- 2026/07/13 掲載
ハイセンスはなぜ、日本で勝てるようになった?「日本で開発→中国で作る」逆転戦略(2/2)
連載:家電で読むメーカー戦略図鑑
開発者が語る、「世界で類を見ない」日本市場の“特殊性”
日本の大手家電メーカーからスタートし、米国や韓国メーカーなどでも家電製品の開発に携わった経験を持つ今井氏は、日本の洗濯機市場が世界でも類を見ないガラパゴス的な特殊環境であると指摘した。「海外では洗濯機をコンクリートや石の床に直置きし、消費電力も2300Wなどの高出力が使用可能な環境が一般的です。一方、日本では木造家屋の中で60cm角の防水パンの上に設置する必要があり、電力も100V・1500Wという厳しい制限があります。さらに日本の水は軟水で、店頭に並ぶ洗剤の種類も数百種類に及ぶなど、あらゆる条件がグローバルスタンダードから外れています。
そのため、中国で販売されている製品をそのまま持ち込んで電圧だけを変更して販売するという安易な手法では、日本の消費者や厳しい目を持つバイヤーを納得させることは不可能です。日本の洗濯機市場は約400万台ですが、中国は約3000万台もあります。『日本ではどうあるべきか』を根本から考え、グローバルのパーツを活用してスケールメリットを生かしながらも、最初から日本市場に特化した設計・開発を同時並行で行う必要がありました」(今井氏)
発売延期、3万円値下げ…開発陣を苦しめた“引き算”の開発
2025年5月の発売予定から10月に延期され、想定価格が19万8,000円から16万8,000円と3万円も引き下げられたことで、開発に携わる今井氏の苦労は相当なものだった。「プロトタイプを作った後は、通常は“足し算”だらけです。これが足りないからとか、安全のためにといって部品を足します。最初の決定より安く作れるように守らなければなりませんし、中国側もコストを上げてくれません。既存の部品の形状を工夫したり、回転制御のソフトウエアを調整したりすることでトラブルをクリアしました。外注するとコストがかかる取扱説明書も、自分で一言一句を考えて作成し、徹底的なコスト削減を断行しました」(今井氏)
日本の消費者のニーズを満たす機能を搭載しつつ、実勢価格16万8,000円程度に抑えたことで、国内の家電量販店約2300店舗のうち、1800店舗に展開できたとのことだ。
「以前にいたメーカーでは、デモ機を全部提供していたこともあってほぼ2300店舗に並んでいました。しかし新興メーカーや中国メーカーはなかなか棚を取れません。今までの白物家電では700~800店舗くらいだったので、2倍以上に増えました」(山本氏)
これまで取り扱いがなかったヤマダ電機とケーズデンキでも取り扱われるようになったとのことだ。
「今販売されているメーカーを削らないと新しいメーカーを入れられないので、取り扱うためにはそれを突破する何らかの理由付けが必要になります。商品の魅力や価格、サービスなども重要視されます。今まで扱われていなかった量販店にハイセンス製品が置かれるようになったことも、我々の成長に大きく関わっているところです。海外ではオンライン販売の比率が3割から4割あるのに対し、日本は10%から15%くらいの間なので、量販店に並ぶことがとても重要なのです」(山本氏)
今やハイアールやハイセンス、美的集団(マイディアグループ)、TCLなどの中国メーカーが世界シェアの上位を占めており、中国製品を“安かろう悪かろう”と考える人は少なくなっているだろう。
とはいえ、国内で展開している製品を見るだけではその全貌を理解することは難しい。そこで家電量販店の幹部を川崎のJRDや中国・青島にある本社R&Dセンターへの視察に招待したりしているという。
「本社や工場、中国の巨大なR&Dセンターに来ていただくと、中国におけるハイセンスの規模に皆さん相当驚かれます。店頭に並んでいる製品もまったく違いますし、工場もフルオートメーションのラインが数多く稼働するなど製造設備もかなり進んでいます。海外の中での日本メーカーと中国メーカーの位置付けを見比べると、3年後や5年後には中国メーカーがさらに強くなると想像できるのではないでしょうか。それが中国メーカーの取り扱い拡大にもつながっているのではないかと思います」(山本氏)
「日本発」はどこまで通用するか?ハイセンスが練る世界戦略
HWF-D120XLは海外への展開を見据えて開発したもので、これをベースに中国への展開を予定している。今井氏は中国の洗濯機市場について次のように語る。「中国市場ではドラム洗濯機がおそらく8割ぐらいになっています。元々は洗濯専用と乾燥機を2台置くのが主流でしたが、中国でも日本と同じように1台で済む洗濯乾燥機がトレンドになると見ています。今回は日本向けに機能を考えましたが、今後はグローバルに向けた開発に日本のメンバーが入り、協力しながら世界戦略として出ていく考え方にシフトしていきます」(今井氏)
