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- 2022/11/18 掲載
「Unity」「Unreal Engine」とは? 2大ゲームエンジンの仕組み・活用事例を徹底解説
連載:デジタル産業構造論
ゲームエンジンとは
ゲームエンジンとは、ゲームのソフトウェアにおいて、3D描画処理や物理演算、サウンド入力といった共通して用いられる主要な処理を代行して効率化するソフトウェアであり、昨今のゲーム開発においては広く活用されている。ゲームを開発する際、ゲーム内におけるあらゆる処理を1から作りこもうとすると工数がかかるが、これら処理をゲームエンジンを活用することで、開発工程は大幅に削減できる。代表的な例が、『ポケモンGO!』など幅広いゲームで活用されている『Unity』と呼ばれるゲームエンジンや、世界的なゲームフォートナイトを展開するEpic Games社が展開している『Unreal Engine』などだ(『Unity』『Unreal Engine』については、後ほど詳しく解説する)。
ゲームエンジンが注目される理由
ゲームエンジンに注目が集まっている背景には、近年、産業領域で活用が進む「メタバース」と「デジタルツイン」と呼ばれる技術が関係している。メタバースとは、「アバターを介して相互交流することができる3次元仮想空間」を指す。メタバースの例としては、バーチャル空間上で複数人が自分のアバターを介して共同作業ができるようになる、メタ(旧フェイスブック)が提供している「Meta Horizon Workrooms」などが挙げられる。
一方、デジタルツインとは、現実世界に存在する“物体”にそっくりな物体をデジタル空間上に再現し、可視化やシミュレーション、機器の制御などの最適化などに活用するための技術を指す。たとえば、建築物の設計3Dデータとともに、センサーから収集した情報を基に、デジタル空間に本物そっくりな建築物を再現し、建設工程のシミュレーションなどが行われているが、それらに活用されている技術がデジタルツインだ。
重要なのは、この2つの技術が融合・補完しあうことによって、産業・都市に大きな変革をもたらすことができるようになってきている点だ。そうした、メタバース・デジタルツインを活用した変革を「メタ産業革命」と呼ぶ。そして、このメタ産業革命の実現において重要な役割を担うのが、ゲームエンジンというわけだ。
具体的に、どのように「メタバース」「デジタルツイン」「ゲームエンジン」が交わるようになってきたのだろうか。
融合が進む「ゲームの技術」と「産業界の技術」
具体的には、規制や既存の商慣習などに縛られないゲーム・コンテンツ領域で誕生した技術が、スパンの長い取り組みとなる産業・都市領域の取り組みを引っ張り、一方で産業・都市での取り組みがゲーム・コンテンツにフィードバックされるという関係性になってきているのだ。
また、人材面においても、ゲームエンジンや3Dクリエイターが産業・都市の領域において重宝され、活躍するケースも増えてきている。
どう交わる?「デジタルツイン」「メタバース」「ゲームエンジン」
これまでも産業領域では、3D設計データやIoTのセンシングデータに基づくデジタルツインの活用が進んできた。下図が製造業や建設業、インフラ管理、農業、スマートシティ・都市におけるデジタルツイン活用の一例だ。近年は、これらデジタルツインの技術進化に加え、メタバースやゲームエンジンといった技術が融合することによって、産業・都市の3D活用が加速している。デジタルツインの進化の過程としては下図の通りだ。
デジタルツインの進化の流れと、その流れにメタバースやゲームエンジンの技術が融合していく過程としては、まず先述の通り(1)デジタルツインが登場しあらゆる産業での活用が進みつつある。こうした中で、(2)DAPSA(ダッソー・アンシス・PTC・シーメンス・オートデスクの頭文字をとった筆者による造語)と呼ばれる大手デジタルツインプレイヤーによる買収を背景に、プレイヤーの集約が進んでいった。
こうして誕生した巨大な大手デジタルツイン企業は、製造業をはじめ、建設業、スマートシティ、モビリティなど、幅広い領域で統合的にデジタルツインサービス展開している。一方、大手総合系デジタルツイン企業との差別化を図るべく、特化型・低価型のデジタルツインサービスの展開を行う企業も出てきている。
こうした中、現在、(3)企業があらゆる目的で活用しており個別化している複数のデジタルツインを統合的に管理・シミュレーションをしようとする動きが進んでいるとともに、3D活用が誰の手にも届くような民主化が進んでいるそして、これらを実現するミドルウェアとして「統合UI基盤」を構築しようとする動きが出てきており、その基盤構築を支える技術としてゲームエンジン、そしてより高度なシミュレーションを支える技術としてメタバースが関係してくる。
後述する『Unity』と『Unreal Engine』といったゲームエンジンや、NVIDIAが展開している仮想空間の開発プラットフォーム「NVIDIA Ommniverse Enterprise」がそのミドルウェアにあたる。これら技術によりユーザーは、既存の3Dライブラリや複数のデジタルツイン、データをつないで統合し3D環境を構築することができるようになってきている。
また、メタバース技術を取り入れることにより、シミュレーションは高度化しており、たとえば、シミュレーションできる対象が製品・建物・設備などだけから、人や社会活動などに範囲が拡大しているのだ。
