- 2026/07/13 掲載
ハイセンスはなぜ、日本で勝てるようになった?「日本で開発→中国で作る」逆転戦略
連載:家電で読むメーカー戦略図鑑
一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout 家電ガイド。日経BP社「日経ネットナビ」「日経ネットブレーン」「デジタルARENA」「日経トレンディネット」などを経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの構成などにも携わっている。
「20万円では売れない」──副社長が語る“勝負の値付け”
ハイセンスは、薄型テレビ市場でサムスン電子に次ぐ世界シェア2位を占める中国の総合家電メーカーだ。2011年に国内テレビ市場に参入し、2015年に冷蔵庫、2016年に洗濯機、2019年にはエアコンと順次参入してきた。今回発売された「HWF-D120XL」でドラム式洗濯乾燥機に本格参入することになった。省エネ性の高いヒートポンプ乾燥方式をはじめ、液体洗剤・柔軟剤の自動投入機能、温水洗浄機能、清潔さを保つ3つの槽洗浄コースなど、現代のトレンドとなる便利な機能を網羅している。これだけの性能を持ちながら、実勢価格は16万8,000円(税込み)というかなりのコストパフォーマンスを実現した。価格比較サイトにおいては一時期15万円を切る販売価格を記録し、売れ筋ランキングでも上位に食い込むほどの高い人気を獲得している。
HWF-D120XLは当初2025年5月頃の発売を予定していたが、日本と海外の住宅環境の違いや品質面での万全を期すため、あえて発売時期を遅らせる決断を下した。この決断の裏には、直近に導入した450Lの大型冷蔵庫「HR-DCH450」での反省がある。冷蔵庫の導入時、「日本メーカーと比べてこの程度の価格差なら売れるだろう」という希望的観測で価格を設定した結果、初速が伸び悩んだという。
ハイセンスジャパン副社長の山本一人氏は、発売からの売れ行きについて次のように語る。
「当初は19万8,000円くらいを想定していたのですが、思い切って魅力のある価格帯からスタートしようと考えて16万8,000円に再設定しました。結果的にハイセンスジャパンとしては、テレビ含めても今までに最も多く家電量販店に並んだ商品になり、想定以上に販売も伸びました。ヒートポンプ乾燥で省電力かつ仕上がりも良く、押さえるところをしっかり押さえた商品ということで、お客さまからも機能面と価格面でかなりご満足いただくことができました」(山本氏)
カギは“日本発”、常識破りの独自の開発体制とは?
この高機能と低価格の両立、そして日本の消費者に刺さる製品設計の背景には、ハイセンスが採用した独自のものづくり体制がある。通常、グローバルに広い販路と巨大な出荷台数を誇る海外大手メーカーが日本市場に参入する際は、スケールメリットを生かして良い製品を安く提供するために、海外向けに作られた製品を日本向けにローカライズするスタイルが主流となっている。
しかし、HWF-D120XLはそうした従来の枠組みにとらわれなかった。中国発の既存製品を日本向けに作り変えるのではなく、日本で開発・設計を行い、それを中国の製造拠点で生産するというスタイルを採用した。
これにより、日本の特殊な住宅環境や消費者のこまやかなニーズを的確に捉えつつ、グローバルメーカーならではの製造コストの優位性を生かすことに成功した。
開発に携わったのは、2021年に川崎市高津区に設立されたR&Dセンター(JRD)だ。JRDでは白物家電の要素技術研究や新性能創出、ハイエンド製品開発などに力を入れているという。山本氏は、JRDの位置付けについて次のように語る。
「JRDはハイセンスジャパン傘下の組織ではなく、グローバル全体の戦略の中で日本に作られたR&D拠点です。日本向け製品の設計も行いますが、それだけを開発する部隊ではありません。グローバル全体に向けた要素技術の開発もしますし、テレビなど黒物家電については、ハイセンス傘下で薄型テレビ『REGZA』シリーズを製造するTVS REGZAの研究部隊もここにいます。白物は日本の基準・法律に合わせた擦り合わせ、グローバルで使える技術開発などもやっています」(山本氏)
HWF-D120XLは国内で開発し、グローバルに展開する予定になっている。その狙いについて、洗濯機研究室シニアスペシャリストの今井俊次氏は次のように語る。
「我々は海外メーカーですので、中国で作ったものを日本風にカスタムしていく考え方を持っていますが、これでは決して安くはなりません。今回は、日本向けに開発を進めてグローバル展開するという流れで考えております。
自社で開発したDD(ダイレクトドライブ)モーターや自動投入の装置などグローバルで共通のものを採用しつつ、木造家屋中心で免震構造が必要な足回りは独自設計するなど、自分たちの製品に最適化する形で一定のコストに抑えられるように設計しています」(今井氏) 【次ページ】開発者が語る、「世界で類を見ない」日本市場の“特殊性”
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