- 2026/11/05 06:20 掲載
宮崎発「農場まるごとAI任せ」が衝撃…窓も暖房も自動化、農家の仕事はどう変わる?
法政大学 デザイン工学部システムデザイン学科 准教授 / d-strategy,inc / Third Ecosystem,inc / Inclusive AI,inc 代表取締役CEO
野村総合研究所、産業革新投資機構JIC-VGIなどを経て現職。法政大学 デザイン工学部 システムデザイン学科 准教授として、産業価値デザイン研究室にて生成AI・AIエージェントや、フィジカルAI・AIロボット、データスペースなどデジタル技術・先端技術をビジネスや社会の価値へ転換するための手法論の教育・研究を実施。
戦略・DX支援企業のd-strategy,inc(企業のAI変革、DX戦略、デジタルソリューション戦略)を創業し代表取締役として、フィジカルAI、AIエージェントをはじめとするデジタル化・自動化・技術変化の中での企業やスタートアップのDX/ソリューション・イノベーション戦略を支援。
また、グローバルでのスタートアップエコシステム連携プラットフォームのThird Ecosystem,incの代表取締役CEOとして海外・国内のスタートアップエコシステム(VC/CVC/企業/大学/政府機関/スタートアップ)の連携・活性化、スタートアップ企業やエコシステム企業の海外展開支援や、海外スタートアップの日本展開に取り組む。
Inclusive AI,incにおいて盲ろう者(目が見えない・見えづらく、耳が聞こえない・聞こえづらい)、視覚障害者、高齢者等向けのAIエージェントなどのAIサービス開発を実施。「制約のある方を含めすべての方が前向きに活き活きと暮らし、学び、挑戦できる世の中」をAIエージェントやフィジカルAIを通じて実現していくことを目指す。
最新刊として『フィジカルAI進化論~自律するロボットとともに作る産業の未来~』(SBクリエイティブ)を26年10月1日に出版予定。
その他、近著に『生成DX~生成AIが生んだ新たなビジネスモデル~』(SBクリエイティブ)、『メタ産業革命~メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる~』(日経BP)、『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社)があり、ビジネス+IT連載『デジタル産業構造論』、MONOist等にてWebメディア連載。
youtubeチャンネル『フィジカルAI時代の産業論 (d-strategy / Third Ecosystem 小宮昌人)』 @dstrategyinc にて生成AIをはじめ産業のデジタル化を解説
前編はこちら(※この記事は後編です)
収穫ロボだけじゃない、AIはハウス管理までどう変える?
アグリストは、ピーマンやキュウリを対象とした自律収穫ロボットの開発を進めてきた。マイクロソフトとの共同開発も足がかりにしながら、AIが現実世界の状況を読み取り、次の動きを判断するフィジカルAIの高度化にも取り組んでいる。だが、同社が目指しているのは、人の代わりにロボットが実を取るだけの世界ではない。
収穫の自動化に加えて重要になるのが、ロボットがハウス内を走行することで得られるデータだ。作物の生育状況に加え、温度や湿度などの環境情報を組み合わせれば、「今、何を収穫するか」だけでなく、「これからハウスをどう管理するか」という判断にもAIを使えるようになる。
現在はスマートフォンからロボットへ稼働や収穫の指示を出せるほか、ロボットが取得した生育データとハウス内の環境データを連携し、収穫予測などを可視化する機能も実装されている。
そして、同社がさらに開発を進めているのが、生育状況や環境情報を基に、AIがハウス設備の制御を判断する仕組みである。
ここまで進めば、AIが担うのは「収穫する実を見つける」という作業だけではなくなる。農家がこれまで経験や勘を頼りに判断してきた栽培管理の一部も、自動化の対象に入ってくるからだ。
実際、アグリストが開発を進めているAIエージェントは、ハウス内の設備まで自動で制御し、農家を悩ませる大きなコストの削減まで狙っている。ではAIは何をどう動かし、なぜコストを減らせるのか。
さらに、その先には摘果や葉かきといった熟練作業の自動化もある。そして、どれだけ高性能なロボットを作っても避けられない導入負担についても、同社は農家がロボットを1台ずつ所有することを前提としない、ある仕組みを構想している。