ここからは、主要なゲームエンジン『Unity』と『Unreal Engine』の特徴と、それぞれがどのように産業で活用されているかについて、詳しく解説していく。
『ポケモンGO!』のゲームエンジン『Unity』
先述の通り、産業・都市・自動運転など、あらゆる領域でゲームエンジンが活用されてきており、メタ産業革命でも重要な役割を担うようになった。さらに、ゲームエンジンは、ゲームエンジン内に3D空間を生成したり、シミュレーションを実施できるライブラリが含まれているほか、個別化・細分化する各種デジタルツインやシミュレーション基盤、データモデルなどを組み合わせることで、統合デジタルツイン・メタバースを実現できる。ここからは、『Unity』と『Unreal Engine』の特徴について解説していく。・特徴(1):複数のデジタルツイン・分析モデルを統合
Unityは、2004年設立のゲーム開発プラットフォーム企業である。Unreal Engineとともに世界で最も採用されているゲームエンジンであり、たとえば、「ポケモンGO!」など幅広いゲームにおいて活用されているほか、自動車、建築、航空宇宙、ロボティクス、医療など幅広い産業で活用されている。
産業・都市用途では、さまざまなデジタルツインや分析モデルが細分化しており管理が煩雑化している。これらをUnityを活用して統合し、用途や目的に応じたシミュレーションを実施できるようになることが強みだ。
・特徴(2):統合的なシミュレーションができる
Unityの強みは、ロボットなど個別機器の制御や動作モデルなど、現実空間に即したシミュレーションを実施できることにある。摩擦や抵抗などの物理計算もシミュレーションに加味することができ、自動運転や、ロボティクスなど幅広い複雑な用途で活用が進む。
ロボットのプログラミングについてはロボット企業や産業ごとに異なる言語や技術を習得する必要があったが、Unityでロボットをシミュレーション・ティーチングできるようにすることで、より簡易・柔軟にロボットを取り扱えるようになる。
また、パッケージ製品として提供されるデジタルツインとは異なり、自社の用途や目的に合わせて最適に調整できることもUnityを活用することで得られるメリットだ。
同社は、ローコードやノーコード開発を取り入れて、今後のロボット社会、自動化社会のインフラとなることを目指している。
『フォートナイト』のゲームエンジン『Unreal Engine』
・特徴(1):本業のゲーム技術を幅広い産業に無料提供Unreal Engineは、1991年設立、フォートナイトなどのゲームを提供しているEpic Games社によるゲームエンジンである。
もともとは同社のシューティングゲームの『Unreal』向けのゲームエンジンであったが、これらを標準化し、ゲーム業界はもちろんのこと、都市・産業・行政などへ提供している。後述の九州地方整備局の河川開発においてもUnreal Engineが活用されているほか、建築・都市・自動車業界・航空業界など幅広い産業での用途が広がっている。
Unreal Engineの特徴としては、ゲーム業界での活用については売上の5%を課金するモデルとなっているが、ゲーム用途以外では無料で提供されている点だ。3D開発エンジンを広く提供することで、ゲーム外を含む幅広い業界での活用のデータやノウハウを蓄積し、本業のゲームにフィードバックさせるサイクルを作る狙いだ。
・特徴(2):開発者エコシステムを支援
同社は他産業領域へ浸透する上で、開発者エコシステムの支援に力を入れている。たとえば1億ドル規模の開発者支援(Epic MegaGrants)を行い、開発者の育成・支援を行っている。
また、無償のトレーニングも実施し、開発者や導入を支援する企業の裾野拡大・育成を図っている。フォートナイトなど本業での収益を、ゲームのみならず幅広い領域で活用される3DプラットフォームとしてのUnreal Engineに投入し、次世代のビジネスモデルに向けた「投資」を行っているのだ。
・特徴(3):物理モデルにもとづく詳細シミュレーション
Unreal Engineなら、3Dの表現とともに実際の物理的なパターンに応じてシミュレーションも可能である。下の写真にあるように、自動運転のシミュレータにおいては、道のぬかるみや、雨の際の視界なども再現し、現実世界で起こりうるさまざまな状況を想定したシミュレーションが可能となっている。
これらにおいてもUnreal Engine上で道路はじめ周辺情報を3D構成し、その上で自動車のCADデータ、走行シミュレーションなどの既存データと統合してリアル環境に近いシミュレーションを行っている。
また、都市のシミュレーションにおいても人間の動作モデルをもとに、人流のシミュレーションや、それにもとづく街づくりを行える。その際、フォートナイトをはじめ、Epic Gamesがリアリティを追求したゲーム開発で培った高精度な3D技術が武器となっており、たとえば外科医の手術シミュレーションにおいてもUnreal Engineが活用されている。
同社は今後メタバースやデジタルツインにおける「インフラ」となるべく、本業としてのゲーム展開とともに、その技術・ノウハウを活かしたUnreal Engineの各産業への提供を加速する計画だ。
【次ページ】『Unity』『Unreal Engine』はどのようにビジネスで活用されている?事例4選をまとめて解説
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