- 2026/06/17 掲載
ホンダ最大2.5兆損失からの大逆転?EV敗北論を覆す「最強アップデート策」の全貌とは (2/3)
開発期間を半減、HV転用で進める「次世代戦略」
(1)の戦略的再配分は、直近で不可欠なハイブリッド車(HV)の充実である。そのための次世代ハイブリッドは、2023年式の車種と比べ30%以上の原価低減を行う。米国では、韓国のLGエナジーソリューションと合弁で設立したL-H Battery社のEV用生産ラインの一部を、HV用へ転用する。個別の仕向け地について、日本市場は軽自動車を中心にEVを充実する。国内で販売1位を、登録車(軽以外)を含め5年連続で獲得し、累計販売台数300万台を達成したN-BOXのEVを、2028年に導入する予定だ。登録車では、28年以降にヴェゼルをはじめ次世代HVを発売する。
次にインド市場について、インドの交通事情に合った全長4m以下の乗用車を投入する。
中国では、現地の企業と共同で、新エネルギー車(NEV)を素早く登場させ、原価低減と中国向けの商品性向上をはかる。
(2)のものづくりでは、開発費/開発期間/開発工程の3分野において、2025年に比べ半減させ、開発速度を高める。
(3)の外部リソースに関しては、ホンダ基準にこだわらず、業界で標準となる部品を積極的に活用し、原価を下げる。
これら施策を実施しながら、2050年におけるカーボンニュートラルの目標は維持し、EVの需要が高まれば対応できる体制を維持する。
ホンダのこの発表を受け、「EVからの後退」とか、「エンジンの復活」といった報道が見られるが、果たしてどうであろう。
ホンダ創業者の本田宗一郎は、1948年に本田技研工業を設立し、10年後の1958年には海外進出の一環として米国市場の調査を始めている。自動車先進国の米国での成功は、本田宗一郎の悲願であった。以後、米国での成功を目指して邁進し、シビックやアコードが米国でのブランド力を高め、顧客の中には、クルマはもちろん、バイクや芝刈り機までホンダ製で揃える者も現れた。
ホンダの軸足米が国であるとは、永年言われてきたことである。一方、現大統領による気候変動の否定や、輸入関税による貿易交渉などを通じ、世界の自動車メーカーが厳しい経営状態となり、三部社長が目指した2024年にすべての新車を電動化する難しさが顕在化し、中止を余儀なくされた。
EVの登場で、クルマの価値観が大きく変化した。モーター駆動が、自動運転の実用化へ導いた。そこには人工知能(AI)の技術が不可欠でもある。
三部社長は電動化を宣言した。だが、それだけでは社内が納得しにくかったかもしれない。環境適合性を高めるだけでなく、モーター駆動が自動運転実現の後ろ盾となり、運転免許を必要としない時代が訪れるかもしれないのだ。
もはや、数年後の市場に最適なクルマを既存の路線で商品企画し、開発し、売ればよいのではなく、まだ市場が十分に熟成されていなくても、自動運転を前提とした新たな交通手段の中にクルマを位置付けなければならない。こうなると、創造的な開発が不可欠になる。それは、研究所が得意とする分野だろう。
米国で強いホンダ“市場のリアル”
さらに今後は、SDV(Software Defined Vehicle)が、新たな市場を形成する礎になる。そこでこの開発機能も研究所の四輪開発に統合する。こうした手法は、米国のテスラや中国のEVメーカーが先んじている。今回のホンダの選択は、そこに、一刻も早く追い付き、追い越すための組織変更だ。
さらにホンダは、組織変更と同時にF1への復帰を明らかにした。これは偶然ではないだろう。
ホンダはその昔、F1を含めレースへの挑戦は、技術開発のためとしたが、同時に、人材育成が目的でもあるとしている。
たとえばF1は、世界を転戦しながら、今週の負けを2週間後には取り返す技術力と素早い対処力を技術者に経験させる。
ホンダは歴史的に失敗することを許す企業風土で知られるが、それは単に間違えてもよいという寛容ではなく、失敗を糧に一刻も早く挽回することを求める。そのためのF1挑戦であるのだ。
今回の組織運営体制の変更も、早い成果が求められるだろう。ホンダのF1挑戦が事業運営と一体化しているのは、そうした背景もあるのである。
これまでの間、ホンダは全力でEV開発に邁進していた。
2024年に栃木県の本田技術研究所で催された「ゼロ・テック・ミーティング」では、ギガキャストと呼ばれるバッテリーパックや、デジタル技術を生かした所有者の認証や、走行安全の確保など、米国テスラが率先して導入してきた次世代EVならではの価値を実用化しようとする姿勢を目の当たりにすることができた。
それらが棚上げとなったわけだが、EVを原点から見直し、価値付ける開発の成果は、当面注力することになる次世代ハイブリッド車(HV)で存分に生かされるのではないかとの期待がある。
裏付けは、日産のハイブリッドであるe-Powerだ。
e-Powerは、トヨタなどのHVと異なり、ガソリンエンジンは発電のみに用い、駆動はモーターだけで行う。つまり、走りはEVそのものだ。ただし、バッテリーをたくさん積むのではなく、ガソリンエンジンの発電機で代替する。
ホンダの現行HVであるe:HEVも、細部は異なるが、基本的にe-Powerと同様にモーターで駆動し、高速走行ではガソリンエンジンで走るところがe-Powerと異なる。次世代ハイブリッドと呼ぶ方式の詳細は明らかではないが、e:HEVの延長線ではないかと想像する。なぜなら、日産はe-Powerのセレナと、EVのリーフで、自動運転の実証実験を行っているからだ。
ホンダがこれまで進めてきたEV向けの技術を、日産と同じように転用できる可能性が高まる。
そう考えれば、当面の商品としてHVを充実させても、これまでEV開発で培ってきたことがムダにならない。 【次ページ】ホンダが狙う「15億人」市場とは
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