- 2026/08/24 06:50 掲載
スペースX「独走」では困る? NASAがマスクとベゾスを“あえて”競わせる納得の裏事情(2/3)
NASAは「1人勝ち」を許さない?2社を競わせる“切実事情”
Artemis IIIの計画変更前、NASAはまずスペースXの有人着陸システム(HLS)を月面着陸に使用し、後からブルーオリジンを投入する計画だった。そのため、2社同時参加はやや意外な印象を与える。ましてブルーオリジンは5月に自社開発のロケットの地上試験で爆発を起こし、フロリダ州のロケット射場を大きく損傷している。来年までにHLS開発が間に合うのか、という疑問が残る。
それでもNASAが2社を同じミッションに参加させる背景には、民間企業に依存するHLS開発の遅延というボトルネックへの対策と、異種冗長性を確保する狙いがある。特に、月への飛行に不可欠な極低温推進剤の軌道上給油技術が実証に至っておらず、スケジュールを大きく圧迫しているからだ。
2社が技術実証に同時に参加することで機会をコンパクトにまとめコスト効率化するだけでなく、契約のオープン化と競争促進によってNASAが適度なプレッシャーを両社に与える意味合いもある。
衛星打ち上げロケットの実績を見れば、スペースXがブルーオリジンのはるかに先を行く。スペースXが年間160回を超えるFalcon 9の打ち上げ実績を持つ一方で、ブルーオリジンの大型ロケットNew Glennの実績は1桁にとどまり、1段回収再使用の経験も乏しい。
しかしスペースXは現在、実績を重ねてきたFalcon 9から、開発中のStarshipへの移行を進めている。Starshipそのものの一形態であるHLSや、次世代通信衛星の打ち上げなど、今後の事業ではStarshipの開発進展がボトルネックになりうる。Artemis IIIの実証は、ブルーオリジンの実力だけでなく、Starshipの状況を表面化させることにもなりそうだ。
「Starlink」とは別路線、ブルーオリジンが狙う巨大市場
Starlinkはすでに1万機以上の衛星を実装し、個人ユーザーから企業、航空機、船舶まで幅広く最大400 Mbps(将来的には次世代衛星で1 Gbpsにアップグレード予定)の通信を提供している。専用アンテナを利用するブロードバンド通信サービスに加えて、携帯電話とのダイレクト通信にも対応し、複数の軌道構成を組み換えながら衛星のアップデートを続けている。
TeraWaveは、現在は構想段階で衛星の実装はまだない。その計画では、合計5408機(低軌道LEOに5280機、中軌道MEOに128機)を展開する多軌道構成を想定している。次世代の高周波数帯である「Q/Vバンド」を利用し、LEOから最大144 Gbps、さらにMEOの128機から光学リンクを介して最大6 Tbpsという、Starlinkの現行プランを大きく上回る圧倒的な超高速・超大容量通信をターゲットとしている。
ただし両計画の位置づけはまったく同じではない。Starlinkが数百万人の個人ユーザーや一般ビジネスを広く対象とするのに対し、TeraWaveは契約顧客を世界で最大約10万件(企業、政府、大規模データセンターなど)のハイエンドユーザーに対象を限定する。こうした顧客向けに、TeraWaveは大量のデータを双方向転送する「データセンター間通信」や「防衛用リアルタイム通信」に特化している。Starlinkをはじめとする多くのLEO通信は下り速度に偏重しているが、TeraWaveは地上の光ファイバーに近い「上りと下りが完全に同速」の対称ギガビット通信を提供する設計だ。
ただし、スペースXも防衛向けの「Starshield」を展開し、さらに最大100万機のAI処理衛星からなる「Starmind」構想で軌道上コンピューティング市場を狙う動きがある。そのため、軍事・政府系の最高機密データ転送インフラとしての直接的な衝突も起きうる。
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