- 2026/11/02 06:50 掲載
トヨタ超えで日本騒然、「キオクシア」純利益2.2兆円だが…裏に潜む「3つのリスク」
連載:現役エンジニア・ずーぼの「半導体」深掘りラボ
地方国立大学大学院修了後、半導体関連企業に入社。働きながら半導体業界に関する情報をブログ、YouTubeで発信中。運営するYouTube「半導体業界ドットコムch」はチャンネル登録者2万人を超える。著書に『今と未来がわかる半導体(ナツメ社)』、『パワー半導体超入門(技術評論社)』、『一冊でつかむ 世界を動かす半導体( 河出書房新社)』がある。
なぜ東芝から分社化して「キオクシア」が誕生したのか?
電源を切ってもデータが消えないこの半導体メモリは、デジタル社会の基盤として徐々に普及していきます。そしてその後、東芝の半導体事業をけん引する屋台骨となりました。
しかし、2010年代後半、東芝本体が米国の原子力事業における巨額損失などにより経営危機に陥ります。上場廃止の危機を回避するため、東芝は最も収益性の高かった半導体事業の中のメモリ事業売却を決断しました。
2017年にメモリ事業を「東芝メモリ」として分社化。2018年6月には、米投資ファンドのベインキャピタルが主導する日米韓連合への約2兆円での売却が完了しました。
2019年10月、同社は日本語の「記憶(kioku)」とギリシャ語で価値を表す「axia」を組み合わせた「キオクシア(Kioxia)」へと社名を変更。「記憶で世界をおもしろくする」というミッションを掲げ、新たなスタートを切りました。
しかし、その後の道のりも決して平坦ではありませんでした。メモリ市況の悪化や米中貿易摩擦などの影響を受け、2020年に予定していた新規株式公開(IPO)を延期。さらに、2024年3月期には2,527億円の営業損失を計上して2年連続の赤字になるなど、設備投資の負担と市況悪化による苦難の時期を過ごしました。
それでも、AI需要を背景とした市況回復の兆しが見え始めた2024年12月18日、公開価格1,455円で念願の東証プライム市場への上場を果たし、新たなステージへと踏み出したのです。
上場後のキオクシアを大きく変えたのが、生成AIの普及によるデータセンター向けメモリ需要の急拡大です。同社は、独自の3次元フラッシュメモリ技術「BiCS FLASH」や、製造工程を効率化するウエハ貼り合わせ技術「CBA」を武器に、韓国や米国の巨大メーカーと競争しています。三重県の四日市工場と岩手県の北上工場を心臓部となる生産拠点とし、米サンディスクとの共同投資も競争力を支えています。
こうした技術力とAI特需を追い風に業績は急回復。2026年3月期には営業利益8,704億円に達し、株価も2026年初頭から半年足らずで約10倍に急騰しました。時価総額では一時トヨタ自動車を抜き、国内首位に躍り出るなど、異例の成長を遂げたのです。
ただし、今後も成長が続くとは限りません。メモリ業界特有の「シリコンサイクル」による供給過剰や価格下落、大株主による株式売却への警戒など、リスクも残ります。AI時代に不可欠な技術を持つキオクシアが、好況期の勢いを持続的な成長につなげられるか。その真価が問われています。
米韓との覇権戦争、「キオクシアの技術」は何が凄いのか?
キオクシアの最大の強みは、メモリの大容量化を実現する3次元フラッシュメモリ技術「BiCS FLASH」です。従来の平面にデータを並べる方式が微細化の限界を迎えた中、メモリセルを垂直方向に高く積み上げる(3次元化する)ことで、単位面積あたりの記憶容量を飛躍的に向上させました。
このBiCS FLASHの第8世代から導入されたのが「CBA(CMOS directly Bonded to Array)」と呼ばれるウエハ貼り合わせ技術です。従来の3次元フラッシュメモリでは、1枚のウエハ上に制御用のCMOS回路を作り、その上に記憶領域であるメモリセルを積み上げていく手法が一般的でした。
しかし、CBA技術では、CMOS回路のウエハと、メモリセルのウエハを別々に最適な工程で製造し、最後にミクロン単位の高い精度でピタリと貼り合わせます。これによって製造プロセスを効率化し、高い歩留りと性能向上(単位面積あたりの記憶容量向上、書き込み速度向上、消費電力低減など)を両立させる戦略を取っているのです。
さらに、2026年7月には、332層化によって電力効率をさらに30%向上させた「第10世代 BiCS FLASH」のサンプル出荷を開始しました。生成AIの普及によりデータセンターの膨大な消費電力が社会問題化する中、この低消費電力化技術は極めて強い競争力を持っています。
【世界最大級】心臓部「三重と岩手の工場」
1993年に操業を開始し、長年にわたりNAND型フラッシュメモリの開発・量産を担ってきた世界最大級の半導体メモリ製造拠点です。AIを活用した製造プロセスの効率化や歩留まりの改善により、大量生産によるコスト競争力を生み出しています。
一方、北上工場は2020年に量産を開始した比較的新しい拠点で、2025年には第2製造棟(K2棟)が稼働を開始しました。キオクシアは、この国内2拠点体制によって、AI向けデータセンターなどで拡大する大容量・高性能メモリの需要に対応しているのです。
そして単独での設備投資競争が厳しい半導体業界において、米国のウエスタンデジタル(現在はウエスタンデジタルのメモリ部門が独立したサンディスク)との20年以上にわたる強固なパートナーシップは強力な武器です。両社は研究開発から工場の設備投資までを共同で行い、リスクとコストを折半するビジネスモデルを構築しています。これにより、資金力で勝るサムスンなどの巨大ライバルに対抗するスケールメリットを確保しています。
加えてDRAMやロジック半導体なども幅広く手掛ける競合他社とは異なり、キオクシアはフラッシュメモリの「専業メーカー」です。事業が単一である分、市況変動のリスクは高くなりますが、経営の意思決定が早く、研究開発や設備投資のリソースをNANDに一点集中できるという強みを持っています。
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