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- 2024/07/24 掲載
円安と「切っても切れない」関係?「デジタル赤字」が示す日本の“弱さ”とは
篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第172回)
九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
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・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日
好調なインバウンドと「対照的」なある赤字
資源に乏しい日本は、国際貿易なしには存立し得ない。一定の生活水準を維持するにはエネルギーや食糧の輸入が不可欠だからだ。これらの国際市場では、基本的にドル建ての取引がなされており、輸入代金の決済のためにはドル(外貨)の獲得が不可欠だ。外貨は財・サービスの輸出か対外資産からの収益等で獲得できる。これをデータで示すのが国際収支統計の経常収支だ(図表1)。前回は、このうちの貿易収支(財の取引)と旅行収支を取り上げた。
そこで見たように、かつて日本は経常収支の中で貿易収支が大幅な黒字を続けていた。ところが、2010年代に入ってからは赤字に転じることも多くなった。エネルギー価格の高騰による資源の輸入増加に追いつかないからだ。
これに加えて、サービス収支も足元では赤字基調となっている。サービス収支は大きく「輸送」「旅行」「その他サービス」に分類されるが(図表2)、このうち輸送収支は、数千億円程度の赤字幅でほぼ一定だ(2023年は6,000億円の赤字)。

他方、旅行収支は訪日外国人のインバウンド観光(=輸出)にけん引されて、2015年以降は黒字基調が続き、2023年は3.6兆円の黒字となった。つまり、輸送収支と旅行収支を合計すると約3兆円の黒字なのだ。
それにも関わらず、サービス収支の全体は約3兆円の赤字で、赤字幅は拡大気味だ。その原因は「その他サービス」の収支が大幅な赤字になっていることにある。この赤字拡大の原因は一体何なのだろうか。
「赤字拡大」の要因とは?
日本銀行の『国際収支関連統計:項目別の計上方法』によると、「その他サービス」の内訳は、委託加工サービス、維持修理サービス、建設、保険・年金サービス、金融サービス、知的財産権等使用料、通信・コンピューター・情報サービス、その他業務サービス、個人・文化・娯楽サービス、公的サービス等、となっている。この中で、2010年代に赤字が拡大傾向を示しているのは「通信・コンピューター・情報サービス」と「その他業務サービス」の2つだ(図表3)。ちなみに、保険・年金サービスの赤字拡大は国際情勢の緊迫や大規模災害の増加で保険料率が上昇している影響だと考えられる。
後者は研究開発に関連したサービス取引やその成果である特許権などの売買といった研究開発サービス、および、法務、会計・経営コンサルティング、広告・市場調査に関するサービス取引(たとえばWebサイトの広告スペースを売買する取引)などだ。
いずれも、デジタル化との関係が深い領域であり、サービス収支の赤字拡大要因は、経済のデジタル化が影響していると考えられる。これが、いわゆる「デジタル赤字」と呼ばれるものだ。 【次ページ】「デジタル赤字」が生まれた背景とは?
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