中国やアジア以外の展開も今後の課題だ。
「米国では洗濯機と乾燥機は別々ですが、欧州では日本のようにドラム式洗濯乾燥機が増えているなど地域ごとに異なります。日本では柔軟剤の使用率が9割ぐらいですが、米国では5割程度で、東南アジアでは柔軟剤の臭いが強いなど、それだけを取ってもバラバラです。洗濯機は1つのことが正解にならないので、アジア向け、オーストラリア向け、欧州向けなどを考える余地があります。その時に、日本向けに作った機能からどれだけ応用できるものが出せるのかが私の仕事になります」(今井氏)
「弱点は明白」──ハイセンスが越えるべき“最後の壁”
HWF-D120XLがこれまでの白物家電にはない店舗数に展開したことで、洗濯機事業は着実な第一歩を踏めたが、まだまだ課題はあると山本氏は語る。「洗浄力を上げるための泡洗浄や高濃度洗浄といった付加価値であったり、操作パネルの使いやすさなど、まだブラッシュアップできる要素はいくつかあります。また、基本は全部押さえたのですが、『これはハイセンスならではだよね』という特徴がまだできてないので、そこが今後の強化ポイントかなと思っています」(山本氏)
現状でも確かに足りない部分が筆者としても感じられる。それはアピールすべき機能を製品情報サイトなどでもアピールしきれていない点だ。
頑固な汚れを落とすために3回洗いをする「泥汚れコース」や、新開発の「ゆらゆら洗い」を用いることで型崩れを防ぎながら優しく洗う「洗えるスーツコース」や「ランジェリーコース」、使い古してゴワゴワになったタオルを元の柔らかさを復活させる「タオルリセットコース」などのダウンロードコースを用意している。スマホアプリを通じてダウンロードできる仕組みなのだが、これらのコースの紹介は製品情報サイトには記載されていない。
「我々のプロモーションやマーケティングは、国内メーカーに比べると弱点なのは確かです。中国語をそのまま訳したりする場合もありますし、『スーツを丸ごと洗える』とか『スーツが傷みません』みたいなことを日本人が分かる独自に表現したネーミングなどを付けないともったいないんです。シリーズ名やサブブランド、機能の特徴をどう表現するかなど、これからさらに頑張ることで国内メーカーにももっと追い付けるのではないかと思います」(山本氏)
新開発のタオルリセットコースは、温水と酸素系漂白剤を用いて柔軟剤の残りかすや皮脂汚れなどを徹底的に落とし、タオルを初期の状態に戻していくというものだ。洗うたびにタオルがゴワゴワになってしまう経験を持つ人なら誰でも魅力的に感じる機能だろう。
「タオルリセットコースは本当に便利なのですが、その言葉だけではなかなか伝わりにくい。機能が分かりやすい動画を制作したり、デモンストレーションなどの仕掛けを用意することで、『ハイセンスだとタオルがフワフワになるんですよ』と店頭のスタッフが紹介できるようになれば本当に強みになると思うんです。しかし店頭のフォロー体制も国内メーカーに比べて少ないのので、そこを今後チャレンジして変えていきたいと思っています」(山本氏)
国内メーカーのドラム式洗濯乾燥機は、だいたい9月から10月頃に発売される。発売当初は40万円前後とかなり高額なフラッグシップモデルも、半年後には20万円前後と半額近くにまで下落する。フラッグシップモデルに近い機能を搭載しつつ、16万8,000円前後という驚異的な安さで登場したHWF-D120XLも、相対的に価格競争力を失ってしまうというのが実情だ。
ハイセンスジャパンは2026年2月に、ヒーター乾燥方式を採用するエントリーモデルのドラム式洗濯乾燥機「HWF-D100SL」(実勢価格12万8,000円前後)を発売した。まだラインアップは2機種にとどまっているが、今後はHWF-D120XLを超える高性能かつ多機能な製品を発売する予定となっている。
ハイセンスのドラム式洗濯乾燥機は日本の市場でまだ存在感を出しているとは言い切れない。しかし「そこそこの性能で安い」ではなく、「フラッグシップモデルに近い高性能で安い」製品を出せることをはっきりと示した。それを認めた家電量販店が取り扱いを増やしたことで日本の消費者との接点が大幅に増えることになった。
ハイセンスが今後、機能の見せ方や店頭での伝え方を磨いていけば、日本の白物家電市場でも存在感を増していく可能性は十分にあるのではないだろうか。
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