- 2026/10/01 06:50 掲載
【単独】愛知の町工場から「棚卸しもRPAも」消えた…「Gemini活用4事例」が衝撃すぎた
連載:勝てる工場のつくり方~スチールテック編~
一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout 家電ガイド。日経BP社「日経ネットナビ」「日経ネットブレーン」「デジタルARENA」「日経トレンディネット」などを経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの構成などにも携わっている。著書に『家電ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。
【事例1】基幹システム連携で「リアルタイム在庫管理」
最初の事例は、自社専用に開発した基幹システム「Emperor」のデータベースと、GAS(Google Apps Script)を使ってAPI連携させた、リアルタイムでの在庫・ステータス管理だ。同社が扱う鋼材は社内ヤードに搬入された際にすべて自社バーコードが貼られ、使用中から最終的なスクラップ(廃材)に至るまでを、基幹システムで在庫を管理している。その情報をAPIで解放し、生成AIによってリアルタイムで鋼材の在庫情報が分かるようにした。
月次決算のために同社では毎月2日ぐらいかけて棚卸しをすることで在庫を確認してきた。しかしスチールテック 代表取締役社長の出口 弘親氏は「リアルタイムで在庫を確認できるようになったことで、毎月の原材料の棚卸が不要になりました」と、その成果を語る。
Geminiがデータベース同士を連携させるAPIを活用し、連携時の条件に応じて処理方法を変えられるのが生成AIならではの強みだと出口氏は強調する。
「時と場合によって判断が異なるような非定型のデータ処理は、従来のRPAでは対応できませんでした。スーパーエンジニアが複雑なロジックを書くか、人間が手作業でやるしかなかったのです。しかし、Geminiと、情報が載っているスプレッドシートやデータベースを連携することで、AIが『この場合はこう処理する』と自動的に判断してくれるようになりました」(出口氏)
AIの活用方法が分からない現場の担当者でも、容易に活用できるのがAIの強みだと、続けて説明する。
「Geminiのチャットに『これとこれのデータを連携してこうしたい』と伝えれば、『Google AI Studioのアカウントを作って。AIモデルは一番安いGemini 2.5 Flashで大丈夫です。ここのデータベースとスプレッドシートを連携したいのであれば、ここのボタンを押して連携してください』と進めてくれますし、マニュアルも1から100まで全部作ってくれます。中身を理解していなくても、そのマニュアルにしたがって操作すればできるようになります。1ユーザー当たり月額1,600円程度のAIが、高度なシステム構築を代替してくれるのです」(出口氏)
この仕組みによって、在庫をリアルタイムかつ一瞬で把握できるようになったため、大きな負担となっていた毎月の棚卸作業が不要になった。同社では個別原価法を採用しているため、期末の材料相場に左右されない正確な在庫評価が常に可能になったという。
「先入先出法か最終仕入原価法が一般的ですが、その場合は材料相場が上がると架空の利益、下がると架空の損失が出てしまいます。しかし当社は個別原価法でその時々の原価によって在庫を評価しているので、期末での差損益が出ないんです。月初稼働日1日目の月次決算が可能となり将来的には日次決算の実現も見据えています」(出口氏)
素材の相場が変動する鉄鋼業において、個別原価法による在庫評価は理論上最も精緻だが、管理コストが極めて高い手法だ。それをAIとの連携で実現している点は、業界内でほぼ前例がないという。
さらに、バックオーダーも同一のシステム内で一元管理することで、未着分を含めた総在庫をリアルタイムに把握できるようになり、発注管理の高度化も実現した。加えて、過去の実績データと最新のトレンドを生成AIに分析させ、最適な発注計画案を提案させる仕組みも構築している。
【事例2】RPAツール解約につなげた「開発内製化」
2つ目の事例は、業務自動化(RPA)の内製化だ。同社ではこれまで大手のRPAツールを導入していたが、2025年末にこれを完全に解約した。Geminiにコード(Python)を書かせることで、これまでツールに頼っていた自動化業務をすべて自社製AIエージェントに置き換えることに成功したのだ。
「顧客からPDFや図面で注文が届くと、以前は人間が手作業でその内容を読み取り、作図し、基幹システムへデータを登録していました。一時期は中国の大連オフィスに拠点を構えてこれらの作業を委託していましたが、現在はGeminiとPythonを掛け合わせた疑似RPAによって、情報の読み取りから作図、基幹システムへの登録までが全自動化されました。結果として、大連オフィスは閉鎖となりましたが、すべてAIが代替してくれています」(出口氏)
この仕組みを構築したのは、20代の若手社員たち。理系出身でもなく、プログラミングの教育も受けていない現場のメンバーが、AIのサポートを受けながら自らアプリや自動化ツールを量産している。
「プログラミング教育などのIT教育を受けていない、ITリテラシーが決して高くない社員が、自分でプログラムをどんどん書けていけるのが、AIと従来のDXやITとの大きな違いだと思います」(出口氏)
実際、スチールテックではこうした若手社員による内製化が、RPAの置き換えだけにとどまらず、製造現場にも広がっている。たとえば、かつてホワイトボードと担当者の勘や経験に頼っていた工程管理では、Geminiとの対話を通じて、ドラッグ&ドロップで工程を組み替えられる自社専用のWebアプリを構築。計画時間や進ちょく状況を可視化し、納期も具体的な数字を基に回答できるようにした。
さらに、外国人社員が多く働く工場では、Geminiの画像認識と多言語化を安全教育に活用している。工場の画像から危険箇所を抽出し、その内容を基に日本語、英語、インドネシア語の安全教育用テキストやポスターを作成する仕組みだ。
在庫管理からRPA、工程管理、安全教育まで。4つの事例に共通するのは、AIを一部のIT人材だけの道具にせず、現場の社員自身が業務を変えるために使っている点だ。スチールテックが目指すのは、単なる効率化ではなく、AIを前提に現場と経営を変えていく「AIネイティブ企業」への進化なのである。
【事例3】工程管理、「勘と経験」頼りからの脱却
そこでまず、基幹システムとAPIで連携したスプレッドシートを作成し、「計画時間」や各工程の「ステータス」を可視化。これにより数字を基に納期を回答できるようになったものの、新たな課題も生まれた。工程の予定を変更するたびに、スプレッドシートの行を1つずつコピー&ペーストして並べ替える必要があり、現場の負担が大きかったのだ。
そこでGeminiを活用。「つまんで移動するだけで順番が変わり、スプレッドシートとも自動で連動する画面を作って」などとGeminiとの対話を重ねながら、ドラッグ&ドロップで工程の順番を変更できる自社専用のWebアプリへと進化させた。専門的なプログラミング知識に頼るのではなく、Geminiとの対話を通じて画面やその裏側のコードを作り上げた点が特徴だ。
Webアプリ上で工程を動かせば、裏側のスプレッドシートにも変更内容が自動で反映される。さらに、まだ工程に組み込まれていない注文データも一覧表示されるため、注文の入れ忘れを防ぐ仕組みも備えた。これまで勘や経験に頼っていた納期回答も、計画時間や進ちょく状況という具体的な数字を見ながら、その場で回答できるようになったという。
「最終的にはGeminiが最適な工程を作ってくれると思います。そのために加工方法などのデータ整備を引き続き進めているところです。工程管理に付随した人の配分やスケジュールなど、人の動きも含めてAIで相当作れるようになるのではないかと考えています」(出口氏)
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