- 2026/02/02 掲載
プルデンシャル生命「30億円不正の構造」、“営業力神話化の病理” から何を学ぶか?(3/3)
報告書が語らなかった論点「補償・説明責任・人事の空白」
以下の領域は報告書で触れられているものの、詳細な説明や透明性が不足していると考えられる。報告書では語られなかった論点(1):被害補償に関する方針
「プルデンシャル生命の制度または保険業務に関連する不適切な金銭取り扱いとして、3名の元社員が在職中に金銭詐取などを行った事案」については、「被害に遭われたお客さまに対しては、事実関係をていねいに確認したうえで被害補償などの対応を進めております」との記載がある。
一方、「プルデンシャル生命の制度または保険業務に関連する行為ではありませんが、1106名の(元)社員が金銭に関わる不適切行為をしていたこと」については被害補償についての記載はなく、会社としては責任を負わないという姿勢がみえる。
ただし、この点については報告発表後に反響が大きかったこともあり、記者会見の際には「お客さま補償委員会」を設置して、すべての被害者に対応する方針を発表している。
報告書では語られなかった論点(2):外部関係者(顧客・第三者)への説明責任
報告書では社内対応主体である特別プロジェクトなどが述べられているが、第三者による独立調査や外部監査の有無については明確にされておらず、不正の全容が明らかになったのかという疑問に応える内容とはなっていない。
その後の記者会見においても、第三者委員会を設けてあらためて調査を行うことについては否定する発言がみられた。一方で、被害者認定の部分だけについては第三者による「お客さま補償委員会」の設置を明らかにしている。
報告書では語られなかった論点(3):採用・人事政策について
多くの営業社員が不正に手を染めたのは、そもそも採用において問題があったのか、採用後の教育・研修に不備があったのか、不正の手口を共有する社員間の連携があったのか、といった点は明確になっていない。再発防止策の策定にあたっては、もう一歩踏み込んだ原因究明が必要と考えられる。
これは他社の話ではない、金融業界が学ぶべき教訓
これまでにも保険のみならず金融業界においては、営業担当者による顧客資産の搾取や不適切な金銭貸借といった事案は単発的に発生しており、その度に業界としての再発防止策が講じられてきた歴史がある。今回の不祥事を「外資系」「フルコミッション」「担当者がずっと継続」といったプルデンシャル生命の特殊性によって組織的かつ継続的に不祥事が発生したと結論づけるのは簡単だろう。一方、他社においても同様の事案発生を防ぐために、改めて学ぶべき教訓はありそうである。
教訓(1):アナログ業務撤廃とモニタリング徹底
会社が把握できない通信手段や決済手段を使わせている時点で、ガバナンスは著しく弱体化するため、「記録に残らない業務プロセス」を徹底的に排除することが必要である。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は、業務効率化だけではない。すべての業務プロセスをデータとして記録し、後から検証できる状態をつくることが、不正防止にも直結する。
- 顧客との金銭授受は、会社指定の口座振替やクレジットカードのみとし、現金や個人口座利用をシステム的にブロ
- 顧客との連絡は、会社がモニタリング可能なチャットツールや社用携帯に限定し、私用ツールの業務利用を禁止
- 手書き領収書の発行を禁止し、電子領収書のみとする
教訓(2):適切な内部監査の実施
本件は内部統制における「3線防御(現場・管理部門・内部監査)」がすべて機能不全に陥っていた典型例であり、内部監査部門(第3線)の責任は重大である。
監査計画において、売上を牽引するトップセールスの部署や、カリスマ的な営業所長のチームは、リスク評価の過程で「問題なし」とされたか、「監査対象外」とされていた可能性がある。
成果へのプレッシャー、権限の集中、ルールの形骸化は得てして高業績部門に表れる。社内の力関係で内部監査人は踏み込むことは難しい場合も多いと考えられるが、冷静にリスクを評価・検証する権限と気概が求められる。
教訓(3):評価制度の見直し
「営業成績さえ上げれば、人格やプロセスは問わない」といった成果至上主義は、組織を腐敗させる可能性が高い。こうした点を防ぐためには、以下のような点に留意して評価指標(KPI)にコンプライアンス遵守の項目を大きなウェイトで組み込む以外の方法はない。
- 成績を上げていても、コンプライアンス違反があれば報酬を減額する、あるいは降格させる
- 営業成績だけでなく、顧客からのフィードバックや事務処理の正確性も評価に反映させる
- 360度評価を導入して、周囲からの信頼度も評価要素に加える
信頼はどう回復されるのか? 問われ続けるガバナンス
長年築き上げてきた顧客からの信頼は、不祥事の発生で容易に失われる。今回のプルデンシャル生命の事案は、そのことを改めて業界に突きつけることになった。他の金融機関は、これを「特殊なビジネスモデルゆえの同社固有の問題」として片付けてはいけない。
営業力を競争力とする金融機関であれば、同様のリスクは常に内在している。本件を他山の石とし、システムを活用した営業管理・内部監査・評価制度などのガバナンスの重要性を再認識することが、金融業界全体に求められている。
本件は、不正行為そのものよりも、「なぜそれを検知・是正できなかったのか」という統制プロセスが問われる事案であり、監督対応もその点に主眼が置かれるものと考えられる。
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