農業ロボットは、どこまで農家の仕事を代替できるのか。そして、高価な機械をどうすれば現実的な負担で導入できるのか。ここからは、アグリストが描くハウス運営の自動化と、その普及を支える独自のビジネスモデルを見ていく。
暖房の“無駄遣い”を減らす「AI任せ」の仕組み
アグリストが開発を進めているのが、ハウス環境そのものを自動で管理・コントロールするAIエージェントである(注1)。ロボットの巡回によって得られた作物の生育状況データと、ハウス内の各種センサーから得られる環境情報を基に、AIが自ら作物にとって最も適した環境をリアルタイムで判断し、ハウスの設備を自動で制御する仕組みだ。
具体的には、温度が上昇しすぎて植物に悪影響が出る、あるいは風通しをよくすべきとAIが判断した場合に、ハウスの天窓や側窓などを自動で開閉する。また、湿度が低下している、あるいは特定の生育フェーズにおいてミストが必要と判断された場合には、ミストの噴霧時間を自動調整する。
特に生産者にとって大きなメリットが期待されるのが、暖房機の最適な制御である。従来のハウス栽培においても、タイマー設定によって暖房を自動でオン・オフするシステムは存在していた。
しかし、タイマー制御では時間が固定されているため、いつもより暖かい日であっても冷え込んだ日であっても、人間が手動で設定を変えないかぎり、毎日一定時間暖房を稼働させ続けてしまい、燃料コストのむだが生じる。
アグリストが開発を進めるAIエージェントは、日々のリアルタイムな気象環境と作物の生育状態を学習・分析し、その時々の状況に必要な運転時間を算出して暖房を自動制御することを目指している。
これにより、作物に適した温度を保ちながら、ハウス運営において大きな経費負担となる燃料費を抑え、暖房の燃費効率を高める狙いだ。
農家の仕事はどこまで楽になる? 次に狙う“摘果”と“葉かき”
農業現場においては、完熟した実を収穫する作業のほかに、摘果と呼ばれる極めて重要な日常作業が存在する。これは、実が曲がっている、あるいは病気などの兆候があり、将来的に出荷規格を満たす秀品に育たないと判断される不要な若い実を、早い段階で間引きして摘み取る作業である。
不要な実を早期に排除することで、水分や土壌の栄養を、売れる見込みの高い実の成長に振り向けることができる。
今後は、自律的に間引きを実行する仕組みも、将来的な可能性として視野に入れている。
さらに、収穫以外の具体的な周辺作業へのフィジカルAIの応用も検討されている。特にキュウリ栽培においては、成長スピードが極めて速いため、実がなっている場所より下方にある余分な古い葉をきれいに取り除く、葉かきと呼ばれる作業が頻繁に発生する。
下部の余計な葉を放置すると、作業性の低下や病害虫のリスクが高まるだけでなく、日当たりや風通しが悪化して、全体の品質や収穫量が低下してしまう。また、収穫ロボットにおいても実の認識率の低下により稼動を妨げる原因にもなってしまう。
この不要な葉を認識して正確に切り取る葉かき作業についても、収穫ロボットで培った走行・制御基盤を活用しつつ、新たに茎・葉・果実を識別するAIモデルや専用ハンドを組み込むことで、高精度に自動化する機能の開発を進めている(注2)。
ベテランの勘をAI化、“25グラムサイズ”の判断をロボットへ
アグリストのAI技術は、ベテラン農家が長年の経験と勘で培ってきた暗黙知や熟練のノウハウをデジタル化し、再現可能な技術としてロボットやアプリケーションに移植する試みでもある。これは、現場の大きな悩みであるパート労働者の新人教育コストの削減にもつながる可能性がある。
実際の収穫現場では、新人のパートに対し、たとえば25グラムサイズに育ったピーマンを収穫するよう指導する。しかし、実物の感覚や重さを目視だけで正確に把握することは非常に難しく、規格に満たない小さな実を誤って収穫してしまうミスが多発する。
この指導や検品に割かれる時間的・精神的なコストは非常に大きい。
ロボットに25グラムサイズの実を画像認識で学習させることで、収穫対象の判断を一定に保ち、出荷サイズに合った実を選別して収穫し続けることができる。
これにより、人手の確保が難しい時期であっても収穫のクオリティを一定に保ち、教育コストを削減することが期待される。
もっとも、ロボットがどれだけ賢くなっても、農家が導入できなければ現場は変わらない。そこでアグリストが構想しているのが、ロボットを1つの農場に固定して1年中所有するのではなく、収穫期の異なる産地間で共同利用するという発想である。 【次ページ】夏は北海道、冬は九州…ロボットを“移動させる”普及戦略
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