- 2025/09/15 掲載
「情報戦・世論操作は恐ろしい…」台湾有事描いたドラマ統括Pが語る“戦争のリアル”
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。
台湾の「タブー」に焦点を当てたドラマとは
ドラマ『零日攻撃 ZERO DAY ATTACK』(日本ではAmazonプライムで配信)は、台湾で初めて中国による軍事侵攻と浸透工作を正面から描いたドラマであり、台湾社会が直面する地政学的危機をリアルに描いた作品だ。統括プロデューサー兼脚本家の鄭心媚(チェン・シンメイ)氏は、元新聞記者としての経験を活かし、中国による「見えざる戦争」─情報戦、世論操作、社会分断─をテーマに据えた。
このテーマは、台湾のエンターテインメント業界において長年タブーとされてきたため、本作の制作は大きな挑戦であった。
なぜ今、このドラマは作られたのか。制作の背景には、中国からの巨大な圧力と、それに屈しないクリエイターたちの強い意志があった。ここからは、筆者による鄭心媚氏へのインタビューをお届けする。
台湾芸能界に巣食う「中国恐怖」
──台湾民意基金会(Taiwan Public Opinion Foundation)の調査(2024年)では、台湾人として識別する人が76.1%、中国人として識別する人は10.1%、台湾人と中国人(両方)だとする割合は9%でした。本作は「台湾有事」という非常にデリケートなテーマを扱っています。台湾初の試みだそうですが、台湾人というアイデンティティーが確立されつつある中、なぜ今までこのような作品が作られなかったのでしょうか。鄭心媚(チェン・シンメイ)氏:それは、台湾の芸能界(エンターテインメント業界)が、中国から非常に強い圧力、あるいは「見えざるコントロール」を受けているからです。多くの俳優、スタッフ、制作会社、そしてスポンサーたちにとって、巨大な中国市場は無視できません。政治的に敏感なテーマを扱ったり、そうした作品に出演したりすれば、中国でのキャリア、ビジネスが絶たれてしまうリスクがあるのです。半導体景気に沸く台湾ですが、人口は2300万人程度です。日本と違って、ビジネスが国内市場だけでは成り立たない現状があります。
──1度でも関わると、中国でビジネスができなくなってしまう。
鄭心媚氏:その通りです。俳優が所属する芸能事務所単位で「あの作品にはうちのタレントを一人も関わらせるな」という指示が出ることもあります。ある俳優は本作への出演を熱望してくれましたが、事務所が「彼が出演すれば、事務所の他の俳優まで中国から締め出される」と懸念し、最終的に断念しました。この「恐怖」は業界全体に広がっているのです。
さらに恐ろしいのは、この問題が台湾国内のキャリアにも影響することです。台湾の制作会社も中国との関係を気にするため、「面倒なことに関わった人間」とは仕事をしたがらない。中国を恐れるあまり、台湾国内でさえ自由な創作が阻害されるという状況が生まれています。 【次ページ】「超逆風」でどう作品製作を実現させた?
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