- 2026/07/28 06:50 掲載
政府後押しのフィジカルAI、国内44社結集でも…投資を空振りにしかねない「最大の壁」
政府が日本成長戦略でフィジカルAIを「加速装置」にした理由
2026年7月21日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる骨太方針と、「日本成長戦略」を閣議決定した。そこでは、フィジカルAIを日本の成長につなげる方針が、具体的に示されている。フィジカルAIとは、AIが周囲の環境を認識し、状況を判断した上で、ロボットや機械を通じて実世界で動作する技術である。
政府がこの技術に注目する背景には、日本が直面する構造的な課題がある。骨太方針は、人口減少やAIをはじめとする技術革新、国家間の産業・技術競争の激化を挙げた上で、長年にわたる「未来への投資不足」を断ち切る必要性を強調した。
その具体策を示したのが、日本成長戦略である。政府は、AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、量子、防衛産業、航空・宇宙、資源・エネルギー安全保障・GXなど17の戦略分野を設定。さらに、官民投資を促進する62の主要な製品・技術の1つとして、フィジカルAI、特にAIロボットを掲げた。
ただし、フィジカルAIは、重点技術の1つとして列挙されるだけではない。日本成長戦略は、豊富な現場データやものづくり基盤といった日本の強みを生かしたフィジカルAIの構築を軸に、産業全体のAIトランスフォーメーション(AX)を進める方針を示している。危機管理投資と成長投資を横断する「成長の加速装置」として位置づけられているのだ。
つまり、フィジカルAIは、ロボット分野における一つの研究テーマにとどまらない。製造業や物流、モビリティなど幅広い産業へ展開し、日本全体の成長を後押しする技術として期待されている。
では、なぜフィジカルAIであれば、日本の強みを生かせると考えられているのか。
生成AIとは違う競争条件、日本の現場データは武器になるか
文章や画像を扱う生成AIでは、インターネット上の膨大なデータと大規模な計算資源が、モデル開発の競争力を左右してきた。一方、フィジカルAIが扱うのは、現実の産業現場である。画像、動画、音声、センサーデータなどを組み合わせて周囲の状況を理解し、工場や物流、モビリティなどの現場でロボットや機械を動かす。その開発には、実世界から得られるデータや産業の専門知識が欠かせない。
日本の産業現場には、設備の稼働状況、作業の流れ、人やものの動きなど、多様なデータが蓄積されている。こうした情報をAIの学習に活用し、改善したAIを再び現場へ戻す。そこで新たなデータを集め、さらにモデルを改善するといった具合だ。
骨太方針の閣議決定に先立つ7月16日、経済産業省は、こうしたフィジカルAI政策の全体像と、国産マルチモーダル基盤モデルの開発計画を紹介するイベントを開催した。
高市早苗首相はビデオメッセージを寄せ、日本のものづくりの現場に蓄積されたデータを生かし、安全・安心で信頼できる国産AI基盤を開発する重要性を強調した。赤澤亮正経済産業大臣も、フィジカルAIの社会実装を進める鍵として「現場データ」を挙げ、日本のものづくりの力や現場力を生かしていく考えを示した。
また、NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏は、日本の産業が持つ専門知識を「国の知的資産であり、国宝」と表現した。
東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏も、労働力不足が進む一方、ロボット産業や製造業に強みを持つ日本にとって、フィジカルAIは重要な技術領域になると説明している。
日本が持つ製造現場やロボット技術、そこから生まれるデータをAI開発へ結びつけられれば、生成AIとは異なる競争条件をつくれる可能性がある。骨太方針がフィジカルAIを「成長の加速装置」と位置づけた背景には、日本の現場データやものづくり基盤を、AI時代の競争力へつなげる狙いがあると考えられる。 【次ページ】国内の44社が結集…2030年に誕生予定「現場で働くAI」
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