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  • 2024/05/08 掲載

なぜ、同人誌通販「とらのあな」が3PLに参入?AutoStoreが後押しのワケ

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新型コロナ禍を経て業態を転換した企業は少なくない。同人誌販売大手の「とらのあな」もその1つだ。同社はコロナを経て通販を主とする事業形態へとかじを切り、さらに2024年夏以降に3PL事業にも進出しようとしている。その事業を支えるのが、ノルウェー製のロボット自動倉庫「AutoStore」である。同社の具体的なAutoStoreの活用状況と、業務効率化の秘訣を見てみよう。
執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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「とらのあなロジスティクスセンター(TLC)」におけるAutoStoreを使った同人誌の出荷
(写真:筆者撮影)

同人誌販売最大手「とらのあな」が3PLに参入

 年間2000万冊を超える同人誌を取り扱う「とらのあな」が、2024年夏以降をめどとして、3PL(サードパーティー・ロジスティクス、荷主や運輸会社以外の第3者が物流業務を包括的に受託するサービス)事業に参入する。

 虎の穴 代表取締役社長の鮎澤慎二郎氏が、2024年4月17日に千葉県八千代の「プロロジスパーク八千代1」内にある「とらのあなロジスティクスセンター(TLC)」にて行われたメディア向け見学会で構想を披露した。

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虎の穴 代表取締役社長 鮎澤 慎二郎氏
(写真:筆者撮影)

 「とらのあな」は1994年に、個人のクリエイターが作った同人誌を取り扱ってユーザーに届ける秋葉原の小売店舗として、吉田 博高氏が創業した会社だ。個人が制作した漫画およびアニメ・同人誌やキャラクターグッズ等の委託流通販売事業、いわゆる「CtoBtoC」事業を手掛けている。なお本記事では「とらのあな」と表記した場合はサイトやサービスを指し、「虎の穴」と表記した場合は会社組織のことを指す。

 同人誌市場に縁遠い読者にはピンとこないかもしれないので少し丁寧に規模感を説明しておきたい。同社サイトに掲載されている「2023期業績と1年間の取り組みおよび、今後の展望」によると、「とらのあな」の2023年度(2022年7月~2023年6月)の流通取引総額は時点で331億円(前年度からプラス30億円)。サービス登録ユーザー数は前年比130%増の1400万人にのぼっている。まだまだ成長中だ。2025年の流通総額目標は400億円とされている。通販Webサイトはこちら

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「とらのあな」2023年度流通総額推移(上)とサービス登録者数(下)

 「とらのあな」の沿革に戻ろう、同社は秋葉原の店舗として誕生したあと、1996年には有限会社虎の穴を設立、通販部門も開設された。2003年には株式会社へと組織変更。一時期は多店舗展開を行っていたが、新型コロナ禍を経て、今はオンライン通販主体へと大きくかじを切っている。創業当初から電話やファクスを使った通信販売自体は手掛けていたが、2024年現在では実店舗は池袋の1店舗のみと絞り込んでおり、物流拠点内にはロボット自動倉庫の「AutoStore」を導入するなど、大規模な改革に踏み切っている。

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「TLC」のAutoStore。設置面積400坪弱、ロボット台数46台
(写真:筆者撮影)

 同人誌は書籍ではあるが、ISBNなどが振られておらず、バーコードもついていない。版型も仕様制限がないため多種多様だ。使用されている紙も異なり、本の厚さもコピー紙数枚程度の薄いものから、100ページを超えるようなものもある。ものによってはさまざまな「付録」がついているものもある。あくまで個人が趣味で製作しているものなので納品日も正確ではなく、いつ来るかはっきりしない。

 アイテム登録において表紙を画像認識するにしても事前に知らされていた表紙と実際に納品された商品のそれが異なっていたり、新たに版を重ねると中身や紙質などの仕様も変わっていたりする。納品書はついているが、実際に納品された数量が多かったり少なかったりすることも頻繁に起きているという。いわば究極の多品種少量製品だと言える。

 「とらのあな」では、それらさまざまな納品物に対して独自の商品識別コードを添付・管理する作業を通して一般流通できるかたちに加工して、発送している。つまり、多品種少量製品を扱い続けてきたノウハウを他業種へとも展開する。さらに3PL事業を手掛けることで、各種マテハン機器導入の費用対効果を高める狙いもある。

どのようにロボット自動倉庫を使っている?

 では、どのようにロボット自動倉庫を使っているのか。「とらのあなTLC」では、納品から出荷まで「一筆書き」で商品が流れていくよう動線が決められている。AutoStoreはそのなかで最後の出荷に近い場所に設置されている。設置面積は400坪弱。八千代市の消防とも相談して安全な通路幅を確保して設置された。

 現場では虎の穴 通信販売本部 流通管理本部 部長の伊達 明利氏が解説してくれた。伊達氏が強調したのは、AutoStoreの使いこなしのためには「何を入れるべきか、何を入れないでおくか、そのノウハウの蓄積が重要」という点だった。

 とらのあなのAutoStoreの場合、モノを入れる入荷ポートは7つ。出荷側の作業ポートは折り返したサイドに14ポートが設置されている。AutoStoreの機能自体としては入荷と出荷を同じポートで行うことができるが、現場では入荷と出荷の作業を同時に行うために使い分けている。また、入荷が多い場合には入荷ポートを増やしたり、出荷が多い場合には出荷ポートを増やすといった変動への対応も可能だ。出荷ポートの作業生産の理論値は1ポートで1時間あたり100。実績値は91。

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「とらのあな」AutoStoreの出荷用ピッキングポートでの作業の様子
(写真:筆者撮影)

 ピッキングポートでは作業員がログインすると作業のバッジ番号が表示され、作業指示に合わせてピッキングを行う。とらのあなではAutoStore事例で紹介されることの多い「カルーセルポート」ではなく、シンプルな「コンベアポート」が使われている。AutoStoreは注文データに基づいて各ビンの位置を再構築したりデフラグしたりすることで出荷速度を稼いでいる。それでもモノを持ってきて下ろす作業には、ある程度の時間がかかる。処理数を稼ぐためにはコンベアポートのほうが適していると判断したという。速度を上げるために、1つの注文に対して複数のポートを組み合わせる工夫も行っている。

AutoStoreの概要
【次ページ】同人誌通販の特性を活かした自動倉庫の運用方法

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