- 2026/08/21 06:50 掲載
習近平が賭ける「AI・ロボット大躍進」の重大リスク…派手な実演では隠せない“弱点”(2/2)
最先端GPUなしで中国AIはどこまで戦えるのか
では、AIとヒト型ロボットはどうだろうか。中国には大きな潜在力がある。AIについていえば、数学やコンピューターサイエンスを専攻する優秀な人材が大量に存在する。2026年のフィールズ賞でも中国出身の若手数学者が受賞し、中国の数学研究の水準の高さが改めて注目された。
ディープシーク(DeepSeek)をはじめとする中国発AIの強みの一つも、限られた計算資源を効率的に利用するアルゴリズムやモデル開発能力にある。
一方、中国AIには弱点もある。米国の輸出規制によって最先端半導体や高性能GPUへのアクセスが制限されているからだ。AIの性能を高めるには、優れたアルゴリズムだけでなく、大量の計算能力が必要になる。
そこで注目されているのが「蒸留(distillation)」である。AIの知識蒸留とは、高性能な大規模モデル、いわゆる「教師モデル」の知識や出力を利用して、より小型で効率のよい「生徒モデル」を訓練する技術である。
中国AI企業が米国などの先進AIモデルの出力を利用して自らのモデルを改良しているとの指摘もある。ただし、知識蒸留そのものはAI研究で広く使われている一般的な技術であり、蒸留を行うこと自体がルール違反というわけではない。問題は、他社モデルの出力をどのような条件で利用するかである。
中国AIの本当の課題は、最先端半導体へのアクセスが制限されるなかで、アルゴリズムの工夫によってどこまで計算能力の差を埋められるかという点にある。
中国ロボットは本当に世界一? “走る”より難しい“考える力”
中国では政府の補助金や地方政府の支援に引きつけられて、ヒト型ロボット関連企業が雨後の筍のように増えている。2026年現在、中国には140社以上の関連企業が存在するとされる。その代表的な企業の一つがユニツリー(Unitree)である。
中国企業が発表するロボットを見ると、ハーフマラソンを走ったり、格闘技や武術のような動きを披露したりするなど、驚くべきパフォーマンスを見せるものが多い。
しかし、問題は、それが実際の社会でどれだけ役に立つかである。
中国社会で本当に必要なのは、家事を手伝うロボット、高齢者を介護するロボット、工場や物流現場で人間の代わりに危険な作業をするロボットではないだろうか。
ところが、こうした実用的なロボットを作るのは簡単ではない。
ハーフマラソンを走るロボットには、高度なモーター制御やバランス制御が必要だ。しかし、家事や介護をするロボットには、それ以上に高度な「頭脳」が必要になる。床に落ちている物を認識し、それが何なのかを判断し、壊さないようにつかみ、人間の状況に応じて動作を変えなければならない。
つまり、実用的なヒト型ロボットには、AI、センサー、半導体、モーター、電池、制御技術など、多くの技術を統合する必要がある。
中国はロボットの製造能力や部品のサプライチェーンでは非常に強い。しかし、AIの「頭脳」に必要な最先端半導体では制約を受けている。
したがって、中国のヒト型ロボットが「歩く」「走る」「踊る」といった身体能力で世界をリードできたとしても、「考える」「理解する」「判断する」という能力まで世界をリードできるかどうかは、まだ分からない。
「AI・ロボット大躍進」の勝算は…EVの失敗を越えられるか
習近平政権は第15次5か年計画のなかで、AIやヒト型ロボットを国家の重点産業として育成しようとしている。中国には優秀な人材、巨大な国内市場、強力な製造業のサプライチェーンがある。そのため、中国がこの分野で世界的な競争力を持つ可能性は十分にある。しかし、中国型産業政策には大きな弱点もある。
政府が「重点産業」と認定した瞬間に、地方政府、国有企業、民間企業、投資家が一斉に参入し、巨額の資金が流れ込む。その結果、技術革新が進む一方で、過剰投資、企業の乱立、価格競争といった問題も起こりやすい。
太陽光パネルとEVで起きたことが、AIやヒト型ロボットでも繰り返される可能性があるのだ。
中国が本当にAIとヒト型ロボットで世界をリードするためには、政府が巨額の補助金を投入するだけでは不十分である。企業同士が自由に競争し、失敗した企業は市場から退出し、優れた技術を持つ企業に資本と人材が集中する市場メカニズムが必要になる。
習近平政権の「AI・ヒト型ロボット大躍進」が成功するかどうか。それを決めるのは、補助金の額だけではない。政府がどこまで市場に任せられるかに、中国のAI・ヒト型ロボット大躍進が成功するかどうかの最大のポイントがある。
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