- 2026/04/24 掲載
中国「5カ年計画」は“現実軽視”か…「ハイテク巨額投資」がもたらす過剰競争の連鎖
新連載:テック超大国・中国のゆくえ
1963年、中華人民共和国・江蘇省南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)。長銀総合研究所国際調査部研究員(98年まで)。98~2006年、富士通総研経済研究所主任研究員、06年より同主席研究員を経て、現在東京財団政策研究所常勤研究員。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授を兼務。主な著書に『中国不動産バブル』(文藝春秋)など。
【強国復権】半導体・AI・6G…中国が狙う次の主戦場
2026年は習近平政権にとって重要な節目の年である。なぜならば、今年は習近平政権3期目の最終年に当たるからだ。2027年秋に予定される党大会を経て、同政権は4期目に入る見通しだからである。中国では民主的な選挙による政権の正当性付与が行われていない。そのため、習近平政権は自らのレジティマシー(正当性)を維持・強化するために、経済成長を持続させるとともに、ハイテク技術の発展を通じて中国を「強国」へと押し上げる必要に迫られている。
2026年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)では、2026~2030年を対象とする「第15次5カ年計画」が審議・承認された。同計画によれば、中国は最先端半導体チップ、人工知能(AI)および人型ロボット、次世代通信(6G)、新エネルギー車と自動運転、バイオテクノロジー、宇宙開発、スマートファクトリー、量子技術といった分野において、独自技術の確立を目指すとしている。
そもそも習近平政権は発足当初から「中華民族の偉大な復興」、すなわち「強国復権」を掲げてきた。しかし「強国」の定義は必ずしも明確ではない。
実態としては、最先端のハイテク分野において世界を凌駕することが、その基準として想定されていると考えられる。したがって、今後5年間において、政府はこれら重点分野に対して優遇政策を集中させ、とりわけ大規模な財政支出を通じて産業育成を図ろうとしている。
なぜEVで400社乱立?政府主導イノベーションの“功罪”
しかしながら、政府主導による産業育成が期待どおりの成果を上げるかについては慎重な検討が必要である。実際、中国には得意とするイノベーションと、そうでない分野が存在する。たとえば宇宙開発のように巨額の初期投資を必要とする分野では、政府主導のトップダウン型イノベーションは比較的機能しやすい。ベンチャーキャピタルが十分に発達していない中国において、民間資金だけでこうした大型プロジェクトを支えることは難しいためである。
一方で、AIや自動運転といったボトムアップ型のイノベーションについては、中国は必ずしも得意とは言えない。なぜなら、本来、革新的な技術や科学的発見は政府主導で計画的に生み出されるものではなく、知的好奇心に富む個人や小規模な集団による試行錯誤や偶発的な発想から生まれることが多いからである。
ところが中国では、政府が研究開発の広範な領域に関与しようとする傾向が強い。このことが結果的に、技術革新をゆがめる独特のビジネスサイクルを生み出している。
一般的に、中国企業がゼロから革新的技術を創出するケースは多くない。
まず(1)先進工業国から技術やビジネスモデルを導入し、(2)それを中国市場に適応させる。中国は14億人の巨大市場を有しており、電子商取引(EC)や電気自動車(EV)といった分野では新技術が急速に普及する土壌がある。政府はこうした技術の普及を確認すると、(3)補助金の投入などを通じて当該分野への参入障壁を引き下げ、産業育成を加速させる。
しかし問題はその先にある。政府が特定産業を優遇し補助金を支給すると、(4)本来その分野と無関係な企業までが一斉に参入する。実際、2018年前後には中国で400社以上のEVメーカーが乱立したほか、近年では人型ロボット分野でも140社以上が参入しているとされる。
過剰参入の結果、(5)市場では激しい価格競争が発生し、リーディング企業は競合を排除するために値下げを余儀なくされる。この「内巻(ネイジュアン)」と呼ばれる過当競争は、やがてトップ企業の収益性をも圧迫する。
そして最終的には(6)企業の大量淘汰が進み、産業全体の成長モメンタム(勢い)が失われる。
このようなサイクルが繰り返される背景には、政府による市場への過度な介入がある。技術革新は本来、長期的な試行錯誤と蓄積の上に成立するものであり、短期間で飛躍的な成果を求めることは困難である。農作物の成長を早めようとして苗を引き上げれば、かえって枯れてしまうのと同じ理屈である。
それにもかかわらず、なぜ中国政府はこうした自然の摂理を無視してまで「大躍進」を志向するのか。その根底には、共産党政権が自らの正当性を成果によって証明しようとする強い動機が存在する。 【次ページ】デフレなのに投資拡大…政策の“逆行”の行く末は
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