• 2026/09/11 06:40 掲載

柯隆氏が語る習近平「2つの大失策」…中国を内憂外患に追い込む“国家主導”の限界

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EV、AI、ヒト型ロボット──中国は先端産業で急速に存在感を高めている。国家主導の大規模な産業支援が、企業の競争力を押し上げているようにも見える。しかし、エコノミストの柯隆氏は、政府の過剰な介入が企業の乱立と供給過剰を招き、かえって民間の活力をそぐと指摘する。鄧小平時代との対比から、習近平政権の経済運営の功罪を読み解く。
取材協力:エコノミスト 柯隆

エコノミスト 柯隆

1963年、中華人民共和国・江蘇省南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)。長銀総合研究所国際調査部研究員(98年まで)。98~2006年、富士通総研経済研究所主任研究員、06年より同主席研究員を経て、現在東京財団政策研究所主席研究員。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授を兼務。主な著書に『中国不動産バブル』(文藝春秋)など。

  取材・構成:編集部 金本 景介
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東京財団主席研究員
エコノミスト
柯隆氏

日本企業を脅かす「3つのチャイナリスク」

 中国経済の先行きと、これからの日中ビジネスを考えるうえで、まず整理しておきたいのが「チャイナリスク」です。この言葉自体は以前から使われてきましたが、その意味は時代とともに大きく変わり、複雑になっています。

 中国経済の個別の問題に入る前に、まず「何がチャイナリスクなのか」を時系列で整理する必要があります。私は大きく3つに分けて考えています。

 1980~90年代、日本企業が中国ビジネスで警戒したのは、納期が守られない、契約に対する考え方が日本とは違うといった商習慣上の問題でした。

 日本では契約書にサインすれば、それを守るのが前提です。契約違反をすれば、裁判になる以前に信用を失います。当時の中国では、そうした契約意識が十分に定着していませんでした。これが1つ目の古典的なチャイナリスクです。

 その後、より大きな問題になったのが「政策変更のリスク」です。

 企業は現在の制度やルールを前提に設備投資をし、人を雇い、事業計画を立てます。政府が大きなルール変更をするなら、通常は事前に周知し、移行期間を設けます。政策には、政府と市場との契約という側面があるからです。

 ところが中国では、政治判断によってルールが突然変わることがあります。企業側からみれば、昨日まで合理的だった投資判断が、政策変更によって成立しなくなるリスクがあります。これが2つ目。

 そして3つ目が「地政学リスク」です。

 中国の国力・経済力が高まるにつれ、中国を巡る地政学リスクが意識されるようになりました。背景には、既存の国際秩序やルールに対する中国の姿勢があります。

 中国は、現在の国際秩序が先進国を中心につくられ、発展途上国には不利な面があるという考えを持っています。国力が強まるにつれて、そうした既存のルールを見直そうとする動きが表面化しています。

 もちろん、現在の国際ルールがすべて正しいわけではありません。ただ、そのルールの見直しの進め方に問題があるのです。関係国との合意形成や必要な手続きを経ず、中国側の事情を優先して既存の国際秩序を変えようとすれば、周囲の国は警戒を強めます。

 現在の中国には、「商習慣」「政策変更」「地政学」という異なる時代のリスクが同時に存在しています。なかでも今後の中国経済を左右するのが「政策変更」のリスクです。

 政府が市場にどこまで介入するのかという問題が、不動産、民営企業、EV、AI、ヒト型ロボット、さらには米中関係までつながっているからです。
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不動産バブル崩壊で露呈…地方政府に迫る「高成長のツケ」

 中国経済の低迷を考えるうえで、大きな問題になっているのが不動産バブル崩壊の後遺症です。より深刻なのは、不動産価格の下落そのものより、その背後にある地方政府の財政構造です。

 中国では土地の所有権と使用権が分かれています。居住用地70年、工業用地50年、商業用地40年といった期間の土地使用権を地方政府が設定し、デベロッパーなどに払い下げてきました。

 不動産市場が拡大している間、この仕組みは地方政府に巨額の収入をもたらしました。

 土地を高く売れば財源が増えます。さらに道路や橋、地下鉄などを整備すればGDPを押し上げられる。経済成長率が高まれば、地方幹部の高評価、昇進にもつながります。

 その結果、不動産開発とインフラ投資が地方経済を回す重要なエンジンになりました。

 私は南京で生まれ育ちましたが、南京のある区役所を見たとき、その大きさに驚いたことがあります。米国の首都ワシントンにある議会議事堂を思わせるような立派な建物でした。

 紹興市の市役所も非常に巨大でした。地方行政にこれほど大規模な建物が本当に必要だったのか。経済合理性だけでは説明できません。不動産ブームで土地収入が増え続ける中、支出の規律も緩んでいったのでしょう。

 より重い負担になるのがインフラです。

 道路や橋、地下鉄は造って終わりではありません。建設時にはGDPを押し上げますが、完成後は長期間にわたって点検、修繕、更新が必要になります。建設時には資産として扱われても、その後は恒常的に維持費が発生します。

 土地が高値で売れていた時代なら維持できました。しかし、不動産市場が低迷して土地関連収入が減っても、過去に整備したインフラの維持費は消えません。

 中国の地方政府は、収入が細る一方、高成長期に膨らませた支出負担を抱える局面に入っています。

 さらに、中国では年金などの社会保障を原則として地方政府が担っています。高齢化が進めば、この負担も重くなります。

 不動産バブル崩壊は、単なるマンション価格の問題ではありません。土地財政、地方債務、インフラ維持、社会保障へと影響が広がる構造問題です。

 この仕組みは習近平政権がゼロから作ったわけではありません。以前から続いてきた中国の成長モデルです。高成長が続いている間に修正できなかった問題が、成長率の低下によって一気に表面化しました。

 しかも、中国では地方幹部が住民による選挙ではなく、上からの人事で評価されます。GDP成長率が重視されれば、地方政府は短期間で数字を押し上げやすい投資に傾きます。

 中国経済では、経済政策と政治制度を切り離して考えることはできません。 【次ページ】中国経済を襲う「失業・未婚・人口減」の悪循環
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