょう」
長年の経験によって培われた感覚のすべてを、無理に言語化しようとすれば、多くの時間と労力がかかる。まずは説明しやすい判断や、繰り返し発生する業務から言語化するだけでも、十分な効果を得られるという。
「そもそも言語化するなら、簡単な箇所からでも十分に効果が出ます。重要なのは問題が起こったときに、人を責めるのではなく、仕組みから原因を追究することです。そのために言語化しておき、原因究明に活用できれば良いと思っています。その上で人間にしか判断できないものが残れば、これこそ付加価値なので人間がやるべきことでしょう」
AIが代替できる判断や作業はAIに任せる。一方で、経験や感覚を伴う高度な判断、正解のない問題への対応は人間が担う。その人間にしかできない仕事が「付加価値」となるのだ。
生成AI活用は「採用力」にも効果大
一方、肝心な「人」については、人手不足が製造業の大きな課題の1つとして重くのしかかっている。熟練技術者の高齢化に加えて、若手人材の採用も難しいのが実情だ。だが旭鉄工は、自社のAI活用や改善活動が採用にも好影響をもたらしているという。今回のような取材対応に加えて、書籍の出版、講演会やイベントへの登壇、地元メディアへの出演など、取り組みを積極的に発信していることが要因の1つだ。
「採用において、AIによる影響は明確にあります。特に中途採用では、『社長の本を読みました』と弊社の方針に賛同して応募する人材が増えました。先だってAI活用を担う経営企画部門で人材募集をかけたところ、10人以上の応募がありました。募集前は応募があるか不安でしたが、実際には担当者が驚くほどでした」
AIへの取り組みは、生産ラインの効率化という直接的な効果だけでなく、企業のブランディングにも寄与。どのような技術を導入しているかだけでなく、「AIを使って何を実現したいのか」という経営方針も発信することで、その考え方に共感する人材を引き付けているのだろう。 【次ページ】生成AI活用でも「人を減らさない」ワケ
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