• 2026/04/21 掲載

「労働安全衛生法」改正、努力義務でもアウト?建設業の“4大盲点”、対応は大丈夫?(2/2)

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ポイント2:設備貸与のルール厳格化と「自己責任」の終焉

■【制度の変更点】機械・設備の貸与に関する義務も明確化
 また、政令で定められた機械や設備、建築物などを他の事業者に貸与する場合のルールも強化されました。

 これまでは、貸与先が事業者であれば一定の配慮が求められていましたが、個人事業者については対応が曖昧になりがちでした。しかし今後は、貸与する相手の属性にかかわらず、一律で安全確保のための災害防止措置を講じる対応が求められることになります。

■【現場はどう変わる?】「管理の対象外」をなくす意識改革
 この改正のポイントは、単に対象範囲が広がったというだけではありません。これまで制度の隙間にあった「管理の対象外」とされていた領域が制度上も明確に位置付けられたことで、現場における安全管理の考え方そのものが見直されることになります。

 これまで相手に“任せていた”(自己責任としていた)部分についても、改めて自社の責任の範囲として捉え直すことが求められているといえるでしょう。

ポイント3:形式より「実態」重視へ、責任逃れはできない

 今回の改正で、安全管理の対象範囲の拡大と並んで重要視されているのが、「どのように管理しているか」が問われるようになる点です。すなわち、契約形態などの形式的な区分ではなく、現場の安全管理が「実態として機能しているか」がより問われるようになります。

■【制度の変更点】形式的な区分による「管理の空白」をなくす
 これまでは、同じ現場に複数の事業者や個人事業者が混在していても「元請と下請」「雇用関係の有無」といった形式的な区分によって、安全管理の範囲が曖昧になることもありました。

 しかし、改正後はそうした区分にかかわらず、現場に関わるすべての作業従事者について、適切な情報共有や連絡調整が行われているかが問われることになります。機械や設備の貸与に関しても同様です。

 いわば、これまで見過ごされがちだった「管理の空白」を放置することが許されない仕組みへと変わります。

■ 鍵を握る「リスクアセスメント」の視点
 ここで鍵となるのが、「リスクアセスメント」の考え方です。具体的には、以下の2点を改めて徹底する必要があります。

  • 誰が、どのような作業に従事しているか
  • それぞれが、どのような危険にさらされているか

 上記の2点を正確に把握していなければ、適切な安全対策は講じられません。今回の改正は、単に対象者を広げただけでなく、「誰がどのリスクにさらされているのか」を事業者自らが把握し、必要な対応を講じることを求めているといえます。

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安全管理で問われるのは、契約や雇用関係といった形式ではなく、現場で「誰が、どの作業に従事し、どの危険にさらされているか」という実態の把握だ。改正は、こうした“管理の空白”を放置しない方向へと現場対応を促している
(画像:本文をもとにAI(Gemini/Nano Banana)を使用して生成)

 形式的には問題がないように見える現場であっても、実態として安全管理が行き届いていない場合には、その責任が問われる可能性があります。今後は、「形式上どうなっているか」ではなく、「実際に安全が確保されているか」という視点で現場を見直すことがより重要になるでしょう。

ポイント4:「高年齢労働者」に潜む努力義務のリスク

 今回の改正でもう1つ重要なポイントとなるのが、高年齢労働者に対する安全対策の「努力義務化」です。労働者の高齢化が進む中で、転倒や墜落といった労働災害の増加が課題となっており、事業者に対して作業環境の改善や作業管理の見直しを求める必要性が高まっているためです。

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高年齢労働者では、労働災害の発生や休業の長期化が課題となっている。今回の改正では、こうした実態を背景に、年齢特性に配慮した作業環境の改善や作業管理が努力義務として位置付けられた


■【制度の変更点】高年齢労働者の特性に配慮した対策が「努力義務」に
 ここで注意すべきは、「努力義務」という言葉の捉え方です。一般的には「強制ではないから、実施しなくても罰則はない」と理解されがちですが、実務的にはそのように単純に考えるべきではありません。

 むしろ、法律に努力義務として位置付けられたことにより、「高年齢者の特性に配慮することは、社会通念上の義務になった」という認識が社会的に共有されたと捉えるべきです。つまり、対策を怠っている状態に対する正当な理由付けが、これまで以上に困難になります。

 さらに、突っ込んだ話をします。仮に、労働災害が発生した場合には、事業者は従来から判例上確立されている「安全配慮義務」の観点から、事業者の責任が問われることになります。

 安全配慮義務とは、労働者が安全に働けるように配慮する義務です。この義務の判断基準となるのは、主に以下の2点です。

  • 危険を予見できたか(予見可能性)
  • 適切な回避措置を講じていたか(結果回避義務)

 今回の改正により、高年齢労働者に特有のリスク(身体機能の変化による転倒など)が明確に位置付けられたことで、「高齢化に伴う危険性」は事業者にとって予見可能なものと評価されやすくなります。

 その結果、たとえば転倒や墜落といった災害が発生した際に、年齢特性を踏まえた対策を何も講じていなかった場合には、「本来取るべき措置を怠っていた」と判断される可能性が高まります。

■【現場で検討すべき視点】経験という強みを活かすための「環境づくり」
 実際の現場では、経験豊富なベテランに依存しているケースも多く見られます。しかし、加齢に伴う身体機能の変化は避けられず、反応速度の低下や判断力の変化が事故リスクに影響を与える可能性があります。事業者に求められるのは、「義務か否か」の線引きではなく、以下の視点での改善です。

作業環境の改善:通路の段差解消、照明の増強など
作業管理の見直し:身体的負荷の高い作業の軽減、適切な休憩の確保
健康管理:本人の自覚だけに頼らない、健康状態の把握

 同じ作業であっても、年齢や体力によってリスクの大きさは異なります。この点を踏まえた上で、作業配置の見直しや作業負荷の調整、作業環境の改善といった対応が求められます。また、国においては、こうした措置を適切かつ有効に実施するための指針が示される予定とされています。

 事業者としては、単に形式的に対応するのではなく、こうした指針を踏まえながら、安全管理について、「義務かどうか」で線引きをするのではなく、「リスクとして認識されているかどうか」という視点で対応を検討することが重要です。

 努力義務の位置付けを正しく理解することが、結果として事業者自身を守ることにもつながるといえるでしょう。

安全管理の「質」が問われる時代に

 今回の労働安全衛生法の改正の本質は、「形式的に問題がないか」ではなく、「実態として安全が確保されているか」がより厳しく問うものです。

 外部人材に対して十分な情報共有がなされているか、高年齢労働者の特性に応じた配慮が行われているかといった点は、今後ますます重視されることになるでしょう。

 これまでの運用で大きな問題がなかったとしても、それが今後も通用するとは限りません。むしろ、これまで見過ごされてきた“見えないリスク”にどこまで向き合えているかが、今後の安全管理の質を左右することになります。

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