- 2025/07/04 掲載
世界で進む原子力「3倍増」、電力需要爆増のAI時代に日本が下すべき「決断」とは
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。
AIが使う電力量は「1都市に匹敵」?
生成AIの急速な普及は、現代社会の生産性を劇的に向上させる一方、新たな課題を浮き彫りにした。すなわち、電力の「爆食」問題である。大規模言語モデルの学習や運用には膨大な計算能力が必要であり、それを支えるデータセンターは莫大(ばくだい)な電力を消費する。エヌビディアの最新GPUを搭載したサーバラック1台の消費電力は数十キロワットに達し、データセンター全体の電力需要は数万キロワットから、将来的には10万キロワットを超える規模になることも珍しくない。これは数万人規模の都市に匹敵する電力消費量である。
今後の日本のIT産業の成長、ひいては経済全体の発展は、安定的かつ安価な電力供給をいかに確保できるかにかかっている。電力インフラは、デジタル社会の競争力を規定する根源的な要素であると言える。

電力コストの問題は、すでに国内の産業競争力に明確な影響を及ぼし始めている。原子力発電所が安定的に稼働している関西電力や九州電力の管内と、大規模な火力発電に依存せざるを得ない東京電力管内とでは、電気料金に顕著な差が生じている。経済産業省『柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の必要性』(2024年9月)によれば、東日本大震災後、原発が1基も再稼働していない東日本では、既に12基が再稼働している西日本に比べ、電気料金が2~3割程度高くなっている。
このコスト差は、製造業の工場やデータセンターのような電力多消費型産業の立地戦略を左右する決定的な要因となり得る。現に、半導体受託製造世界最大手のTSMCが大規模工場を建設したのは九州電力管内の熊本県であり、国内のデータセンターも西日本への進出が顕著になっている。このままでは、東日本、特に日本の経済活動の中枢である首都圏の電力供給が、経済成長の深刻な足枷となるリスクは否定できない。企業の投資判断が電力コストによってゆがめられ、国土の均衡ある発展が阻害される事態は避けなければならない。
世界で進む「原子力3倍増」の動き
エネルギー問題は国内の産業立地にとどまらず、国家の安全保障と国際競争力に直結する。資源エネルギー庁の資料によると、日本のエネルギー自給率(2022年度)は12.6%、原子力と再生可能エネルギーに舵を切った韓国が20.7%、脱原発を選択したドイツでさえ35.3%であることと比較すれば、日本のエネルギー基盤の脆弱(ぜいじゃく)性は一目瞭然である。LNGや石炭といった化石燃料のほぼすべてを海外からの輸入に依存する現状は、中東情勢の緊迫化やシーレーンの寸断といった地政学リスクに対して極めて無防備な状態を意味する。化石燃料価格の高騰は、年間で数兆円規模の国富流出を招き、企業のコスト増や国民の生活負担増に直結する。一度燃料を装荷すれば3年程度発電に利用できる原子力発電は、エネルギー安全保障を確立し、国際社会における日本の交渉力を維持するための、現実的かつ不可欠な選択肢である。
世界的な潮流を見ても、2023年のCOP28では、日本を含む20カ国以上が2050年までに世界の原子力発電容量を3倍にするという共同宣言を発表しており、原子力をクリーンエネルギーとして再評価する動きが加速している。この国際的な競争環境の中で、活用できる原子力を稼働させないという選択は、自ら国際競争の舞台から降りることに等しい。 【次ページ】柏崎刈羽の「理解しがたい」遅延とは
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