• 2026/07/06 掲載

孫正義は疑問視、イーロンの「宇宙データセンター」は夢物語か?100万機構想の現実味(2/2)

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本当に実現できる?「100万機構想」を左右する“3つの条件”

 AIコンピュート衛星の構想は、意義や機能に加えて、大規模な衛星コンステレーションに対する批判への回答まで織り込んだものだが、実際に100万機規模の構想を実行に移すにはさまざまなハードルが残っている。代表的なものから3つ検討してみよう。

■規制マイルストーン
 世界で増大する衛星コンステレーションを構想倒れの“ペーパー衛星”で終わらせないために、世界的なルール整備が進められている。

 米国では規制当局のFCCが衛星コンステレーション事業者に対して、計画の認可付与から6年以内に衛星数の50%、9年以内に100%を打上げ、運用する規制を課している。未達の場合、認可は実配備数まで縮小され、残りは失効するというものだ。

 ただし50%の分母は「サービス用に認可された最大数」であり、申請した100万機からそのまま計算できるわけではない。FCCが実際にいつ承認するのかもまだ不明ではあるものの、マイルストーン規制は打上げペースの実行性を測る大前提だ。

 仮に100万機が2028年に認可されるとすれば、6年後の2034年までに50万機、1年あたり約8万3000機以上、1日あたり約230機となる。歴史上誰も達成したことのない衛星打上げ規模だ。

■打上げ能力
 前例のない衛星コンステレーションの規模に対して鍵となるのが、スペースXの持つ宇宙輸送能力だ。

 AI1衛星は差し渡し70メートル、ラジエーターの高さが20メートルと大型のため、搭載できるロケットはそもそも限られ、必須の条件はStarshipの完成と完全再使用による高頻度運用だ。マスクCEOは2030年ごろから年間100万トンを軌道へ送ると表明している。2025年実績が2000トン規模であるのに対し、桁違いの頻度が必要になる。

 そもそもAI1衛星はどの程度の質量で、Starshipに最大何機程度搭載できるのだろうか。動画で説明された数値を手がかりに試算してみよう。

 スペースXは、AI1第1世代は70キロワット/トンの電力密度となり、かつピーク時150キロワット、平均120キロワットを消費すると説明している。計画上の「1トンあたり100キロワットの計算用電力を生む衛星」という目標から、「キロワット/トン」は衛星の質量あたりの電力と考えられる。プロトタイプの衛星では、質量およそ1.7~2.1トンとなる。これに衛星搭載のスラスタ用推進剤などを加えれば、第1世代衛星の質量は1機あたり本体2トン+推進剤数百キログラムといったところだろう。

 仮に、AI1衛星の全備質量を2.5トン、Starshipの搭載質量を100トン毎日打ち上げるとすれば、1回あたり40機、年間で1万4600機、6年間で8万7600機となる。現状の人工衛星の規模からすればこれでも凄まじい規模だが、100万機規模には到底届かないことから、まずFCCの初期の認可は現実に合わせて数万機規模にとどまると考えられる。

 Starshipの開発が順調かつ100トンの搭載能力を早期に実現し、現在のFalcon 9の打上げペース(最大実績が年間165回、2~3日に1回)をいつ超えるか、という点が実現性を制約する最大の要因だということになる。

画像
テキサス州に建設予定のAI衛星製造拠点。Starlinkユーザーターミナル製造工場を拡張する予定でギガサット・ファクトリーと呼ばれている
(画像:スペースX AI衛星動画より)

■衛星の熱制御能力
 AIデータセンター衛星のボトルネックとして常に懸念の対象となるのが衛星の放熱だ。真空中では輻射(放射冷却)でしか熱を捨てることができず、放熱のための機能を組み込むことが必須となる。

 AI1衛星では、冷却剤を使用して衛星本体から熱を輸送し、110平方メートルの大型展開ラジエーターで放熱するとの説明がある。宇宙機の冷却で一般的に使用されるアンモニアを冷媒に使用すると考えれば、ラジエーターの面積と消費電力は釣り合いがとれており、放熱機能に答えを出した構想になっているといえるだろう。

 ただし、衛星の世界でこの規模の放熱機能の実績があるかといえばそうではない。もともと放熱機能の技術開発を続けてきた通信衛星の世界では、高機能で発熱の多い最新の通信衛星向けに、冷媒をポンプで循環させて放熱を行う「二相流ポンプループ」と呼ばれる技術が技術の最前線にある。

 実績を持つのはフランスの衛星メーカーだが、軌道上で実証した性能はAI1衛星よりも2ケタほど小さい規模だ。JAXAが2026年度に開発完了を目指す「技術試験衛星9号(ETS-9)」もフランスと同等の規模だ。

 さらにAI1衛星では、大容量の排熱と、展開型のラジエーターを同時に実現しようとしている。大型のアンテナ展開は過去にさまざまな通信衛星での実績があるが、ラジエーターとなると内部に液体の冷媒が通る経路を保ちつつ、正確に展開する必要がある。

 こうした技術をスペースXが実現しているのか、現在の公開情報だけでは検証できない。スペースXは非公開のまま急速に開発を進めた実績があるものの、この点はなお未知数だ。

マスク氏に課された「タイムリミット」

 3つの成立条件はどれもつながっている。FCC認可という「ストップウォッチ」のスタートを起点に、6年の制限時間内に50%の衛星を配備できるか、打上げ頻度と衛星の技術を完成させられるかが、AIコンピュート衛星コンステレーションの実現性を決める。どれか一つでも詰まれば、他が揃っても時計に間に合わない。

 ただし、Starlinkの先例を振り返れば、2019年5月の本格展開に先立ち、2018年2月には実証衛星の要素技術の検証を進めていた。同じ方法論を取るならば、AI1もたとえば2027年ごろに熱制御技術を含む実証機を何らかの形で打ち上げるとも考えられる。実証機ならばStarship以外にFalcon 9に搭載できる可能性がある。こうした予兆が今後現れるのか注視していく必要がある。

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